『メイドたちの戦場』
数十分後――
泣き叫ぶリンを背負いながら、サツキがギルドハウスに帰ってきた。
「おかえり」
「私の顔を見た瞬間、奥の部屋に逃げだそうとしたので強制的に連れてきました」
サツキは笑みを浮かべると、リンを地面に投げ捨てた。勢いよく尻餅を附いたリンは、涙目で尻を擦りながら立ち上がる。
「あいたたた……まったく、なんですか!! いきなり連れ出して……!!」
「いきなりで悪いけど、質問させてもらうね。そこにあるギルドハウスの外見をしたゴーストハウスはなんだい?」
私はギルドハウスを指差して、笑みを浮かべながらリンに訊ねる。
「……」
私の目が笑っていないことに気づいたのか、リンは視線を逸らしてくる。
「これがギルドハウス? ゴーストハウスの間違いではないのですか?」
「……」
私に続いて――
サツキが問い詰めるが、リンは無言を貫いている。
「もう子供ではないんですから、黙っていないで「あ」とか「い」とか言ったらどうですか?」
「う」
リンの態度に腹が立ったのか、サツキが指をポキポキと鳴らしながら私の方を振り返ってくる。
「どうやら話し合いでの解決は不可能みたいですね。カレン、殺さない程度に痛めつけてもよろしいですか?」
「うん」
「ごめんなさい!! 調子に乗りました!! 待ってください!! 理由を話しますから!!」
生命の危険を感じたのか――
リンは素早く土下座すると、申し訳なさそうに理由を話し始めた。
◇
「掃除です!! メイドの諸君、掃除用具は持ちましたか!?」
「「持ちました!! 我らがメイド長!!」」
「よろしい!! これより掃除を開始します!! 今日中に終わらせますよ!!」
「「仰せのままに!! 我らがメイド長!!」
サツキの掛け声で、活動拠点の掃除が始まった。私達は服が汚れないよう、サツキから予備のメイド服を借りている。
メイド服を装備する際、サツキは言った。家事での汚れはメイドの勲章だと。汚れが付いたら胸を張って誇るべきだと。メイド服は家事で汚れるために存在しているのだと。サツキの熱意に圧倒されてしまい、私達はサツキをメイド長と呼んでいる。
――そして。
掃除の理由だが――
リンに話を聞いてみると、凄い速さで冒険者が増え続ける影響で貸し出せるギルドハウスが不足しているらしく、現在はここにある幽霊屋敷しか無いらしい。これ以外のギルドハウスは全て他のギルドが使っているらしく、要するに私達は余り物を掴まされたわけである。新しく建てようにも人材不足で大工が少なく、完成には1年ほど必要らしい。
――そんなとき、リンから提案された。
掃除してくれたら、半額の家賃で貸してあげるよ。そんな家賃半額の提案を聞いたサツキは、チャンスを逃すまいと2つ返事で承諾した。そんなわけで、色彩の集い総出で掃除することになったのである。
「私はゴーストを退治します!! カレンは虫と蜘蛛の巣を除去!! アメルは埃を掃いてください!!」
「「分かりました!! 我らがメイド長!!」」
ゴーストの悲鳴が響き渡る中、私は蜘蛛の巣に向かっていく。ほうきで蜘蛛の巣を薙ぎ払い、家主である蜘蛛と床を這う虫を窓から放り投げる。
アメルは埃を見つけると、喊声を上げながら走っていく。ほうきという武器を手にした彼女は戦場を駆け回る戦乙女といっても過言ではない。
――掃除が進んでくると、メイドたちの戦場に変化が起きた。
メイドたちに疲れが見え始めたのである。
朝に掃除を開始してから、既に5時間を超えている。不衛生な空間で行われる長時間労働。疲れるのも当然だろう。
「メイドたち!! 集中力が落ちていますよ!! しっかりなさい!!」
動きが落ちてきた私とアメルに向かって、雑巾を持ったサツキが声を上げてくる。
堂々とした振る舞い。その姿は、兵を率いる将軍の風格。
「「申し訳ありません!! 我らがメイド長!!」」
「掃除が終わったら、三ツ星シェフを土下座させるほどの腕前を有する私が料理を作ってあげます!! 好きな料理を言ってごらんなさい!!」
「「ハンバーグを食べたいです!! 我らがメイド長!!」」
「よろしい!! 食いしん坊のメイドたち!! 今日の夕飯は3段ハンバーグです!!」
「「しゃおらあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
メイド長の鼓舞によって、疲弊していたメイドたちに生気が宿った。
私は槍を扱うが如くほうきを回転させると、最後の力を振り絞って埃を掃いていく。
「私がほうきで埃を掃くから、アメルは雑巾掛けして!!」
「任された!!」
「私は浴室に向かいます!! メイドたち!! リビングは任せましたよ!!」
「「任されました!! 我らがメイド長!!」」
私たちは互いを励まし合いながら、なんとか夕方までに掃除を終わらせるのだった。
我らがメイド長!!
3人ともおかしなテンションになっていますね。
三ツ星シェフを土下座させるほどの腕前とか、サツキってほんと何者なんですかね。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
みなさんに楽しんでいただけることが、執筆活動の原動力になっております!!
これからもよろしくお願いします!!




