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いつもとは違う朝


ガコンッ


私が自販機で買ったホットココアは、大きな音を朝の住宅街に響かせて落ちてきた。

手に取ってしばらく握りしめる。


十二月になり、すっかり寒くなった通学路を一人、学校に向けてゆっくりと歩く。

このくらいの時間なら、もう彼は学校に着いているはずだ。私はいつもその時間を計算して家を出ている。寒さはあまり気にならない、私が気にしているのは彼のことだけだ。



学校についた私は靴を履き替えて教室に向かう。

教室が近づくにつれて段々と騒がしくなってくる。私のクラスは特別そうだ。

ある人物の周りにみんなが集まる。委員長の織江汀。見た目も良く、勉強に運動なんでもできるみんなの人気者だ。案の定、教室は登校した彼女の周りに集まるクラスメイトたちで人だかりができていた。


私はそっちは気にすることなく自分の席へと向かう。早く、私の隣の席にいる彼と言葉を交わしたくてたまらない。


私の計算通り彼はもう自分の席に座っていた。

私はいつだって彼のことを想っている。ご飯を食べている時、勉強をしている時、お風呂に入っている時、四六時中私の頭の中は彼のことだけだ。


そんな彼を目の前にして、興奮する自分を隠すように、いつも通り平常心を意識して声をかける。


「はよ~」

「涼さん、おはよう。今日は眠そうだね。大丈夫?」


私の声に振り向いた彼、七瀬葵は優しく微笑んでくれた。

その光景を目に焼き付ける。彼の声、表情全てが愛おしい。

それでも私は、そんな気持ちを表には出さない。私の立ち位置はあくまでも友達、それ以上は望んではいけない、それでも隠しきれない想いは冗談にして伝える。


「ダメかも、葵ぃ〜私が授業中に寝たらバレないように起こして。」

「え、どうやって?」

「優しく私の肩を触って、耳元で囁くの、涼さん 朝ですよ。って!」

「りょ、涼さん!そんなことできないよ!」


私の言ったことを想像したのだろう。少し考えるようにしていた葵の顔がみるみるうちに赤くなっていた。


「ふふっ、かわいいヤツめ。…葵と話してたら目覚めてきた。あんがと。」

「そ、そう?それならよかったけど…」


からかわれたと思ったのか、なんだか納得いかない様子の葵、そんな表情も好きだ。

葵のことならどんなことでも全てを私に向けて表現してほしい。


鞄を置いて私も自分の席に座る。その時に、朝買ったホットココアを葵に見えるように机に置く、


「あ、それ美味しいよね。僕好きなんだ!」


知ってるよ。

葵は甘い飲み物が大好きだもんね。冬になるとよくこのココアを買ってるから、だから私も買ったんだよ。


「…飲んでもいいよ、はい。」

「え⁉ でも、それもう涼さんが飲んでるよ⁉」

「私と間接キスすんのやなの?」

「ちょ⁉ りょ、涼さん‼」

「葵は初心すぎると思うなぁ。気にしないって、これくらい。」

「そ、そうなのかなぁ。」


一人で慌てている葵を見つめる。ずっとこうしていたいくらいだ。

他のクラスメイトたちは教室の入り口辺りにいる委員長の周りに集まっているため、私と葵の周りには人はいない、少しの間だけだが、葵と二人だけの時間を過ごせる朝の時間を私は気に入っていた。


けれども、やっぱりそう長くは続かなくて、クラスメイトの人だかりがこちらに移動してきた。


「涼!おはよう、来てたんなら声かけてよね。寂しいなぁ。」


クラスの人気者。委員長の織江汀がクラスメイトたちを引き連れて私のところまでやってきた。

モデルのような容姿、勉強、運動共に学年でトップの成績。人からの注目を集めるには充分な要素をもった人物。それでいて、気さくな性格も相まって学校中の人気者だ。


けど、私にはわかる。


この子はきっと、昔の私。葵に出会う前の私だ。

ただ隠そうとしているか、どうかの違い。根本は一緒、周りの人なんて物のように思っている。同じだから見ているだけですぐにわかった。


「あぁ、あの人ごみをかき分けて行く気力がなくてさ、後から行こうと思ってたよ。委員長。」

「もう、委員長じゃなくて汀って呼んでって何度も言ってるでしょ。」

「ごめんって汀、委員長って言いやすいからついさ。」

「そんなに言いやすいかなぁ?」

「言いやすいって!ね、葵もそう思うでしょ?」

「…え⁉︎ そ、そうかもね!」

「ふ〜ん。まぁ涼がそう言うなら、そうなのかもね。」


汀は葵の言葉を適当に流していた。自分が認めた存在、つまり私以外の意見には興味がないのだろう。

その後、授業のチャイムがなり、それぞれの席に戻っていくクラスメイトたち、そんな中葵は戻っていく汀の背中をじっと見ていた。


その瞳には、不安、緊張、期待、決意いろんな色があらわれては消え、あらわれては消えて、葵の心の揺れ具合を表しているようだった。


明らかにいつもとは違う。


葵はこれまでもよく汀のことを見ていた。

葵は汀のことが好きなのだ。きっと、高校に入って初めて会った頃から…。

葵の事ばかり見ている私にはすぐにわかった。それでも今日の視線はいつもとは違う。


その様子から私は察する。きっと、告白するつもりなのだ。






だったら私のやるべきことは決まっている。


そのために今まで汀と仲良くしてきたのだから…

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