『なかよく殺戮』
馬車から出ると、4体のゴブリンが道を塞いでいた。
冒険者から奪い取ったのか、刃の欠けた鉄剣。使い込まれた弓。革製の防具を着けている個体もいる。
「カレン、皆殺しにするわよ」
「サレン、分かってるじゃん。御者のおじさん、戦いに巻き込まれると危ないから送迎はここまでで大丈夫だよ。荷物もリュックしか持ってきてないし、商業都市まではのんびりと歩いて帰るから」
「中級冒険者だろうし、心配はいらないだろうが……怪我には気を付けて、危なくなったらすぐ逃げるんだぞ」
「うん、ありがとう」
私とサレヴィアに助言すると、御者は馬車を引いて商業都市に帰っていった。
御者には帰ってもらわないと、私達は全力で戦うことができない。全力を出すには輪と翼を顕現させる必要があり、正体がバレるので人間の前ではやることができない。そういうわけで、お互いの正体を知っている私達だけなら問題ないのである。
「4体だし、仲良く2体ずつでいいわよね。アタシは左半分を殺すわ」
「じゃあ、私は右半分だね」
熾天使と最上位悪魔の共闘なんて、歴史上初めてじゃないか。
今まで殺し合ってきたけど、話せば分かり合えるのではないだろうか。そもそも戦争の理由が資源と領土の奪い合いだったわけだし、3界が国交を結べば万事解決。
――まあ、それができれば数万年も戦争しないよね。
「念のために言っておくけど、アンタは全力を出したらダメよ」
「え?」
天輪と白翼を顕現させようとした時、サレヴィアが注意してきた。ポカンと口を開けて目を丸くする私を見て、サレヴィアが溜め息を吐く。
「アンタが全力を出してみなさい? 大陸が火の海になるだけじゃなくて、頭のおかしい魔力圧で世界規模の異常気象が起こるわよ?」
「いや、さすがにそこまでは――」
「全魔力を開放して、エンデヴェークを地図上から消したのはどこの殺戮天使だったかしら。あそこは魔界にとって重要な都市だったのよね。3000年経っても銀色の焔が消えてくれないから、いつの間にか観光名所と化したわよ」
「すいません」
顔は笑っているが、目は笑っていない。
私とサレヴィアが話していると、1体のゴブリンが地を蹴った。剣を振り上げた状態で、サレヴィアに襲い掛かる。
「邪魔よ、カレイアと話しているのが分からない?」
「ギャア……」
剣が届く前に、ゴブリンは氷に包まれてしまった。
「ギギィ……」
「ギッ!! ギギッ!!」
凍らされたゴブリンを見て――
他のゴブリンはサレヴィアを危険視したのか、私に襲い掛かってくる。後衛に弓兵が1体。前衛に剣兵が2体。
「サレヴィア、3体とも殺していい?」
「報酬金で甘いデザートを奢ってくれるならいいわよ」
「おっけー」
私は『銀ノ焔』を起動させると、襲い掛かってくるゴブリンに撃ち出す。
断末魔の声を上げながら焼けていくゴブリン。震える手を伸ばして助けを求める姿を見て、サレヴィアは苦笑を浮かべている。
「なんていうか、サコレット森林で戦った時、おとなしく降参して正解だったわ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるのよ。あそこの消し炭は、降参せずに戦闘を続けた世界線のアタシよ」
「いやいや、アメルとサツキに手を出さないかぎり、私は殺したりしないから」
「どうかしらね」
訝しげな表情で、サレヴィアが見つめてくる。
どうやら信用が無いらしい。
「まあ、そんなことは置いといて、日が暮れる前にオーガの集落を探そうよ」
「そうね、魔力感知は任せたわ」
「任されました~」
私はリュックを背負い直すと、魔力感知を発動させる。現在地から北東へと進んだ場所に、魔力反応が30くらい集まっている。
「どうかしら」
「北東に30くらい。多分オーガとゴブリンじゃないかな。面倒だし、ここからやっちゃう?」
「ダメよ、きちんと目視で確認しなさい。民間人を巻き込んだら冒険者カード剝奪よ」
「冗談だよ。しっかりと冒険者協会の職員やってるじゃん」
「ふふん」
自慢気な表情を浮かべ、髪を払うサレヴィア。
その気になれば、簡単に国すらも滅ぼせる力を持つ最上位悪魔が真面目に働く姿なんて、誰が想像できるだろうか――
「ん?」
サレヴィアの勤務態度に感心していたとき、西の方角から接近してくる2つの魔力反応を感知した。
「どうしたの?」
「西の方角から、2つの魔力反応が近づいてくるんだよね」
「ゴブリンの偵察部隊かしら。さっきのはアンタに取られたし、今度はアタシが殺すわよ」
「いや、ゴブリンでもオーガでもない。人間の魔力だよ」
「こんな場所にいるってことは、オーガの討伐に来た冒険者かしら……いや、オーガ討伐の依頼書はレスドア支部しか取り扱っていないはず……」
サレヴィアが頭を悩ませていると、西の方角から声が聞こえてきた。
「コルテリーゼ、オーガの村はもうすぐですよ。準備はできていますか?」
「オーガは強敵ですが、私とフローラ様の2人なら倒せます。依頼を成功させて、御母上様を認めさせましょう」
そんな会話をしながら――
西の方角から歩いてきたのは、冒険者らしき少女2人だった。
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