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『変態は強い』

 アメルとサツキを起こさないよう、私はゆっくりと階段を上がっていた。

 ギルドハウスは2階建ての構造になっており、1階部分は共同スペース。2階部分は個人スペースになっている。

 1階部分には、リビング・キッチン・シャワールーム・トイレなど、しっかりと生活環境が整えられている。

 2階部分には、個室が並んでいる。ギルド対抗戦に出場するための最低条件はクリアできるように作られているのか、個室は5人分だけである。

 初期メンバーの時点で3部屋が埋まっており、2人を超える新規加入があったら引っ越しも考えなければならない。

 新しくメンバーを迎えるなら、個性的な子にしたい。人間だろうと、亜人だろうと、私達のギルドは種族を問わない。

 そういえば、人間の生活範囲内でサレヴィア以外の異種族を見たことがない。陸上ならばエルフ・ドラゴニュート・ドワーフなどの種族くらいは見かけてもいいはずである。

 もしかして、種族ごとに生活圏が決められているのだろうか。私たちは商業都市の管轄内でしか活動をしていないので、王国全体の様子が分からない。


 ――遠征も考えてみるか。


 冒険者協会は王国内に5つの支部を設置しているので、各地の支部で依頼をこなし、生活費を稼ぎながら王国内を旅している冒険者も多いらしい。

 たくさんの出会いがありそうだし、上級冒険者になったら遠征に出てみるのも悪くないかもしれない。


「カレン~!? 荷物を置くのに何分掛かっているのよ~!?」


 リビングから、サレヴィアの怒声が響いてきた。

 今はそんなことを考えている場合じゃないね。急いで戻らないとサレヴィアが暇潰しにギルドハウスを凍らせるかもしれない。

 私の部屋は廊下の最奥にあるので、サレヴィアを待たせないように小走りで向かおうとした時、私は気付いてしまう。


 ――あれ?


 アメルの部屋と、サツキの部屋のドアが開いていた。こっそりとドアの隙間から覗いても2人の姿は無く、もぬけの殻である。

 鍵も開いていたことから只事ではないと思った私は自分の部屋に荷物を投げ入れると、急いで階段を駆け下りる。


「サレヴィア!! アメルとサツキがいない!!」

「カレイア、落ち着きなさい。用事があって出かけているだけかもしれないでしょう。手紙は無かったの?」


 焦る私と違って、サレヴィアは落ち着いている。


「それらしいものは無かったけど……」

「じゃあ、冒険者協会に行くわよ。2人だけで夜間限定の依頼を受けているのかもしれないわ。アンタが帰るのは明日の夜になる予定だったんだから」

「わかった」


 サレヴィアの判断に従うことにして――

 オーガの素材を抱え、冒険者協会に向かおうとしたときである。


「申し訳ありません。話が弾んでしまい、メイド集会が長引いてしまいました。お詫びとして、今日の夕飯はアメルの大好物ですよ――」


 玄関のドアが開き、サツキが入ってきた。

 両手に下げている手提げバッグからは、調理器具と野菜が飛び出している。


「「あれ?」」


 私とサツキの声が重なり、サレヴィアが苦笑を浮かべる。


「アメルと出かけているんじゃあ……?」

「カレンこそ、帰宅は明日の夜ではありませんでしたか……?」


 目を丸くする私とサツキを見て――

 サレヴィアは溜め息を吐くと、呆れた表情を浮かべながら私達に右手を伸ばしてくる。


「ギルドハウスを凍らされたいか、アタシに夕飯をごちそうするか、5秒以内に好きな方を選びなさい」

「サ、ササ、サササ、サレン様!? ど、どど、どうして、サレン様がギ、ギギ、ギルドハウスにいぃぃお、おおっ、うぉられるのですか!?」

「はい?」


 突然の様呼びに、サレヴィアは首を傾げている。


「す、すすすすいまぶっ……すいません、こここっこここっここにゃっく」

「落ち着きなさい」

「ひゃふううううううううううん!!!」


 サレヴィアに冷気を浴びせられ、奇声を上げながら身体を震わせるサツキ。普段のサツキは家事万能でクールなメイドさん。非の打ち所がない女性である。


 ――しかし、今日のサツキはどうだろう。


 顔面を赤く染めながら、くねくねと動いているではないか。魔物に例えるならば、インクルスネークの尻尾みたいである。


「え、えっと、なんていうか、頭でも打った?」

「打っていませんよ」


 私が話しかけると、サツキは正常に戻る。


「ひゃふんひゃふんうるさいわよ。顔面を凍らされたいの?」

「ひゃふん!! その目、その見下すような目なんですうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 サレヴィアが話しかけると、サツキは狂ってしまう。


「なにやったの?」

「アタシが聞きたいわよ。サコレット森林の件から、2人には避けられているって言ったわよね」


 サレヴィアは無関係らしい。

 そうなると、サツキに聞くしかないよね。


「サツキ」

「なんでしょう」

「どうして、サレンに様を付けているの?」

「私の御主人様だからです」


 サツキの言葉を聞いて、私はサレヴィアに視線を送る。


「サレン」

「待ちなさい、アタシは無関係よ」

「無関係ですか……? 私のハートを鷲掴みにしておいて……?」

「えっ、なにコイツきもっ」

「サコレット森林でハートを鷲掴みにされてから、サレン様を見るとハートがドキドキして止まらないんです。忘れようにも忘れられず、ゾクゾク、ゾクゾク、ゾクゾクと、あんなことをされたら服従するしかありませんよね」

「カレン助けて」


 泣きそうな顔で、サレヴィアが助けを求めてくる。

 サツキの発言から、私はサコレット森林での出来事を思い出す。サコレット森林で、サツキは無意識の魔力感知でサレヴィアの魔力圧にやられている。


 ――そんなとき、サツキは言った。


 心臓を鷲掴みにされるような感覚と――

 サツキの言っている「ハートを鷲掴みにされた」は「心臓を鷲掴みにされた」を表しているのではないだろうか。


「サツキ」

「はい」

「サコレット森林で、サレンの魔力圧にやられたとき、正直どうだった?」


 顔を引きつらせた私が問いかけると、サツキは深く息を吸い込む。


 ――そして。


「最高でした。最高でしたとも。なんですかねあの全身を走るぬるっとした感覚。初めての感覚でしたよ。なんていうか命を握られているっていうか。おまえはいつでも殺せるぞっていうか。全身を流れる血液が凍らされるっていうか。これでは伝わりませんよね。言葉に表すのが難しくてなんというかあのそのええっと、あれなんです、あれなんですよ。あああああああああああああああっ!!! 語彙力の無さが恨めしいいあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 狂うサツキを見ていると、天界で私の服に手を入れてきた天使兵を思い出す。

 ルリルアだったか。あれは気持ち悪かった。きっと、サレヴィアも私と同じ気持ちを抱いているのではないだろうか。


「かれん、あたしまかいにかえりたい。おねがいかえりたい。まおうさまにあいたい。へんたいきもい」

「がんばって、されんちゃん」


 サツキの熱弁は、1時間くらい続くのであった。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!

みなさんに楽しんでいただけることが、執筆活動の原動力になっております!!

これからもよろしくお願いします!!

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