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『天界最強』

 竜界の序列2位――『裁光竜』ラードニアは光を操ることができる。

 光の速度は1秒間に30万キロ。ラードニアが本気を出せば、僅か1秒で人間界を1周できるのである。

 それだけ聞くなら、ラードニアは絶対無敵だろう。光の速さに対応することなんて、生物には不可能なのだから。


 ――しかし。


 ラードニアも生物である。

 ラードニアは光を操ることができるだけで、身体が光で構成されているわけではない。

 光を操るには魔力が必要であり、光速で動いたり攻撃を撃ち出すには凄まじい量の魔力が消費される。


 ――勝機はそこにある。


 先手は、私だった。

 光速では動けなくても、常軌を逸した速さであることは変わらない。勝利するための絶対条件は、ラードニアを自由に動かさないことだ。

 開始早々の光速特攻を警戒していたが、ラードニアは躱されることを警戒したのかそれはしてこなかった。


「――『焔銀樹踊えんぎんじゅとう』」


 ラードニアが魔法を使う前に、私は地面に手を当てる。その瞬間、地面から芽がひょっこりと顔を出し、芽はすくすくと成長して銀色の大樹と育つ。

 枝の先には銀色の葉が生え、銀色の花が咲く。風に揺れて花からは銀色の粉が舞い、ふわふわと浮いている。


「カレっち、いきなりそれ使っちゃう?」

「開始早々これを使うくらい、おまえを警戒しているってことだよ。初見殺し3人衆の竜界担当さん」

「3人衆ってことは、あと2人いるの?」

「天界と魔界に1人ずつね」

「あは、カレっちにそこまで言わせるなんて、どのくらいイカレた魔法を使うのかあたし気になっちゃうよ」


 銀色の大樹が育ち切った瞬間、ラードニアがティアレを抱えて私から距離を取る。ラードニアが距離を取ったのには、風に舞う銀色の粉が関係している。


「カレン、この粉は……?」

「私の魔力だよ。生物がその粉に触ったり呼吸で体内に入れたりしたら、身体の内部から燃えちゃうんだよ」

「はい!?」


 私の話を聞いた瞬間、サツキが変な声を出す。


「大丈夫、私が敵意を持った奴にしか効果ないから。ティアレ戦でサツキが証明してくれたから使えるんだよ」

「そ、それならよかったです。さすが天界最強というべきでしょうか。頭のおかしい魔法を使いますね」

「言い方ひどくない!?」


 呼吸即死。接触即死。そんな粉が、銀色の大樹から常時生成される。

 普段ならそこまではしないが、重傷を負っている私は移動速度が落ちて反応速度も鈍っているため、一瞬の判断ミスが死に繋がる。


「木を切りたいけど魔法は効かないし、遠距離で攻撃するしかないよね」

「サツキ、私の側に」


 ラードニアが手を動かそうとした瞬間、私はサツキを抱き寄せる。

 刹那、ラードニアの手が光り――


「――『紫光一閃しこういっせん』」


 光の刃が、音を置き去りにする速度で撃ち出される。確実に仕留められる時じゃないと、光速は使ってこないわけか。光速じゃなければ躱すのは容易。距離もあるし、サツキを守りながらでもいける。


「えっ? ええっ?」


 サツキには、ふと気づけば地面が抉れているようにしか感じられないだろう。

 ポカンと口を開けることしかできていない。


「サツキ、舌を噛むから喋らないで――『焔天煌々えんてんこうこう』」

「あひぇ?」


 魔力を燃やし尽くす白銀の焔槍。

 私が指を動かせば、無限の槍が標的を燃やし尽くすまで追尾し続ける。ラードニアが遠距離で来るなら、私も遠距離攻撃である。追尾型なので、どれだけ速くても関係ない。スタミナが無くなるまで逃げ続けろ。人間界1周、背後からの光速特攻に備え、私とサツキは銀色の大樹の根元に移動する。銀色の粉の中にいれば、不意打ちを受けることはない。


「いけー!!」

「ちょいちょいちょおおおい!! さすがにそれはカレっち卑怯じゃない!? 銀色の粉のせいで光速特攻もできないし、追尾型とか聞いてないんだけどー!! 重傷とか関係ないじゃん!!」

「あーあーきこえなーい!!」


 白銀の焔槍から逃げながら――

 ラードニアが泣き叫んでくるが、私は聞こえないふりをする。

 アメルに血を出させたんだ。これくらいはさせてもらわないとね。死んだら死んだで結果オーライってことで。


「私の村を滅ぼしたドラゴンが、カレンの攻撃できゃんきゃん泣き叫ぶ姿なんて……正直見たくなかったですね」

「サツキ、なんかごめんね。一応言っておくけど、ラードニアはめちゃくちゃ強いからね。私がちょっと大人げないことをしているだけで」

「さっきまでの殺伐とした空気はどこへ行ったのですか……? 如何にも血で血を洗う戦いをしますという雰囲気だったでしょう」


 苦笑するサツキ。

 私、アズリオン、ルヴィエラ以外が戦えば、ラードニアは最強の相手である。音速以上、光速未満。光速特攻に備えなければいけないのだから。


「く、くそカレっちいい……」


 時間が経過するにつれ、ラードニアの動きが鈍くなってきている。私も余裕そうに振る舞ってはいるが、脇腹が痛くて泣きそう。

 重傷の私がサツキを守りながらラードニアと戦えているのは、12000年前に起きた天竜戦争の経験があるからである。

 ラードニアの光速特攻を知らなかった当時の私は、全魔力消費の光速特攻により深手を負わされてしまった。腹部に風穴を開けられて血はドバーッて出るし、ルフィアがいなかったら死んでいたかもしれない。

 

「ラードニア、そろそろ降参してボコられろ!!」

「やだし!!」

「このまま続けてもキリがないって!! ボコられたくないなら、竜界に帰って早くティアレを治療してやれ!! 見逃してやるから!! アメルも生きてたし!!」

「ティアレは心配だけど、あたしは負けたくない!! 殺すとかガチトーンで言っちゃったし、今更引き下がれないっての!!」

「聞かなかったことにしてあげるから!!」

「貸しを作っちゃうじゃん!!」

「天界と竜界の最高戦力が、きゃんきゃんわんわんくだらない喧嘩をしないでください。恥ずかしくないんですか」


 私とラードニアの言い合いに、サツキが乱入してきた。


「おまえ誰だし」

「滅竜の里の出身、サツキ=サイオンジですよ」

「滅竜の里、どこかで聞いたような」

「貴方たちが消し飛ばした、竜狩りの一族が住んでいた里ですよ。忘れたとは言わせませんよ」


 サツキに言われ――

 ラードニアは思い出したのか、ポンと手を叩く。

 

「思い出した!! あたしとルーちゃんが消し飛ばしたとこだわ!!」


 笑みを浮かべるラードニア。

 ラードニアの反応を見て、サツキは一呼吸おいてから質問を投げかける。


「どうして、滅ぼしたんですか」

「どうしてって、1つしかないじゃん。滅竜の血を絶やすために決まってんじゃん」

「え?」


 ラードニアの言葉に、驚愕の表情を浮かべるサツキ。


「あたしんとこの巫女さんが予言したんだよね、滅竜の里に1000年に1人の天才滅竜魔導士が生まれたって。魔剣ドラゴスティアの封印を解かれちゃうとあたしらドラゴンはすっげえ弱体化しちゃうからね、あたしらの脅威になる前に殺しとこうってなったわけ」

「なっ……」


 1000年に1人の天才滅竜魔導士。

 

「それにしても、里全体を消し飛ばしたのに生き残りがいるなんて思わなかったわ」

「師匠のスパルタ修行がきつすぎて、こっそりと里から抜け出して町に行っていたんですよ」

「運がいいんだね」

「ほんと、びっくりしましたよ。お土産を片手に里への帰り道を歩いていたら、2体のドラゴンが里を消し飛ばすところを目撃してしまうんですから」


 あと数分、帰宅が早かったら。

 サツキは、里の住人と一緒に消し飛ばされていたわけだ。


「あたしらのこと恨んでる?」

「もちろん、友達も家族も殺されたわけですから。今すぐにでも敵討ちしたいですよ」

「おまえを殺せば滅竜の血はこの世から消えるし……あたしはいいぜ、敵討ちに付き合ってあげても」

「ありがとうございます。しかし、今の私が戦っても1秒で殺されます。そういうわけで、私に修業期間をくれませんか」

「やだよ、待つのめんどいし」

「これを見ても、私の頼みを聞かないと」

 

 サツキは剣魔法を起動させると、黒色の剣を生成した。その瞬間、興味深そうな表情を浮かべるラードニア。


「魔剣ドラゴスティアのレプリカじゃん。なるほど、これを生成できるってことはおまえが1000年に1人の天才滅竜魔導士ってわけか」

「最後の竜狩りとドラゴンの戦いが1秒で終わったらつまらないでしょう」

「確かにそうだね。その話乗ったわ。特別サービスってことで10年だけ修業期間をあげるからそれまでに強くなってよ。カレっちに育ててもらえばあたしの前に20秒くらいは立てるようになるっしょ。カレっち降参、おとなしく竜界に帰るからこのしつこい焔槍止めてくんない」


 ティアレを右手に抱きかかえ――

 左手を上げ、降参のポーズをしてくるラードニア。

 

「カレン」

「サツキが言うなら」


 サツキに頭を下げられては、断るわけにもいかないので――

 光速特攻を警戒して『焔銀樹踊えんぎんじゅとう』は残したまま、『焔天煌々えんてんこうこう』だけを消滅させる。


「怖かったわマジで。死ぬかと思ったわマジで。超やばかったわマジで。ルーちゃんクソだわマジで。カレっちを殺せとか無理ゲーさせやがってクソすぎるわマジで」


 息を切らしながら、ティアレを地面に下ろすラードニア。


「ルヴィエラも怖いなまったく。思い通りにいかなかったらすぐ殺すとかじゃなくて、話し合いとかもうちょっと穏やかな方法でやれないのかな」

「マジそれな、カレっちと戦いたいなら自分だけで戦えばいいのにホント。可愛い部下を巻き込むなっての。ティアちんもボロ雑巾になってるし」

「私が竜界に行って、部下を大切にしろってルヴィエラを怒ってあげようか?」

「あたし的にはそうしてほしいけど、ガチバトルになったら竜界滅亡するからパスだわ~」

「あはは~」


 私とルヴィエラが本気の殺し合いをすれば、竜界なんて1時間もあれば生物の存在できない死の世界へと変化するだろう。


「話はまとまったことだし、ティアちん連れてあたし竜界に帰るわ。ルーちゃんにはそれっぽい言い訳しとく」

「うん、やばかったら人間界に逃げてきていいからね。私が守ってあげるから」

「カレっち好き、ちゅっちゅしたいけど粉のせいで近づけない」

「ちゅっちゅは遠慮するかな……」


 苦笑する私に――

 ラードニアは投げキッスをすると、黄金色のドラゴンに姿を変えた。

 透き通るような碧眼。黄金の角。黄金の大爪。2対4枚の黄金の翼。全身を覆う黄金の鱗。彼女の姿を見た者は、無意識に「美しい」と声を洩らしてしまう。


「じゃあ、10年後に会おうね。カレっち、サツキン」

「うん」

「サ、サツキン……?」


 私とサツキに挨拶を済ませ――

 ラードニアは優しくティアレを咥えると、翼を広げて夜空に舞い上がるのだった。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!

みなさんに楽しんでいただけることが、執筆活動の原動力になっております!!

これからもよろしくお願いします!

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