『違和感』
「フローラ、コルテリーゼ、ギルドハウスまで送ってくれてありがとう」
ギルドハウスの前に着陸して――
私とサレヴィアは、フローラとコルテリーゼに別れを告げていた。
「お礼を言いたいのは私達ですよ。貴方たちのおかげで、無事にオーガ討伐を終えることができましたからね。時間のあるときにでも王都にいらっしゃってください」
手を振りながら、微笑んでくるフローラ。
「アンタたちも時間を作って商業都市に遊びに来なさいよね。もちろんだけど、王都の高級土産は持ってくること」
「おまえは高級土産しか眼中に無いのか。ひとことだけでもいいから私達に会いたいからとか言っておけよ」
「高級土産を持ったアンタたちに会いたいわ」
「こいつは……」
可愛らしく片目を閉じ、桜色の唇に人差し指を当てるサレヴィアに対して、コルテリーゼは呆れた表情を浮かべている。
「それじゃあ、私たちはこれで」
「カレン、サレン、どうか身体には気を付けてください。冒険者は健康な身体が商売道具ですからね。それでは、私たちも王都に帰りましょう」
フローラの指示で――
ワイバーンが夜空に舞い上がると、羽ばたく際に発生した風圧によって林から葉音が響いてくるのだった。
◇
「素材提出の前に私はギルドハウスに自分の荷物を置いてくるけど、サレヴィアもギルドハウスで待っとく?」
ワイバーンの姿が見えなくなると、私はリュックから鍵を取り出しながらサレヴィアに話しかけた。
「せっかくだしお邪魔しようかしら。サコレット森林でやったことを桜髪の娘とメイドの娘に謝っておきたいし。あの娘たち、明らかにアタシを避けているのよね」
アメルとサツキに怖がられていることが、サレヴィアは気に入らないようである。
アメルとサツキには、サレヴィアのことを友人だと言い訳しておいたが、それでも恐怖感は消えていない。サコレット森林を凍らせたうえ、運転手まで殺そうとしたから仕方ないことではある。サツキに関しては、魔力感知で痛い目に遭っているし――
「あれ?」
ギルドハウスに入ろうと鍵を開けようとした時、私は違和感を覚える。
明かりは消えているので、アメルとサツキは眠っているのだろう。サツキは度が付くほどの几帳面で、就寝前の戸締りは欠かさないはずだが――
――鍵が開いている。
「どうしたのよ」
「明かりは消えているのに、鍵が開いているんだよ。サツキが戸締りを忘れたことなんて、1度も無かったのに……」
「人間なんだから、たまには忘れることくらいあるわよ」
サレヴィアの助言を聞いて――
私は胸を撫で下ろすと、音を立てないようにドアを開ける。そして、照明魔道具を起動させてリビングに明かりを灯した。
「なかなかいいところじゃない」
「こう見えて、元々はゴーストハウスだったんだよね。虫とか埃だらけで、ゴーストも飛び回ってたもん。掃除が大変だったよ」
「思い出に残っていいじゃない。天界は退屈だったんでしょう」
「うん、人間界に来てから毎日が楽しくて……ほんと、熾天使の後輩たちも連れてきてあげたい。誰にも縛られない日常を過ごさせてあげたい」
ハレスを殺すことが、天界を平和にする唯一の方法である。創造神もハレスの悪行は知っているはずなのに、どうして止めようとしないのか。見世物として、楽しんでいるのか。
「熾天使カレイアの後輩か……」
「どうかした?」
嫌そうな表情を浮かべたサレヴィアに、私は首を傾げる。
「アンタの後輩って、花とか好き?」
「あれ、なんで知ってるの? もしかして、魔界でも有名な感じ?」
「天魔戦争でアンタの後輩に右腕を落とされたのよね。毒か呪いか知らないけど、切断箇所から腐ってくるし……魔王様が助けてくれなかったら死んでたわよアタシ」
「なるほど、クレアにやられちゃったのか」
サレヴィアの右腕を落としたのは、私の後輩で間違いない。
天界の序列6位――『天花』クレア。花を司る熾天使である。クレアの魔法はとにかく初見殺しで、情報なしで戦うと重傷は免れない。
「姿は消えるし、魔法は効かないし、アイツ嫌いよ。どうせ性格も悪いに決まっているわ」
「クレアは真面目で良い子だよ。顔も可愛いし」
「うそね」
真顔で言い切るサレヴィア。
「ほんと」
「絶対うそ」
「ほんとだよ。髪もサラサラで声も綺麗だし」
「なるほど、そういうことね。完全に理解したわ。熾天使には顔が可愛ければ可愛いほど魔法が凶悪っていう法則があるのね。ほら、雑談はこれくらいにして、アンタは早く荷物を置いてきなさい」
サレヴィアは椅子に腰掛けると、不機嫌そうな表情で私に冷気を浴びせてくるのだった。
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