『精霊ナトゥア』
「すいません。ほんとすいません。調子に乗ってすいません」
姿を現した精霊が、私の足下で土下座してくる。
腰まで届く金髪。ぱっちりした碧眼。透明な羽根。緑色のワンピースに身を包んでいる。身体は小さく、アメルが採集したリンゲルの果実の2倍くらいである。
「えっと、謝るよりも先に――」
「分かりました!! 足ですね!! 足を舐めるんですね!!」
「違うよ、さっき私のことを殺戮天使って――」
「そうですよね!! 私なんかに舐められたら、カレイアさんの足が汚れますよね!!」
「いや、だから――」
「カレイアさん、おなか空いていませんか!? 甘い果実でも採ってきましょうか!?」
「そうじゃなくて――」
「ひゃっはあああああああああっ!!!」
「少し落ち着けええええええええええええええええっ!!!!」
精霊がパニック状態に陥っていたので、私は大声を出して落ち着かせる。
「落ち着きました」
「じゃあ、説明してくれる? 私は殺戮天使なんて名乗った覚えはないんだけど……なにがどうなって、そうなっているわけ?」
精霊を右手に乗せ、詳しい説明を求めた。
「カレイアさんは、殺戮が趣味なんですよね。うわさで聞いたんですよ。天界に迷い込んだ悪魔を皆殺し。天界の近くを飛んでいたドラゴンを皆殺し。命令に背いた天使を皆殺し。問答無用で皆殺し」
「いやいや、そんなことしてないからね。私の知らないところでうわさ話に尾鰭が付きまくってない? 平和条約の引き金となった3界戦争でも2種族合わせて3万くらいしか殺してないから……」
「3万も殺したんですか……? 普通に殺戮天使を名乗っていいですよ……?」
死んだ魚のような目で、精霊が見つめてくる。
「あれは仕方ないでしょう。殺さないと天界が侵略されちゃうんだから」
「まあ、そうですけど……そういえば、気になっていたんですけど、なんでカレイアさんは冒険者をしているんですか? 人間界を滅ぼすんですか?」
「いや、滅ぼさないから。まあ、いろいろとあってね。感情を抑えきれなくてハレスを殴っちゃったの。それで、天界から追い出されちゃってね」
「ひえ、ガチの神殺しですか……」
「もう、なんでもいいから……とにかく、アメルを解放してくれない? 日が沈むまでにインクルスネークを討伐しないと、暗くて帰り道が危ないから。それと、アメルの前ではカレンって呼んでね。正体がバレちゃうから」
「了解です!!」
精霊は敬礼すると、パチンと指を鳴らす。
その直後、樹木に閉じ込められていたアメルが勢いよく飛び出してくる。
「うぎゃあ……!!」
そして、目の前にあった樹木に激突した。
「やべ」
「気にしなくていいよ」
「良くないからね!! 顔から激突したんだけど!! てゆーか、その小さいのだれ!?」
精霊を見て、顔面を赤く染めたアメルが叫んでくる。
「自己紹介が遅れてすいません!! 私は植物の精霊――ナトゥアです!! アメルさん!! 先程はカレンさんの付き人とも知らず、無礼な態度を失礼しました!!」
「どういうこと……? なんで精霊がいるわけ……?」
「まあ、いろいろとあってね……」
その後、アメルを納得させるのに20分ほど掛かった。
◇
「カレンさん、アメルさん、ここですよ。ここの洞穴にインクルスネークがいますよ」
精霊――ナトゥアに案内され、私とアメルは森の外れにある洞穴に来ていた。
洞穴は小さいだけでなく、背が高い植物に覆われており、場所を知らなければ見つけることはできなかった。
「ありがとう。ナトゥアのおかげで助かったよ」
「いえいえ、とんでもないです。カレンさんたちのお役に立てて光栄です。それじゃあ、役目は果たしましたし、私はこれで」
「うん」
ナトゥアは案内を終えると、頭を下げて飛び去ってしまった。
それにしても、私のうわさを流しているのは何者だろうか。早く見つけないと私の評判が落ち続けてしまう。確かに悪魔とドラゴンは殺したよ。殺したのは事実だけど、あれは天界を守るためで、断じて私欲を満たすために殺したわけじゃない。よし決めた。冒険の目的に犯人捜しも追加しよう。
「カレン、立ち止まってどうしたの? 洞窟に入らないの?」
「ごめんごめん」
アメルに注意され、私はランプを取り出すと、全方位を警戒しながら洞穴に足を踏み入れる。
蛇と戦うのは初めてだし、今回はアメルに頼るとしようか。迷いなく進んでいくし、きっと慣れているのだろう。
――果たして、そうだろうか。
「あれ、足下が柔らかいよ?」
「え?」
少し歩いたところで、アメルが不安を抱かせるような声を上げた。洞穴は岩で生成されているはず。足下が柔らかいなんて――
「なんか足首に触ったよ……?」
「アメル落ち着いて。多分あれだし、3・2・1で出口に向かって走るよ……?」
「うん……」
私は深呼吸すると、カウントダウンを開始する。
「3・2・1……出口に走れ――!! 外に出たら、ムンちゃんを召喚して――!!」
「召喚術式――起動、おいで、ムンちゃん!!」
――洞穴から出ると、アメルが契約魔法でムンちゃんを召喚する。
洞穴内部を『銀ノ焔』で焼き尽くしたほうが手っ取り早いが、消し炭になって素材を回収できなくなってしまう。もちろん近距離で戦うための魔法は存在するが、天界に私の生存が知られてしまうので使いたくない。
「洞穴から出てきた!! インクルスネークだ!!」
外に出ると、洞穴から2体の魔物が飛び出してきた。
茶色の身体。黒い縞模様。間違いなく図鑑で見たインクルスネークである。
「ムンちゃん!! あいつらをやっちゃえ!!」
アメルの命令を受け、ムンちゃんが牙を剥きながら飛びかかっていく。
天界の神獣というだけあって、単騎でインクルスネークを圧倒している。鋭利な牙で胴体を噛み千切り、神聖な魔力を帯びた爪で首を切り飛ばす。もしムンちゃんがアメルと出会うことなく野生化していたら、間違いなく生態系を壊していただろう。
――数分後、戦闘が終了した。
ムンちゃんの足下には、切り刻まれたインクルスネーク。
私とアメルはインクルスネークの素材を回収すると、ムンちゃんの背中に乗って商業都市に帰還するのだった。
ナトゥア好きですねえ。
熾天使カレイアと友達で、天界の神獣であるシルバーウルフを使役しているアメルこそ世界最強ではないだろうか。
――こっわ、アメルこっわ。
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