『天銀VS冥闇竜』
「そういうわけだから、ティアレには夕飯になってもらうよ」
魔力を解放して、私は戦闘態勢に入る。
深手を負った状態で、竜界の序列3位――『冥闇竜』ティアレと戦うことにもなれば、サレヴィアの時みたいに遊んでいる余裕はない。ティアレだけならまだしも、竜界から増援でも送り込まれてきたら勝ち目がない。
「夕飯になるのは貴様じゃ。爪でぐちゃぐちゃにしてハンバーグにしてやる。天使のハンバーグは竜界の人気メニューになるぞ」
「きもちわるっ」
「貴様が言うか!! ドラゴンの丸焼きも気持ち悪いわ!!」
ティアレは翼を広げ、夜空に舞い上がった。大きく口を開けており、闇のブレスを撃ち出すつもりだろう。
私達が戦っているのは港町の中心地。闇のブレスが逸れてしまえば港町が消し飛んでしまうので、場所を変えなければならない。
「まったく……」
白翼と天輪を顕現させ、私は熾天使の姿に変化する。
全力を出していいのなら、ティアレなんて瞬殺である。しかし、サレヴィアの話を聞いてしまったことで、私は力を押さえなければならない。サレヴィア曰く、私が全魔力を解放したら大陸は火の海になり、世界規模の異常気象が起こってしまうらしい。エンデヴェークの件もあるし、本当に成り兼ねないのでやめておく。
「――『冥闇竜の咆哮』」
ティアレによって、闇のブレスが撃ち込まれた。
漆黒の光。それは1発だけで港町アクリナは地図上から消し飛ばす威力を持っている。
しかし、そんなことは私がやらせない。
「ねえ、町ごと消し飛ばすつもり?」
「……相変わらず、反則級の魔法じゃのう」
私は『銀ノ焔』を起動させ、闇のブレスを燃やし尽くす。どんなに強力でも、それが魔法であるならば私の前では無力である。
銀色の焔と闇のブレスが衝突した影響で、凄まじい衝撃波が発生する。建物が倒壊し、町民たちの悲鳴が聞こえてくる。
「ティアレも人のこと言えないよ。闇を操るとか卑怯だし」
私は白翼を広げ、夜空に舞い上がる。
銀色の焔が夜を照らし、熾天使カレイアと冥闇竜ティアレの姿が露わになってしまう。
「カレイア、町民たちに姿を見られておるが、殺さなくてよいのか?」
「顔は見えていないだろうし、殺す必要はないよ。それよりも場所を変えよう。さっきの衝突で町に被害が出ちゃってるから」
「断るといったら――」
「こうなるよ」
私は一瞬で距離を詰め、ティアレの右腕を引き千切った。
ぶちりという音と、ティアレの悲鳴。
「う、ぐ、うぐああああああああああああああああっ!!!!!」
「うるさいよ」
悲鳴を上げるティアレの顔面を、私は思いっきり殴り飛ばす。顔面を殴られたティアレは高速回転し、港町アクリナの外に吹き飛んでいく。
「ぐふ……」
「素直に従っておけば、右腕を千切られることはなかったのにね。これは夕飯にさせてもらうね。唐揚げにしたら美味しそうだし」
私は地面に降りると、頬を赤く染めたティアレに話しかける。ダメージを負ったせいだろうか、ティアレは人間の姿に戻ってしまっている。
「くそ、あそこでしくじらなければ……」
「うん、惜しかったよね。あと少し躱すのが遅れていたら内臓をやられていたもん。あれは死ぬかと思ったよ」
「そうか、妾は天界の序列3位――『天銀』カレイアを死の一歩手前まで追いつめることができたのか」
満足そうに、眼を閉じるティアレ。
「なにしてんの?」
「殺せ、もう思い残すことはない」
「いや、頑張ろうよ」
「無理を言うな。全身が痛くて立ち上がることすらできん」
「嘘はよくないね。竜界の序列3位――『冥闇竜』ティアレが、さっきのよわよわパンチでくたばるわけがないもん。腕だって治せるくせに。油断を誘おうなんて、そんなずるいことしないでよ」
「クハッ……」
ティアレの右手が、ドロドロとした黒色の物体に変化した。
そして、私に覆い被さろうとしてくる。
「きもい!!」
嫌な予感がしたので、私は黒色の物体を燃やし尽くす。
「隙の無いやつめ」
「どうせ、ろくでもないやつだよね!? 魔力吸収とか精神汚染とか!?」
「凄いな、どっちも正解じゃ」
「性格悪いな!!」
一瞬で腕を生やし、ニヤニヤと笑ってくるティアレ。
今すぐにでも『銀ノ焔』で焼き殺してもいいが、アメルの恩人だから殺すのは避けたい。適度にボコって竜界に帰らせたいが、ティアレには物理攻撃が効きにくい。
「どうやら、貴様は妾を殺したくないらしい。銀色の焔を撃ち出しさえすれば5秒で勝負が着くというのに」
「アメルの恩人だからね」
「殺戮天使とあろうものが、随分と丸くなったのう!! 銀色の焔さえ撃たれなければ、貴様など恐れるに足らんわ――『瞑目終誘』」
ティアレが地面に触れた瞬間、私の足元が黒く染まる。
底なし沼に落ちたように、ずぶずぶと私の身体が沈んでいく。私は抜け出そうと『銀ノ焔』を起動させ――
「こんなもん、私に効かな――」
「貴様に魔法が効かぬことは百も承知。ならば、これはどうじゃ?」
私の意識が逸れた瞬間、ティアレが和服の袖口から短剣を2本取り出す。
そして、私の――
「うぐ……」
両肩に、それぞれ1本ずつ投擲した。
2本の短剣が突き刺さったせいで、私の両腕は力なく垂れさがってしまう。
「ルヴィエラ様の言う通りじゃ!! 貴様の『銀ノ焔』は、魔力を持たない物体は燃やせない!! 両腕を封じられれば攻撃できまい!!」
ティアレが、私の懐に潜り込んでくる。
目の前に迫りくる死。両腕は上がらず出血が多い。ズキズキと痛む脇腹。絶体絶命、そう思った時、頭の中でぷつんという音がした。
――その直後である。
わたしの両肩に刺さっていた短剣が一瞬で灰となり、腕を動かせるようになったわたしはティアレの右手を掴む。
「……わたしを殺そうなんて、3億年早いんだよ」
「ぎゃあぁぁぁぁぁあああぁぁぁああぁぁああああああっ!!!!!」
わたしに握られた瞬間、ティアレの右手が灰と化す。
凄まじい速度で灰化は進行していき、灰化が肩に到達する直前でティアレは一切の躊躇もなく肩から下を切り落とす。
「へえ、肩から下を切り落として灰化を止めたか」
「はあ、はあ、貴様なにをした!? いや、それよりも貴様は何者じゃ!?」
ティアレの問いに――
きょとんとした表情を浮かべながら、わたしは口を開くのだった。
「不思議なことを言うんだね、わたしはカレイアに決まっているじゃないか」
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