『天使と悪魔の2人旅』
私とサレヴィアは依頼書に記されたオーガの集落に向かっていた。
オーガの集落は商業都市から離れた場所にあり、徒歩で行くと片道だけで1日が終わってしまうので馬車を使っている。
遠方への依頼に行くというわけで、あれからギルドハウスに戻ってアメルとサツキを誘ったのだが、2人とも用事があるらしく私とサレヴィアの2人で行くことになった。都合が良いことにサレヴィアは有休を取っており、新人のくせに3連休らしい。
「馬車に乗るのも、なかなかいいわね」
酒場で買ったサンドイッチを食べながら、サレヴィアが笑みを浮かべてくる。
天使と同じで、悪魔は空気中に含まれる魔粒子を生命力に変換できるので食事を必要としないのだが、サレヴィアは人間界で酒場の大将の絶品料理に出会ったことで、食事という行為に魅了されてしまったらしい。
「地面を移動しているからこその揺れが心地よくて、のんびりとごはんも食べられるし、高速飛行では味わえない雰囲気がいいよね」
飛んだ方が速いし、低空飛行すれば敵にも見つかりにくい。
それに加えて、戦場の真ん中でのんびりと馬車なんかに乗っていたら、どうぞ集中砲火してくださいと宣言しているようなもので、馬車の旅は平和の象徴である。
「アンタも食べる?」
「うん」
サレヴィアが、リュックからサンドイッチを取り出した。美味しそうなカツサンド。肉厚なトンカツが贅沢に2枚も挟んである。
「大将のカツサンド、人間界に来てから最初に食べたもので、アタシの大好物よ。味わって食べなさいよね」
「ありがとう。私も大将のカツサンド大好きなんだよね。屋台で買ったカツサンドとは、ひと味もふた味も違うっていうか」
「アンタも話が分かるじゃない。ほんと、大将の料理は凄いわよね。3000年前まで殺しあっていた熾天使と最上位悪魔を繋いでいるんだから」
手を合わせ、人間界の挨拶である『いただきます』を済ませ、私はカツサンドにかぶりつく。
噛んだ瞬間、トンカツから溢れてくる肉汁。辛みのあるマスタードソース。
「んんん~♪」
あまりの美味しさに――
私が満面の笑みを浮かべていると、紅茶を飲んでいたサレヴィアがクスクスと笑い出した。
「殺戮天使の正体が、子供らしくカツサンドを頬張る銀髪の美少女だと知ったら、悪魔とドラゴンはひっくりかえるわね」
「失礼な」
「少し掠るだけでも致命傷を負い、魔力を無効化する銀色の焔。そんな魔法を使ってくる熾天使が銀髪美少女なんて、アンタは想像できる? アンタの素顔だけど、魔界では筋肉ムキムキのおばさん説があったわよ?」
ひどくないですか。
いくらなんでも、筋肉ムキムキのおばさんはひどいよ。
「魔界に行って、誤解を解きたいんだけど」
「ダメよ」
真顔で即答された。
「サレヴィアの客人としてなら、魔王も許してくれるんじゃないかな」
「そういう問題じゃないのよね……」
「どういうこと?」
「魔王様は強すぎるせいで、全力で戦える相手がアンタと竜王しかいないのよ。だから暇を持て余しているわけ。そんなときに、天界とは関わりがなくなって自由の身になったアンタと出会ってみなさい。瞳を輝かせながら襲い掛かってくるでしょうね。最強と最強が戦えば、死体の山ができるわよ」
「巻き添えは可哀そうだし、誤解を解くのはサレヴィアに任せるよ」
「ありがとう」
私が諦めたことで、安堵の表情を浮かべるサレヴィア。
サレヴィアに任せておけば、私の筋肉ムキムキおばさん説は消えてくれるだろう。これで、私の評判も右肩上がりだ。
――そう期待を込めて、お茶の入った水筒を開けた時である。
「うおおおおっ!!」
御者の大声が響き渡ると同時、馬車が急ブレーキした。その影響で、私に冷たいお茶が襲い掛かってくる。
「ぶええっ!!」
「御者!! 急ブレーキなんて、どういうつもり!? カレイ、じゃなくて、カレンの顔面がびしょ濡れじゃない!!」
「ゴブリンが出た!! お客さん出番だぜ!!」
手下であるゴブリンが現れたということは、オーガの集落が近づいてきた証拠である。私はハンカチで顔を拭くと、食べかけのカツサンドを口に放り込むのだった。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
みなさんに楽しんでいただけることが、執筆活動の原動力になっております!!
これからもよろしくお願いします!!




