『精霊の森』
『インクルスネークの討伐』
商業都市レスドアから南東に進んだところにある精霊の森で、2匹のインクルスネークが確認されました。
本来であれば、インクルスネークは大陸南部の砂漠地帯にしか生息しませんが、先月の異常気象の影響で北上してきたようです。
インクルスネークは繁殖力が高く、放置しておくと生態系が崩れ兼ねません。至急、討伐をお願いします。
◇
昇級試験を突破するために、私とアメルは精霊の森に来ていた。
森の中は木漏れ日が射し込んでいるので非常に明るく、幻想的な雰囲気を醸し出している。近くには小動物や虫の気配があり、豊かな森だということが分かる。
「思ったより、綺麗な森だね」
「うん、昇級試験に使われるくらいだから暗い森を想像していたけど、予想が外れて助かったよ」
私は持参してきたランプを片付け、森の中を見渡してみる。
魔物図鑑によると、インクルスネークは身体が大きく見つけるのは簡単だと記されていたが、それらしい生物の姿は見当たらず、魔力感知にも反応は無い。インクルスネークは本当に生息しているのだろうか。
「カレン!!」
私が頭を悩ませていると、突然アメルが大声を出した。アメルの叫び声を聞いて、私は『銀ノ焔』を起動させる。
「どうしたの!?」
「リンゲルの果実だよ!! 甘くて美味しいんだよね!!」
戦闘体勢に入る私に、アメルが笑顔で赤い果実を見せてきた。
「あれ?」
「むふふ……こんなところでリンゲルの果実が見つかるなんて思わなかったよ……あれ、カレンどうしたの?」
リンゲルの果実をリュックに入れながら、アメルが首を傾げてくる。
インクルスネークの存在を知らせてくれたのかと思ったら、信じられないことに果実採集を楽しんでおられた。少し腹が立ったので注意しようと思ったが、満面の笑顔を見ていたらどうでもよくなってきた。
「いや、なんでもないよ……」
「それならいいけど。運よく2つ採れたからさ、帰ったら食べようね」
「そうだね……」
緊張感の足りないアメルに、私は溜め息を吐くことしかできなかった。
非常時にはムンちゃんが守ってくれるとはいえ、今までよく生き残ってこられたな。
「カレン!!」
「なに?」
今回も果実だろうと、適当に返事しながら振り返ってみると、森に生えていた樹木がアメルの右足に枝を巻き付けていた。
「助けてえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
枝に引っ張られ、アメルの身体が空中に浮き上がる。自由自在に動く樹木。まるで生きているようだ。
「すぐ助け――」
「動くな」
アメルを助けるために、私が『銀ノ焔』を起動させようとした瞬間、透き通った声が脳内に響いてきた。
「誰だ……?」
「熾天使が精霊の森に何の用だ?」
声の主は、どういうわけか私の正体を知っている。
天輪も白翼も隠しているのに、なんで分かったのか。森林に満ち溢れる独特な気配からして、おそらく正体は精霊だろう。
「なぜ、私の正体を?」
「質問をしているのはこちらだ。熾天使が精霊の森に何の用だ? 答えなければ小娘の命は無いぞ」
「ひぎゃああああああっ!!!」
拘束された状態で、アメルが樹木の中に吸い込まれていった。
森を焼き尽くしてもいいが、アメルを人質にされている。主導権は精霊にあるし、おとなしく従っておくか。
「おまえに捕まっている少女と、冒険者協会の依頼でインクルスネークという魔物を捜しに来た。それ以外に用は無い」
「冗談は嫌いだ」
「私のリュックに依頼書の写しが入っている。冗談だと思うなら動く許可を出してくれ。取り出して見せるから」
「許可しよう。少しでも変な動きをしたら少女を殺すからな」
「分かった」
私はリュックを開けると、リンから渡された依頼書の写しを取り出した。
そして、地面に投げ捨てる。
「……」
依頼書の写しを確認しているのだろう。精霊の声が聞こえなくなる。
精霊とは戦ったことがない。戦うことになったら、ちょっと厳しいかもしれない。
「どう?」
「どうやら事実らしい」
「確認できたのなら少女を解放してほしい。インクルスネークを討伐したらすぐに森から立ち去るよ」
「まあ、そう焦るなよ。魔力の質で熾天使とは分かったが、5大天使のどれかまでは判別できなかった。よかったら名前を教えてくれないか?」
事実が証明されると、なぜか名前を訊いてきた。別に隠す必要も無いので、私は素直に答えることにした。
「カレイアだけど……?」
「え?」
名乗った瞬間、精霊の間抜けな声が聞こえてくる。
「もしかして、聞こえなかった?」
「ごめん、聞き違いかもしれないから、もういちど言ってくれない?」
どういうわけか、精霊の口調が変わった。
「天界の序列3位――『天銀』カレイアだけど……?」
「なんだ、カレイアだったか……そうか、カレイア……カレ、カレイアだってええええええええええええええええええええっ!?」
空気が震えるほどの悲鳴を上げる精霊。
自己紹介をしただけなのに、どうして悲鳴を上げられないといけないのか。
「ど、どうしたの……?」
「カレイアといえば、神すらも殺せる力を持ち、魔界・竜界から殺戮天使と恐れられている天界最強の熾天使!! 趣味は殺戮!! 特技は殺戮!! 寝ても覚めても殺戮のことしか考えない殺戮天使!!」
「……えっ?」
精霊の言葉に、私は間抜けな声を出してしまう。
「すいません!! 森を守ることしか能の無い精霊の分際で舐め腐った態度を取ってすいません!! 仲間の方を拉致ってすいません!!」
「待って、どういうこと――」
「土下座しますから!! 足を舐めますから!! どうか森を焼き払うことだけは辞めてください!!!」
「ちょ、ちょっと、いきなりで何がなんだか分からない!! このままだと話しにくいから姿を現して!!」
これでは埒が明かないので――
透明化の解除を促すと、私の眼前に透明な羽の生えた少女が現れるのだった。
趣味は殺戮!! 特技は殺戮!! 寝ても覚めても殺戮のことしか考えない殺戮天使!!
カレイアさんマジやべえっす!!
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
みなさんに楽しんでいただけることが、執筆活動の原動力になっております!!
これからもよろしくお願いします!!




