猫な彼女とホワイトデー
俺は咲弥といつものように温かい飲み物を飲んでまったりとしていた。
「咲弥これ、そんなに手の込んだものじゃないけど……」
俺はホワイトデーのお返しに作っておいたカップケーキを咲弥に差し出した。
「え、うん。ありがと」
咲弥はカップケーキをまじまじと見つめると、顔を赤らめて俯いてしまう。
「……ありがと」
繰り返すように咲弥は呟くと、カップケーキを食べだした。
「美味しい」
「よかった」
咲弥の口に合わなかったらどうしようかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。
「……啓人にもちょっとあげる」
咲弥はカップケーキを俺の口元に押し付けるように近づける。俺は半ば強制的にカップケーキを一口食べた。
「美味しい?」
「ん、美味しいよ」
作る過程で何度も味見をしたものだ。俺はあまりこういうものは作らないが、今回は上手くできたと思っている。
咲弥は美味しそうに残りのカップケーキを食べ、俺に寄り掛かってきた。
「ありがと」
「お返し、これでよかった?」
バレンタインの時に、咲弥が言っていた「お返し、期待してるから」という言葉が頭によぎる。
「んー……」
咲弥は考え込むように目を閉じる。そして「じゃあ、まだ」と言って俺の顔を見上げ、意地悪に笑った。
「じゃあ、他に何か欲しいものある?」
「うーん。何もないかも……」
「なにそれ……」
苦笑しながら俺は咲弥の頭を撫でた。
「今はこうしてるだけでいいよ」
満足そうに咲弥は笑って俺に体重を預けた。
「今は、ね」
「そ、今は」
俺は咲弥が満足するまで頭を撫で続けた。