『氷の樹海』
凍結事件を解決するために、私達はサコレット森林に向かっていた。
商業都市からサコレット森林までは徒歩で行くと3日も掛かってしまうので、私達は航空サービスを使っている。
航空サービスとは、冒険者協会が飼育しているワイバーンに目的地まで送り届けてもらえる送迎サービスで、中級冒険者に与えられる特典である。
値段は目的地までの距離によって異なっており、私達が目指しているサコレット森林までは4000カレイアである。
「景色が凄いな~!!」
ワイバーンに取り付けられた鋼鉄の籠から身を乗り出しながら、アメルが上空からの景色を楽しんでいる。
「アメル、風で揺れたりするし、身を乗り出すと危ないよ」
「運転手さんに言われたとおり、きちんと命綱だって付けてるし、危ないときはカレンが助けてくれるから大丈夫だよ」
鋼鉄の籠に結ばれた命綱を引っ張りながら、アメルが笑いかけてくる。
「魔物相手なら助けてあげられるけど、翼でも生えてないかぎり転落中に助けるのは無理だよ」
「カレンの言うとおりです。この高さから落ちたら肉片になって魔物の餌になりますよ。命綱だって絶対に切れないわけではありません。そうなりたくなかったら、窓からの景色で我慢することです」
「サツキちゃんまで……」
私とサツキに注意され、残念そうにするアメル。
アメルが落ちたとしても、白翼と天輪を出せば空を飛んで助けることはできるが、2人に私の正体が知られてしまう。私の正体が熾天使だと分かったら、2人はどんな反応をするのだろうか。現在みたいに明るく接してくれるだろうか。
「お嬢さんたち、そろそろ準備しておけよ。サコレット森林が見えてきたぜ」
商業都市を出て――
3時間が経過したとき、運転手からの呼びかけで私達の飛行旅に終止符が打たれる。
「なんだか寒くない?」
到着間近になったとき、アメルが寒さを訴えてきた。そういえば、運転手に準備を促されてから気温が下がったような――
「寒さの理由を知りたかったら、窓から覗いてみるといい」
運転手に言われ――
アメルが窓を開けたとき、私達の視界に悲惨な光景が飛び込んできた。
「「「……」」」
そこは、氷の樹海だった。
森林全体が凍り付き、生物の気配は無く、そこだけ時間が止まったようである。
「酷い有様だろう。薬草の宝庫が氷の山。薬草は枯れ、生物は死に絶え、見るに堪えない状況だぜ」
沈黙の中、運転手が口を開く。
「なにがどうなって……」
「森林を訪れた薬草屋の証言だと、満天の夜空から氷の隕石が落ちてきたらしい」
氷の隕石を降らせるほどの大型魔物が商業都市の近くに生息しているのに、凍結の被害がサコレット森林だけで済んでいることに違和感を覚える。
「サツキ、森林を凍らせたのは大型魔物じゃないよね。もしそうだったら、被害がこれだけで済むわけがないもん」
「カレンも違和感に気づきましたか。凍結の原因が大型魔物だったら、商業都市にも被害が出たり、目撃証言が相次ぐはずです」
違和感を覚えた私とサツキが意見を出し合っていると、轟音が響くと共に鋼鉄の籠が激しく揺れた。
只事ではないと思った私は窓から飛び出すと、素早くワイバーンの背中に駆け上り、手綱を握っている運転手に話しかけた。
「どうしたの!?」
「森林の中で何か光ったと思ったら、巨大な氷の柱が飛んできた!! それと、悪い知らせがある!! ワイバーンの右翼がやられた!! 墜落するぞおぉぉぉぉぉっ!!!」
運転手の叫び声が響き渡ると、鋼鉄の籠からアメルとサツキが顔を出した。
「なになに!? 墜落とか聞こえたんだけど!?」
「未確認生物から攻撃を受けて、ワイバーンの右翼がやられた!! 墜落しちゃうから2人とも脱出の準備よろしく!!」
「なるほど、先程の揺れはそういうことですか。アメルは私に任せてください」
「サツキちゃん……? ふえっ? ふええっ? ふええええええええええええええっ!?」
剣魔法で生み出した白銀の剣で鋼鉄の籠を切り裂くと、悲鳴を上げるアメルを抱えながら森林に飛び込んでいくサツキ。アメルのことはサツキに任せておけば心配ないだろうし、私が取るべき行動は――
「私達も脱出しよう」
「え、ちょ、まて、おま、なんで、お姫様だっこおぉぉぉぉぉぉぉ!?」
私は運転手を抱き上げると、先陣を切ったサツキに続いて森林に飛び込んでいくのだった。
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