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誘導


昼休み

汀から誘われた私は、二人で学食に来ていた。

葵のために動き出すつもりだったので汀の誘いはちょうどいいタイミングだった。


「ね、涼は何で七瀬君と仲いいの?」


どう話を持っていくか考えていた私に汀の方から葵の話を振ってくる。


どうやら普段の行動が効いていたようだ。

葵が汀のことを好きだと気付いてから、私はよく汀の前で葵に絡むようにしていた。葵は自分から目立っていくような性格じゃない。そのままでは汀に相手にされないどころか、存在すら意識してもらえないだろう。


けれど、汀がただ一人認めている私が葵に構っていたら?

彼だけに明らかに目をかけて特別扱いしていたら?


人の価値を物のように考えている汀なら私が葵を特別扱いする理由が気になるだろう。何か私にも役に立つのか、と。


汀は昔の私だ。自分がどんなことを考えていたかを思い出せば彼女の考えもすぐにわかる。


まいていた種にタイミングよく芽が出たことに少しホッとする。



よかった、私は葵の役に立っている。



汀が他人を気にするなんて滅多にない、わざわざ自分から聞いてくるなんて、よほど心に引っかかっているのだろう。ここでもう一押ししておけば、汀は葵のことを自分にとっても有益なのか試そうとするはずだ。

汀の興味を掻き立てるように、それでいて余計なことを考えないように、私は汀の問いに答える。


「なんでって、中学の時から一緒だから。」

「えぇ、それだけ?」

「それに、いい奴だからね、葵。あんまり知らないでしょ?」

「まぁそんなに話したことないから。」

「だよね、葵は恥ずかしがり屋なとこあるから。まぁ私は好きだよ葵のこと。」

「えぇえ⁉ 好きなの⁉」


予想通り、驚いて食い付いてくる汀。

昔の私と同じなら、この子は恋なんてしたことはない。

自分から求めなくても、勝手に周りが与えてくれるから。本気で人を求めたことがない汀にはきっとわからない感覚だろう。

私もそうだった。私は与える側で他人から与えてもらうものなんてない。そう思えていたのは、満たされていたから、望まなくても充分にあったから、だから気がつかない。


汀は汀で、私のことを同類だと思っている。

その私が好きな人がいると言えば、取り残されたように感じるだろう。

まずは、意識するきっかけを作る。


「? あぁ人として好きだよって話ね。」

「そ、そうだよね。ビックリした。」

「まぁ中学の時はいろいろあったから、葵のことはかなり好きだよ。」

「はいはい、人としてでしょ。」


私の言った、人としてという言葉に汀は心底安心したようで気が抜けたような声になっていた。

それほどインパクトを与えられたということだろう。

人は一旦意識してしまうとなかなか気にせずにはいられない、この調子なら午後は葵のことが気になって仕方ないはずだ。

こうして私は汀と昼食を食べながら、午後にどう動くかを考えるのだった。




昼休みが終わってからの汀は、私の考えていた通り葵を意識しているようだった。周りによってくるクラスメイトの相手をしつつも、ときおり葵を見ている。


私はそれを意識して積極的に葵に話しかける。こんな理由がなくても葵となら一日中話をしていたいが、いつもは迷惑にならない程度で自粛している。

私が葵に話しかけるたびにこちらを気にする汀、うまく意識させることができているようだ。



葵の方はこの段階で、まだ何のアクションも起こしていない。それを考えると、放課後に告白を考えているのだろう。時間が進むにつれて緊張を隠しきれなくなってくる葵。見ているだけで心配になってくる。


大丈夫?無理しないで、私が助けてあげる。


なんて言ってしまいたくなる気持ちをグッと押し殺す。

私がするべき事は、葵を引き止めることじゃない。葵が進みやすいようにサポートすることだ。


今なら汀の興味が葵に向いている絶好の機会だ。私は葵の緊張をほぐしてあげたくて、普段どおりに何気ない会話を振っていく、放課後に上手く告白出来れば今の汀となら付き合える可能性は高い。


ただ、汀のことだ。付き合うにしてもきっと葵を試すようなことをするだろう。

だから私は、その後のことについても考えを巡らせる。


どうすれば、どの道を辿っていけば葵が幸せになれるのか、


私は葵のために生きているのだから。

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