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3.

「ロゼッタ、愛してる。私の傍にいて欲しいんだ。大丈夫、王妃になる手筈も整えてある。」


あれから五年、天使から見目麗しい男性へと成長中のミカエルは今日もロゼッタを口説きに来ていた。


最初は女官として囲いこもうとしていたミカエルだったが、頑なに頷かないロゼッタにきちんと愛を伝えて婚約者という選択肢を増やした。

普通は平民まで堕ちた元貴族が王妃になるなど有り得ない。でもミカエルは非常に優秀で常識を覆しても周囲を納得させる手腕を既に発揮していた。


「そんな、何度も申しますが私のような者に王妃など無理ですわ。」


ロゼッタは一瞬頬を赤く染めた後、ふっと視線を反らして断りの言葉を紡ぐ。


別人の記憶があるとは言え、ロゼッタ自身この王族の顔に弱い。好みのドストライクの男性に真っ直ぐ愛を伝えられれば、嬉しくないはずがない。

ただ、問題は相手が王太子であることだ。

別人の記憶があるからこそ、もう貴族ましてや王族として生活することは到底無理だと考えている。


ロゼッタの気持ちの機微に敏いエミリアは複雑な気持ちを押さえながら、ミカエルに噛みつく。


「ロゼッタお姉さまを困らせないで下さい。しつこい男は嫌われますよ。」


「相変わらず口の減らない女だな。それに、ロゼッタが心から嫌がっている訳ではないだろう。」


「だからと言って、殿下のようなしがらみだらけの人間にロゼッタお姉さまを幸せにできるなんて到底思えませんので。」


「私は誰よりもロゼッタを愛しているし、ロゼッタを守る力もある。確かに立場上、苦労をさせることはあるかもしれないがそれよりも幸せにする。」


「意気込みだけではどうにもならないこともありますよ。特に殿下のような立場の方には無理かと。」


「お前が無理だと決めつけるな。ロゼッタの幸せを決めるのはロゼッタ自身だ。」


「確かにそうですね。ではロゼッタお姉さま、どうなのです!?」


もはや恒例となったミカエルとエミリアの口論にロゼッタはため息をつく。


「殿下、私が殿下のことを憎からず思っていることは事実ですわ。でも、私はもう貴族として生活することに疲れてしまったので申し訳ございません。女官にしても周りに気を遣う生活が嫌なので無理ですわ。」


ロゼッタは少し悲しそうな笑顔で微笑む。

エミリアはそれ見たことかと得意気な顔でミカエルを見る。


「そうか。それでは妾として・・・ってそれも違うな。ロゼッタが望む生活はできないだろうし。でもロゼッタ、私は貴女を諦めたくないのだ。」


ミカエルは真剣な顔でロゼッタを見つめる。

あまりに真剣な表情に、ロゼッタも胸が締め付けられるのを感じる。


「それでは、その想いが変わらないのであればここへ通って下さい。私も、想いが変わらない限りは殿下を受け入れますわ。」


酷なことを言っている自覚はある。

王太子であるならばまだしも、国王ともなればそう易々と王宮を抜け出せない。

こちらは一切条件を飲まないのに、気持ちが本物ならば態度で示せと言っているのだ。


それでもミカエルはロゼッタの言葉に嬉しそうに笑った。


「ありがとう、ロゼッタ。できるだけここに通う。だからお願いだ。ここにいる時は私のことをミカエルと呼んで欲しい。」


「・・・わかりましたわ。ミカエル。」


ロゼッタはミカエルが了承するとは思っていなかったので、驚きで目を丸くした後に恥ずかしそうにミカエルの名前を呼んだ。

ミカエルも砂糖も溶かすような甘い笑顔でロゼッタを見つめる。


「ウォッホンッ!」


甘々な雰囲気を散らすようにエミリアがわざとらしく咳払いをして、ミカエルに指をさして宣言をした。


「ロゼッタお姉さまがそれで本当に幸せだと言うのであれば、私は邪魔しません。ですが殿下、ロゼッタお姉さまを傷つけるようなことをしたら私が許しませんからね!地の果てまででも追いかけて痛い目に合わせますから!」


「ああ、わかった。肝に銘じることとしよう。」


不敬罪に問われても文句は言えないエミリアの発言だが、ミカエルは了承だけした。

ちょうど扉をノックする音が聞こえる。ミカエルが王宮に戻る時間となったようだ。


「ロゼッタ、愛している。また来るから。」


ミカエルはロゼッタに告げると同時に、ロゼッタを抱き寄せて唇に口づけをした。


「~っ!」


突然のことに、ロゼッタは顔を真っ赤にして固まってしまう。


「そういうことは私のいないところでやって下さい!」


エミリアも一瞬固まったが、思考回路が復活するや否や、すごい勢いでミカエルを山小屋から追い出すのであった。


***


それから何十年と、ミカエルはロゼッタの元を訪れては愛を伝えた。


国王になったら王宮を抜け出すなんて不可能だとロゼッタもエミリアも思っていたが、ミカエルは国王になっても山小屋を訪れた。

ミカエルは色々と優秀で、護衛が不要なくらい強くなり、一晩だけこっそり王宮を抜け出す諜報員顔負けの技術までつけていた。


ロゼッタが強く望んだこともあり、国王としての責務はしっかり果たした。

結局三歳年上の侯爵家の令嬢と結婚をして、早々に子をもうけて優秀な跡取りとして育てあげた。


そうして今日を迎えている。


「ロゼッタ、エミリア、今日からよろしく頼む。」


ロゼッタとエミリアの住む山小屋に、ミカエルが一緒に住むことになった。

上手く工作をして、表向きは国が所有する療養地にいることになっている。誰も元国王がこんな山小屋に住んでいるなど思わないだろう。

ちなみに元王妃も別の想い人のところに身を寄せている。


「はい、よろしくお願い致します。」


「本当はよろしくされたくないんですけどね。」


ロゼッタは嬉しそうに微笑み、エミリアは迷惑そうに顔をしかめた。


「本当は私もエミリアによろしくお願いしたくないんだけどな。」


ミカエルもエミリアに対して迷惑そうに顔をしかめる。


「くっ!ロゼッタお姉さま、本当にこんな顔だけがいい腹黒が好きなんですか!?」


「ミカエルには素敵なところがたくさんありますわ。だからお慕いしているのです。」


「ふん、残念だったな。私としても何でこんな尻軽とずっと一緒にいるのか不思議なのだが。」


「エミリアは素直でいい子ですわ。」


「ほら、ロゼッタお姉さまは私のことを認めてくれてます!」


相変わらずエミリアとミカエルは火花を散らしている。


「ええ。だから私、これから大好きな二人と一緒にいられると思うと嬉しいんです。私は幸せ者ですね。」


エミリアとミカエルの殺伐とした雰囲気をかき消すように、まるで花が咲き誇るような笑顔で、ロゼッタは微笑む。


「ロゼッタお姉さまが尊い・・・。」


「ロゼッタが可愛い・・・。」


いがみ合っていたエミリアとミカエルだが、ロゼッタの一言で天を仰ぎながら悶絶する。


「ふふ、こんなエンディングもありですわね。」


乙女ゲームのエンディングから数十年。


悪役令嬢のことが好きすぎるヒロインと攻略対象者の弟と、悪役令嬢の三人の奇妙な同居生活が始まるのであった。

最後までお付き合い頂きありがとうございました!

また連載中の作品の息抜きに、番外編が書けたらいいなと思います。

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