『親友』
視界を覆う砂煙。
桜髪の少女に抱き着かれたまま、わたしは砂煙が晴れるのを待っていた。
力ずくで抜け出そうとは思ったが、相変わらず敵意を向けようとすると力が抜けてしまうので大人しくしている。
「ひええ、すごい爆発だったねえ。カレン、怪我とか無い?」
「爆発の衝撃で全身に岩とか石とか当たりまくって傷だらけだよ。身を守ろうと思ってもおまえのせいで動けないし。おまえこそ無事か?」
「私は無事だよ。カレンを盾にし……カレンが守ってくれたからね。それとさぁ、私の名前はおまえじゃなくてアメルだよ。カレンどうしたの? 頭でも打っておかしくなったの? いつものカレンなら私のことをおまえとか言わないよ」
「さっきから気になっていたけど、カレンって誰だよ。わたしはカレイアだよ。人違いじゃないの?」
「人違いじゃないよね、サツキちゃん」
桜髪の少女に声を掛けられ、姿勢を低くしていたメイドが話に入ってくる。
「はい、人違いではありません。それにしても、別れる前までは正常だったのに……カレン、いえ、今はカレイアでしたか、もしかして、ティアレとの戦いで何かあったのですか?」
別れる前までは正常。ティアレとの戦いで何かあったのですか。メイドの言葉から、わたしはピンとくる。
「なるほど、そういうことか。おまえら、私の仲間か」
「「え?」」
きょとんとした表情で、わたしを見つめてくる2人。
「違うのか?」
「いや、その通りだけど……カレン、本当に何があったの? なんで私たちのことを忘れちゃっているの?」
桜髪の少女に泣きそうな表情で見つめられ――
わんわんと泣かれてはどうしようかと困っていた時、ティアレへの攻撃を終えたネプシーが話に入ってくる。
「そこのメイドちゃんはなんとなく気づいているかもしれないけど……アメルちゃん、姿形は同じでもそこにいるのはカレンちゃんじゃなくて、カレイアちゃんだよ♪」
「どういうこと?」
「カレイアちゃんは、クソデブ変態神のせいでちょっとばかし特殊な体質でね~♪ カレイアちゃんの中には別のカレイアちゃんがいるんだよ~♪」
「待って、話がまったく飲み込めないんだけど。カレンじゃなくてカレイア? 別のカレイア? 頭の悪い私にも分かるように言ってよ」
桜髪の少女に疑問符が浮かんでいた時、やれやれと肩を竦めながらメイドが口を開く。
「多重人格ってことですよ」
「それって、小さい時のトラウマとかでなっちゃうやつだよね?」
「はっきりいって、カレンの故郷はクソです。クソ以下です。クソすぎる故郷が原因で多重人格になってしまったのだろうと私は予想します。カレンの自称お姉様、私の予想はあっていますか?」
メイドに視線を向けられ――
ネプシーは一瞬だけ表情を曇らせ、にっこりと笑みを浮かべる。
「あはは~♪ ネプシーちゃん驚いたな~♪ そして嫉妬しちゃうな~♪ メイドちゃん、カレイアちゃんにすっごく信頼されてるな~♪ そこまで知っているってことは、カレイアちゃんの正体も知っている感じか~♪」
「天界の序列3位――『天銀』カレイア。凄まじい魔力、美しい容姿、銀髪紅眼、魔を滅ぼす銀色の焔、熾天使カレイア伝説を読んだ者なら、大人も子供も関係なく憧れずにはいられない絶対的な存在です」
えっへんと、ふんぞりかえるメイド。
故郷の話をするなんて、私はこのメイド――いや、サツキを心から信頼していたらしい。
「やっぱり、あれは仮装じゃなかったんだ……」
「仮装?」
「私とカレンが初めて会った時、カレンは天使の姿をしていたんだよね。羽があって輪っかもあって、黄金色の鎖に縛られた状態で空から落ちてきたの。私に姿を見られて、カレンはなんて言ったと思う? 天使の仮装をして身体に鎖を巻き付けて遊んでいたら崖から落ちたって言ったんだよ? 今考えると、おかしくて笑っちゃうよね」
私よ、もっとマシな言い訳は無かったのか。
私が言ったことなのに、わたしまで恥ずかしくなってくるじゃないか。
「あはは♪ カレイアちゃん可愛い~♪」
「カレンらしいですね」
「私もどうして怪しまなかったのか不思議でたまらないよ。まあ、盗賊に襲われて正常な判断ができなかったんだろうけどね」
桜色の少女は溜め息を吐くと、わたしの身体に抱き着くのをやめた。
解放されたわたしは、ゆっくりと立ち上がる。
「よし、身体の力が戻ってきた」
「ごめんねえ、カレイアちゃん。苦しかったよねえ」
「苦しくはなかったけど……ほんと、おまえ何者だよ。おまえを殺そうとしたら身体が動かせなくなるし」
私の質問に――
桜色の少女は服に付いた砂汚れを手で払うと、真面目な表情で言ってくるのだった。
「何者もなにも、私はカレンの親友だよ」
「親友って、おまえは――」
桜色の少女の発言に対して――
わたしが言い返そうとした時、視界を覆っていた砂煙が晴れてきた。
「そこ~♪ 話はあとだよ~♪ ドラゴンちゃんが見えてくるよ~♪」
砂煙が晴れると、ティアレの姿が見えてくる。
「うぐ……」
ネプシーの一撃をくらい、全身傷だらけのティアレ。
和服はボロボロで、白生地の部分が血液で赤く染まっている。
「あちゃ~♪ やっぱり封印されたままじゃあ殺せないか~♪」
「権能、の大半を封……印された……ゴフッ、状態でこの威力……とは、まったく、ふざけたアホロリじゃのう……ゴボッ、ペッ」
口内に溜まった血液を、地面に吐き出すティアレ。
「竜界でネプシーちゃんと戦えるのは、ルヴィエラちゃんとラードニアちゃんだけ~♪ 残念だけど~♪ ネプシーちゃんにとって、ドラゴンちゃんは道端の石ころ同然なんだよね~♪」
「言うでは、ないか。つまずい、ても知らんぞ……」
「つまずいたりしないよ~♪ ネプシーちゃんはドジじゃないも~ん♪ だけど、アメルちゃんがつまずいたら危ないから壊しちゃうね~♪」
満身創痍のティアレに、ネプシーがとどめを刺そうとする。
命を刈り取る瞬間にもかかわらず、満面の笑みを浮かべたままのネプシーと、死がすぐそこまで迫ってきているのにもかかわらず不敵な笑みを浮かべるティアレ。
――敗北を受け入れたのか、それとも諦めていないのか。
ティアレの最期に、わたしが違和感を抱いていたときである。夜が消え、天空から撃ち出されし光の槍がネプシーを撃ち抜いた。
「やば♪」
「ドン、ピシャリ、ナイスタイミングじゃ……」
そう言い残し、ティアレは地面に倒れるのだった。
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