『私が死んだら』
「なるほど、レイン・ドゥクスアか。食後の運動には最適じゃのう」
レイン・ドゥクスアを見て、笑みを浮かべるティアレちゃん。
からんころんと下駄の音を鳴らし、アクアブレスを撃ち出そうとしているレイン・ドゥクスアに近づいていく。
「ティアレちゃん、どうしてきたの!? レイン・ドゥクスアは危ないんだよ!?」
「水鉄砲しか吐けぬ海蛇が危険とは冗談が下手じゃのう。そこまでしておもちゃを独り占めしたいか」
「これは、冗談じゃなくて――」
私が駆け寄ろうとした時――
丸腰のティアレちゃんに、レイン・ドゥクスアがアクアブレスを撃ち出した。
レイン・ドゥクスアのアクアブレスは、ダイヤモンドの鎧すらも貫いてしまう。そんなものを正面から受けてしまえば――
「かゆい」
「え?」
信じられない光景に、私は目を疑ってしまう。
レイン・ドゥクスアのアクアブレスを正面から受けておきながら、なんとティアレちゃんは無傷で立っているのだ。
痛がるならまだしも、かゆいとか聞こえてきたら夢を疑うしかない。
――その光景に驚いたのは、私だけではないようで。
2発、3発、4発と――
レイン・ドゥクスアがアクアブレスを撃ち出してくるが、ティアレちゃんに効果はない。
「ぶええっくしょん!!」
いや、効果はあった。
水を浴びたせいか、くしゃみをするティアレちゃん。
「いや、おかしいでしょ!!!」
絶叫せずにはいられなかった。
ダイヤモンドの鎧を貫くアクアブレスを受けて、かゆいで済むわけがない。
「ぶええっくしょん!! ぶええええええっくしょん!! ぶるぶる、やはり寒夜に水浴びはまずかったのう」
「水浴び……?」
「妾の身体は寒さに弱くてのう。体温の低下で眠くなってきおった。悪いが、妾は帰らせてもらうぞ。海蛇も逃げておるし」
海の方を振り返ると、レイン・ドゥクスアの姿は無かった。アクアブレスの効かないティアレちゃんを危険と判断して、海中に逃げてしまったのだろう。
「助かった……」
ぺたんと地面に座り込む私。
ティアレちゃんが現れていなかったら、私は今頃アクアブレスに身体を吹き飛ばされて肉片になっていただろう。
ほんと、過去に戻れるのなら、自信有り気に1人で討伐するとか言っていた過去の私を殴りたい。おまえは雑魚だと罵りながら顔面が腫れ上がるまで殴って、去り際に唾を吐きかけてやりたい。
「どうした、帰らぬのか? しっかりと身体を休めておかぬといざという時に動けぬぞ? 依頼も残っているのであろう?」
ティアレちゃんが振り返ってくる。そうか、ティアレちゃんはレイン・ドゥクスアとの戦いを食後の運動だと思っているんだ。
「依頼は失敗したよ。私の依頼は、レイン・ドゥクスアの討伐。1人で倒せるとか大口を叩いておきながらボロクソに負けたよ。あそこでティアレちゃんが助けてくれなかったら私はどうなっていたか」
私が肩を竦めると――
ティアレちゃんは笑みを浮かべ、予想外の発言をしてくる。
「これは驚いた。言い訳は無しか。おぬし、食堂で出会った時から魔力が底を突いておったであろう。本調子ではなかった故、勝てぬのは当然だと思ったりせぬのか」
「えっ」
どうして、私の魔力が底を突いていたことを知っているのか。戦闘中に知ったのなら理解できるが、ティアレちゃんは食堂で出会った時からと――
「人間の1匹や2匹、見捨てればよいものを……海蛇の討伐は魔力が回復してからでもよかったのではないか?」
「ううん、そうはいかないよ。この世界に見捨てていい命なんか存在しない。どんな時でも誰かが困っていたら助けてあげるのは当然だよ」
「赤の他人を助けるために自分が命を落とせば元も子もないであろうが……おぬしが死んだらカレンとサツキはどうなる」
「……それは」
なにも言い返せない。
そうか、私が死んだらカレンとサツキちゃんが悲しんでしまう。あの事件で家族を失う悲しみは分かっていたはずなのに――
――カレンたちは心配しているだろうな。
「反省しておるようだし、説教はこれくらいでよいかのう。それで、レイン・ドゥクスアはどうするつもりじゃ? 諦めて帰るのか? それとも再戦を挑むのか?」
「万全の状態で再戦したい」
「戦う術はあるのか? 海中もしくは船での戦いとなれば、おぬしの召喚獣では手も足も出ぬぞ?」
「そこは問題ないよ。とっておきの秘策があるからね」
命を無駄にしないためにも。みんなを悲しませないためにも。なんとしても私は勝たなくてはならない。
――待っていろ、レイン・ドゥクスア。
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