『アメルVSレイン・ドゥクスア』
爆音の発生源である港に行くと、私の視界に飛び込んできたのは凄惨な光景だった。
逃げ惑う人々。破壊された漁船。瓦礫の山と成り果てた石造りの倉庫。そして、船の停留所で蜷局を巻いている蒼色の大蛇。
全身を覆う鱗。全身ぎょろりとした白眼。尖った牙。紅色の髭。巨大な尻尾。魔物図鑑に記されていた特徴と一致していることから、私は確信する。
――レイン・ドゥクスアだと。
幼体なので、全長10メートルくらい。
それにしても、笑えない冗談はやめてほしい。レイン・ドゥクスアと戦うのは、ムンちゃんの召喚で枯渇した魔力が完全回復する明日の夜を計画していた。長距離移動のせいで私の魔力は底を突いており、どれだけ頑張ってもムンちゃんを繋ぎ止めておけるのは1分が限界である。
――万全の状態ならともかく、満身創痍の状態で倒せるのか。
私が悩んでいたとき、レイン・ドゥクスアが口を開ける。
視線の先には、陸の方に逃げている白髪のおじいさん。杖を附いているので、みんなから置き去りにされてしまったのだろう。
アクアブレスの発射まで時間が無い。悩んでいる場合じゃないだろう。おじいさんを助けられるのは私しかいないのだから。
「召喚術式――起動、ムンちゃんおいで!!」
契約魔法を唱えて――
ムンちゃんを召喚すると、私はアクアブレスを撃ち出そうとしているレイン・ドゥクスアを指差した。
「ムンちゃん!! レイン・ドゥクスアにアクアブレスを撃たせないで!!」
「ガウッ!!」
アメルの命令を受け――
疲労が溜まっているにもかかわらず、ムンちゃんは修敏な動きで距離を詰めていくと、レイン・ドゥクスアに体当たりする。
ムンちゃんに体勢を崩されたことで、レイン・ドゥクスアのアクアブレスはおじいさんに当たることなく海の方向に放たれていった。
「ナイス!!」
おじいさんが陸地の方に逃げていったおかげで、レイン・ドゥクスアの意識がムンちゃんに向いてくれた。
――しかし、喜ぶのも束の間。
本番はこれからである。
時間が無いので、短期決戦で行くしかない。
全身を纏う鱗。果たして、ムンちゃんの爪は通ってくれるだろうか。レイン・ドゥクスアの鱗は高級防具にも使われるほどで、鉄よりも硬いとか。
――そうなると、狙うべきは鱗の無い場所。
お母さんの教え。
どんな生物にも弱点はある。心を落ち着かせて、相手を観察しなさい。それを守ってきたからこそ、あの時にも私は生き残れた。
「ムンちゃん――」
指示を出そうとした時、レイン・ドゥクスアが海に飛び込んでしまった。これでは、ムンちゃんの攻撃が届かない。
レイン・ドゥクスアを討伐するために私が立てていた作戦は、魔力全開の状態で行うことを前提としている。魔力が枯渇している状態で『あれ』を使っても、1秒たりとも維持できないだろう。まったく、運が悪いにも程がある。レイン・ドゥクスアは余程のことが無いかぎり陸地には近づかないんじゃないのか。
「ムンちゃん!!」
海上から首を出し、レイン・ドゥクスアがアクアブレスを撃ってくる。無理に追えば海中に引きずり込まれてしまうので、ムンちゃんは躱すことしかできない。こうしている間にも制限時間が迫ってきている。
――そして。
攻撃を当てられないまま、私の魔力が無くなった。
光の粒子となってムンちゃんが消えてしまうと、レイン・ドゥクスアの標的が変わる。
――そう、この私である。
レイン・ドゥクスアが口を開けた。
身を隠そうにも、私の近くに隠れられるような障害物は無い。住宅街に逃げてしまえば、アクアブレスで被害が出てしまう。
託された使命も果たせないし、カレンとサツキちゃんの隣にも立てないし、ティアレちゃんとの約束も果たせないし――
「不甲斐ない私でごめんね」
そう呟き――
静かに目を閉じた時、私の後ろから下駄の音が聞こえてくる。からんころん、からんころん、一定のリズムで奏でられる木の音。
「まったく、アメルはケチくさいのう。食後の運動なら妾も誘わぬか。妾を置いて1人だけ先に行きおって。おもちゃの独り占めは許さぬぞ」
文句を言いながら――
住宅街から歩いてきたのは、ティアレちゃんだった。
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