『アメルの謎』
「サレン、調子はどうだい?」
「あら、カレンじゃない。1人なんて珍しいわね」
朝食を取り終えた私が冒険者協会に顔を出すと、制服姿のサレヴィアが依頼掲示板で仕事をしていた。
「うん、冬を越す資金は貯まったから、春まで自由行動なんだよね。ギルドハウスでぐうたら生活ばかりだと身体が鈍るし、個人依頼でも受けようかなって」
「そう、冒険者は楽しそうでいいわね。アタシなんか休日以外は冒険者協会に引き籠りの毎日よ」
「あはは、それはきついね」
魔界の序列5位――『氷魔』サレヴィアは、サレンという偽名を使いながら冒険者協会で働いていた。サレヴィアが冒険者協会で働くことになった理由は、薬草の宝庫であるサコレット森林を凍結させてしまったからである。
戦闘後に理由を聞いてみたところ、薬草の観察をしていたら魔物に襲われたらしく、手加減を知らないサレヴィアは森林ごと魔物を凍らせてしまったらしい。魔物に襲われたということで牢獄送りにはならなかったが、損害が凄いので自由の身とはいかず、氷魔法の腕を買われたこともあり冒険者協会で働くことになったのである。
闇雲に動くよりも、たくさんの情報が集まる冒険者協会で働いていれば、タルタロスの鍵に関する情報を手に入れやすいと踏んだらしく、サレヴィアは素直に受け入れた。
正直に言うと、最上位悪魔が人間界で働くことには不安を抱いていた。しかし、サレヴィアは適応能力が高く、2週間くらいで人間界に溶け込んでしまったのである。
「どれにするの?」
「身体を動かしたいから討伐依頼にするよ。私が死にかけるくらいの依頼ある?」
「そんなのあるわけないでしょう。そんな依頼が出たら、軽く1000回は世界滅亡よ」
神々を除いて、私と互角に戦えるのは魔王と竜王だけである。それ以外なら、魔界総出・竜界総出で仕掛けるしかない。
「はあ、サレンが100人くらい襲ってこないかな~」
「アタシが100人とか、世界が氷に包まれるわよ。変なこと言ってないで、早く依頼を選びなさい」
「サレン冷たい~!! 氷だけに~!! アイスクリームみたいに~!!」
「アンタの不在中、ギルドハウス襲撃するわよ」
「すいませんでした」
サレヴィアに襲撃されたら、ギルドハウスどころか帝国が滅びるよ。
「冗談は置いといて、アンタは中級冒険者だからBランク依頼まで受けられるのよね」
「うん、なんかある?」
「Bランクは雑魚ばかりね。アンタなら、オーガもセイレーンも魔法を使うまでもないでしょう? 魔法が必要になってくるのはAからじゃない?」
「確かに、Aランクからは楽しめそうだね。カリュブディスとか、ケルベロスとか、天界でも聞いたことあるもん」
Aランク依頼を受けるには、昇級試験に合格しなければならない。
昇級試験に合格すれば、冒険者協会に上級冒険者と認められてAランクの依頼を受けることができる。
そして、最高難易度のSランク依頼を受けるには、女王の御前で最強の冒険者と手合わせして力を示さなければならない。
「アンタなら、最強の冒険者とやらも瞬殺でしょう。ぱぱっと昇級しなさいよ」
「それは無理だね。私だけ昇級しても面白くないもん。アメルとサツキも昇級させないと」
「アメルとサツキねえ……そうだ、アンタには聞きたいことがあったのよ。アメルとかいう桜髪の娘についてね」
全ての依頼書を貼り終えたサレヴィアが、真剣な表情で見つめてきた。
質問内容は分かっている。ムンちゃんのことだろう。
「シルバーウルフのこと?」
「話が早くて助かるわ。どうして、彼女は天界の神獣であるシルバーウルフを手懐けているわけ? 天使ならともかく、人間では不可能でしょう?」
「シルバーウルフとは赤ちゃんの頃から住んでいたらしくて、アメルは知らないみたい。唯一の手掛かりである母親は2年前に死んでいるとか」
「2年も経っているのなら、蘇生はできないわね。死体も白骨化しているだろうし……」
サレヴィアが、軽く舌打ちする。
天界の神獣であるシルバーウルフを手懐けるなんて、普通の人間には不可能である。そこで考えられるのは、アメルが混じっている可能性。異種族――それも上位種族の血が混じっているのであれば話が変わってくる。
「サレンさん、交代時間なので今日はもう上がっていいですよ~」
混血の可能性を考えていたとき、職員室からリンが出てきた。
時計を見ると、午前7時になっている。
「会話に夢中で忘れていたわ。夜勤だったから今日は7時で終わるのよ。そうだ、アンタこれから依頼を受けるのよね。よかったら、アタシも連れていってくれないかしら。仕事ばかりで身体が鈍っているのよ」
「いや、ダメじゃないの? サレンは冒険者じゃないよね?」
「問題ないわ。依頼で行くわけじゃないから。アンタの任務先に、偶然アタシが居合わせて、身を守るために共闘するだけよ。報酬額も多いし、オーガの殲滅でいいわね。ほら、リンに依頼書を渡してきなさい」
掲示板から剥がした依頼書を、サレヴィアが押し付けてきた。
まあ、手掛かりなしの状態であれこれ考えていても仕方ないし、アメルと関わっていくうちに少しずつ判明してくるだろう。
「まったく、怒られても知らないよ?」
私は苦笑を浮かべると、サレヴィアから依頼書を受け取るのだった。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
みなさんに楽しんでいただけることが、執筆活動の原動力になっております!!
これからもよろしくお願いします!!




