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番外編:エミリアの恋(前編)

本編の完結から少し遡ったお話です。

どうやら私にはとことん男運がないらしい。


エミリア・ポートレイトとは別人のわたしは、恋人に浮気されては捨てられてを繰り返していた。後から知った話だが、最初から浮気相手だったなんてこともある。

友人に言わせれば、一途に尽くしすぎるわたしもいけないらしいのだが。


だから、友人に勧められてプレイした乙女ゲームも最初はあまり共感できなかった。

要するに攻略対象者は浮気相手を選んだのかよと。でも、一途に好感度を上げれば自分を選んでくれるという現実とは違う展開に、次第にはまっていった。大抵のゲームの悪役令嬢は性格が悪かったし、自分に重なることがなかったせいもある。


色々なゲームをプレイしている中で、ロゼッタ・ウォルコットが悪役令嬢として登場する作品と出会った時は衝撃を受けた。

ロゼッタは、第一王子の婚約者として誇り高く、優秀な令嬢だった。キツイ見た目に反して、一目惚れした王子のために一生懸命努力するところも健気で可愛かった。

だから、ゲームの序盤で嫌がらせと言われる行為は、貴族としての常識を知らないヒロインに対する教育的指導。攻略が進むと自分の言葉に耳を傾けてくれない王子と、態度を改めないヒロインに嫉妬して闇落ちして本物の悪役令嬢になる。


王子、どこにヒロインを選ぶ要素あった?

製作者、絶対悪役令嬢の方が思い入れあるよね?な疑問だらけのストーリーだったが、大好きな王子にもダメなものはダメと物事をハッキリと言うロゼッタに憧れた。

たぶん浮気されているなと思いながらも嫌われるのが怖くて、捨てられるまで何も言えない自分とは大違いだったからなのだと思う。

気がつけば、どの攻略対象者よりもロゼッタが一番好きになっていた。ロゼッタを救うルートがないかと、数えきれないくらいプレイをしたものだ。結局そんなルートはなかったのだけれど。


そんな記憶がよりによって断罪シーンで私の中に流れ込んできた。

最初からわたしの記憶があったらロゼッタを救えたのに。遅すぎる。


それに、目の前に立つラファエルはゲームのラファエルより性格が悪かった。

これを可愛いと思ってたエミリアすごいなと感心してしまうのと同時に、男を見る目が無さすぎだろうと思った。


「ごめんなさいぃぃぃ!」


とにかく誠心誠意謝罪をして全てをなかったことにしようと思ったけれど、結局無理だった。

ロゼッタは平民となった。処刑は免れたけど、貴族令嬢が平民になったところで生きていけないだろう。事実上の処刑と変わらない。


ロゼッタを死なせるわけにはいかない。私はロゼッタを幸せにしようと決意して、ロゼッタの居場所を突き止めて突撃した。


ロゼッタお姉さまはとても優しかった。

ロゼッタお姉さまから好きな人を奪ってさぞ憎いであろう私のことを許してくれて、傍で支えることを許してくれた。

それだけでなく、学園では見せることのなかった令嬢の仮面を外した笑顔を見せてくれるようになった。


ロゼッタお姉さまが尊い!私は毎日が幸せだった。

ロゼッタお姉さまと送る何気ない幸せな日常をある日突然壊しに来たのが第二王子のミカエルだった。

ゲームではモブとしてすら登場しなかったミカエルは天使の皮を被った腹黒だった。


まだ八歳のくせして、ロゼッタお姉さまにあの手この手で迫ってはロゼッタお姉さまを困らせている。

ロゼッタお姉さまが本当に嫌がっていたら強引に割って入ったけど、本気で嫌がっている訳ではないので見守るしかできない。


今日も山小屋に訪ねてきたミカエルにイライラしながら山小屋の外に出る。

ロゼッタお姉さまのお願いもあり、初めて少しの間二人きりにしてあげることになった。


外に出ると、王族が乗ってきたとは思えない簡素な馬車が停まっていた。お忍びだから当然か。

馬車には御者が一人しか待機していなかった。

きっとあの男が護衛も兼ねているのであろう。


「王子の我儘を聞いてあげて、あなたも大変ね。」


暇だったから声を掛けてみた。

栗色の髪に翡翠色の瞳の整った顔立ちの男がこちらを見る。


「ああ、貴女が・・・。そんなことありませんよ。普段我儘を言わない主の唯一のお願いですからね。」


「そう。王宮からさほど遠くないとは言え、あなた一人だなんて余程優秀でしょうに。子守りなんてあなたの仕事じゃないでしょう?」


「ミカエル殿下をお守りするのが私の仕事です。ここに連れて来ることにも特に不満はございませんけど。」


「そう。近衛騎士の鑑ね。」


私が素直な気持ちで言うと、男は警戒した様子でこちらを見る。


「何が狙いですか。」


「へ?」


「次は私がターゲットですか?私を籠絡して何をしようと企んでいるんです?」


まるで尋問のような威圧感だ。美形が凄むと怖い。

一瞬固まってしまったが、すぐに私の思考回路は機能し始めた。


「何も企んでいませんけど。まあ強いて言えば、あの腹黒王子をここに連れてくるのをやめてくれないかなとは思っていましたけど。」


私が答えると、男は一瞬呆けたような顔で固まって笑い出した。

失礼な反応に思わずジト目で睨み付けてしまう。


「すみません。あれだけ多くの男を誑かした女がどんなものかと思っていましたが、随分素直な方なんですね。いや、そこが貴女の魅力なのかな。」


男は未だに笑っている。


「何だか色々と失礼な人ですね。まあ急に声を掛けた私もいけなかったですけど。」


私がムッとしながら言うと、ようやく男の笑いがおさまった。


「本当に他意はなさそうですね。失礼。」


「暇だったから話し掛けただけです。腹黒王子がロゼッタお姉さまと話している間、話し相手になってくれます?」


「すみません、職務中なので。」


「真面目かよっ!」


先程の笑顔はどこへやら、急に真面目な顔になった男に思わず突っ込みを入れる。

無作法な平民と言えど、こんな突っ込みしない。


「あの、いや、すみません。今のは忘れて下さい。」


無礼者として斬られてもおかしくない自分の態度に焦ってしどろもどろに謝罪をする。

私にはロゼッタお姉さまを幸せにするという使命があるので易々と死ぬわけにはいかない。


「わかりました。なかったことにします。」


男の肩が揺れている。

笑いを堪えているのだろう。人が謝罪しているのにやっぱり失礼な人だ。


男の柔らかい雰囲気から怒っていないとホッとしていたら、急に男の雰囲気がピリッとしたものに変わった。

何事かと振り向くと腹黒王子が立っていた。


「ロゼッタお姉さまとの話は終わりましたか?」


「ああ。少しの間二人にしてくれたことには感謝する。」


「他ならぬロゼッタお姉さまのお願いですからね。ロゼッタお姉さまが嫌がるなら、不敬罪と斬られても動きませんけど。」


「兄上を翻弄した女とは思えない発言だな。まあ、お前がロゼッタのことを大事に思っていることだけはわかった。また来るからよろしく頼む。」


「本当はもう来なくてもいいんですけどね。歓迎はしないけど、ロゼッタお姉さまのためにお待ちはしています。」


私の嫌みたっぷりな物言いにも、腹黒王子は天使の微笑みを見せる。


「ありがとう。そういえばロベルトと何を話していたんだ?」


どうやら私が話し掛けた男はロベルトという名前らしい。


「暇だから話し相手になってもらおうと思って話し掛けただけです。職務中だからと断られましたけど。」


「ロベルトらしいな。そうか・・・ふむ。」


腹黒王子が一瞬何かを考え込み、口を開く。


「ロベルト、私がロゼッタと話している間、エミリア嬢の話し相手になってくれないか?」


「私がですか?でもそれでは殿下の護衛としての仕事が・・・。」


「私がいいと言っているのだから良い。ロベルトはエミリア嬢と話していたところで隙を作ることもないだろう。」


「わかりました。殿下の命令とあればお受けします。」


ロベルトはきれいな騎士の敬礼を腹黒王子にする。

見目麗しいもの同士の光景は眼福である。目の前の光景に見惚れていたら、ロベルトがこちらを向く。


「ロベルト・ヒースローと申します。以後お見知りおきを。」


「あっ、はい。私はエミリアと申します。こちらこそよろしくお願いします。」


「今日のところはこれで。」


ロベルトは軽く会釈をして、腹黒王子のために馬車の扉を開けた。

腹黒王子が馬車へ乗ると、また軽く会釈をして去っていった。


小さくなっていく馬車の影を見送りながら、私の中の何かが動き出す音がした。

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