従属の魔王
急いでヴィーグに戻ると、戦いは終わっていた。
「お前達はここの人間か?」
ガラス玉のような無機質な目が俺達を見ている。
「そうだ。何があったのか聞かせて貰ってもいいか?」
「では、こちらに来い。我らが新しい主、魔王ヴァモ様の元へ案内しよう」
この亡霊みたいな兵士についていく以外に道は無いらしいな。
「ついていって大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないな、狼煙が上がってから一時間も経っていない。それなのにヴィーグはすでに魔王の手の内だ」
ヴィーグの中は異常などなかったかのように生活をしている。
兵士達は剣技を鍛えてるし、農夫は畑を耕している。
昨日までと何ら変わりない生活を繰り返しているように見える。
建物が破壊されるほどの争いも無いし魔王に制圧されたのか。
「ヴァモ様、住人が六名帰還しました」
案内された先には怪物がいた。
人間の倍以上はある狼が鎧を着て地面に胡坐をかいている。
「その目つきはこの町がどうなっているか理解しているな。ならばお前達に選ばせてやろう、俺の下で忠誠を誓うか、勝てぬ戦いを挑むか」
班長でも勝てないであろう圧倒的な力を感じる。
俺の力が通じれば勝てるけど、魔王に通じるかは未知数で通じなかった場合は俺の力が敵に渡ることになる。
そうなればそれこそ世界はこの魔王の手に渡ってしまう。
「聞くまでも無くわかるだろう? 人間がこんな時どう返答するかは」
全員が武器を構える。
「知っているさ、戦は心が躍る。強き心をへし折り従属させることが至高の時だ。さあ、かかってこい従属の魔王が相手をしてやろう」
「リィンフォース」
「メテオスコール」
様子見も何もない最初から倒すつもりの上位の炎魔法。
ヴァレンシアの強化を受け、威力があがったその魔法が魔王にぶつかる。
「『賢者』と『神官』の魔法か、この程度だとしたら興ざめだな」
上位魔法でも体毛一本燃やせず、魔王は立ち上がることもせず腕力だけで腕を振る。
それを二人の『聖騎士』が渾身の力で受け止める。
地面に突き立てた盾が地を抉りながらも辛うじて防ぎきる。
「これくらいは防ぐがッ――」
「ビックバン。そんな大口開けるなんて余裕だね」
体内に直接上位の爆発魔法が炸裂する。
「口に直接とは中々器用ではないか。流石に少しだけ痛いな」
決着がつくとは端から思っていない。
目的は攻撃のために突き出された腕だ。
俺は爆炎に身を隠し、魔王の腕に触れる。
成功するか失敗するかの不安はあったが、最初からこれ以外に勝つ見込みはない。
そして運良く賭けに勝った。
触れた魔王の右腕は灰に変わる。
しかし、それだけだった。
魔王の体は健在で灰に変わった右腕からは血も流れない。
失敗したのか?
「お前もあいつと同じ力か。そんな人間がいるとは思ってなかったよ。今やるのは分が悪いな、ここは一度逃げさせてもらう。やれ配下よ」
魔王の声に反応したヴィーグの住人は。俺達を取り押さえるように向かってくる。
「ここは私達が切り開く。お前は魔王に集中しろ」
班長達が作ってくれた道を通り魔王に向かう。
「この距離なら我の方が早――」
「お前を逃がすつもりはない、シールドバッシュ」
いつの間にか魔王の背後にいた騎士長は、振り向きに合わせ魔王の頭部に盾の一撃を加える。
脳に問答無用で衝撃を喰らい、魔王はそのまま地面に倒れる。
「伏兵、か……、俺の負けだな。またしても夢半ばで死を司る者に阻まれてしまうのか……」
「またしてもってお前は他にも『死神』に会ったことがあるのか?」
「いや、俺が会ったのは『死霊術師』だ。右腕はその時そいつに切り落とされた」
だから俺が触れたのに全身が灰に変わらなかったのか。
「そいつは部分的にも灰にできるのか?」
「仲間の事はこれ以上教えられないな。俺にも魔王としての矜持があるのだ」
その目は魔王とは思えないほどに澄んだ光を宿していた。
「最後にお前の名前を教えてくれ、従属の魔王を倒した英雄の名を」
「ウォル・ノーグル」
「ウォル・ノーグルか俺の魂に刻んでおこう。これで心残りはない」
ゆっくりと目を閉じた従属の魔王の体に触れる。
魔王の体から寿命が消え去り、真っ白な灰に姿を変える。
それと同時に従属していたヴィーグの人々は意識を取り戻していく。
従属の魔王は『死霊術師』の事を仲間だと言った。
それも俺と違い体の一部から寿命を奪い取れるらしい。
つまりそれは『死神』の上位職ということになる。
そいつには果たして俺の力が効くのか……。
「ウォルさん!」
「うぇっ! シャル? どうかしたのか?」
「姉さまが声かけてくれてるのに、無視とか本当に死ねばいいのに」
「班長と騎士長が呼んでます」
「ごめんありがとう」
気をつけていたつもりだったけど、集中しすぎていた。
動き回ってなかっただけマシだけど、下手したら他の人を灰に変えていたかもしれない。
「やっと来たか、今しがた情報交換を終えたところだ。これから九班は遺跡から逃げた三体の魔王を討伐に向かう」
「討伐って、そんなの俺達だけでは無理です」
「それは従属の魔王が言っていた『死霊術師』の事についてだな?」
「はい、騎士長も聞いていた通り、同じ力を持った魔王がいると思います。そうなると技術の無い俺には勝てる見込みはありません」
俺が今まで負けていないのは触れたら勝てるからだ。
俺と同じ力を持った敵がいるなら、ほぼ間違いなく能力が効かない。
自分で触っても灰にならないように、敵に触れても灰にはならないだろう。
そうなれば実力勝負なのに、戦闘技術を持ち合わせていない俺が魔王に勝てるはずがない。
「そいつには勝てなくても、他の二体の魔王には勝てるはずだ」
「それはまあ、そうですけど……」
「やはりそうなるか、俺が国に掛け合ってこよう。小僧はいつも通り森の探索でもしてろ」
「そんなに俺達が邪魔ですか?」
騎士長の言葉にムカついて、つい口答えしてしまう。
「倒せるかわからない魔王退治に向かわせて俺達を処理したいですか?」
「俺はお前達が嫌いだ。反抗的で輪を乱す存在だ。だが、実力は認めている。九班は俺に扱えない連中を集めている班だが、排除するために集めているわけではない。俺はこのヴィーグを治める騎士長だ。自分の好き嫌いを優先してハイネスの利益を不意にするほど無能ではない。今までの戦果を見てヴィーグが総出で動くよりお前達を先行させた方が、利になると考えただけだ。反論はあるか?」
「あ、ありません……」
体よくつかわれていることに違いはないが、長として利益があるように動く。
その考えに感情以外で反論することはできない。
「本当にこの騎士長はムカつくよね」
「それでは九班は準備をして待機、国王に報告が終わり次第今後の対策を話し合う」
俺の中で少しだけ騎士長への考え方が変わった。
どうやらただ傲慢な人間ではないらしい。




