ココリの遺跡
ボルガノ砦を制圧した翌日、九班に新しい仲間が増えることになった。
「ルゥ・コープス。『調教師』好きな物はシャル姉さまです」
俺がプリクト兵と戦っている間に何があったのか……。
いや、ざっくり話は聞いてはいるんだけどさ、副班長の魔法から身を挺して助けたって情報は聞いてるし、それに恩を感じているのは理解できるんだよ。
でも、そこまでぴったりくっつく? 腕に抱き付いて離れる様子もない。
帰る途中もその調子で誰かが話しかけると睨んでくる始末だ。
シャルはすでに疲れ切った顔をしている。
「みんな知っている通り、こんな状態だが気にしないでやってくれ。シャルは疲れたらちゃんと離れるように言えよ」
「わかりました」
これはなかなか言えない奴だな。
新しい環境で慣れるまでは側にいてあげようとか思ってるんだろうな。
「ルゥ、一緒にいるなら少し離れた方がシャルも疲れないと思うぞ」
「話しかけるなって言ったよね? ルゥはあんたが嫌い『死神』なんだったらさっさと死んでくれる?」
俺はなぜかルゥに嫌われている。
男だからか? 一人だけ男だからなのか?
「ノーグルさん、落ち込まないでください、私も似たような反応ですから」
男性があまり得意ではないらしいヴァレンシアに気を使われる始末だ。
班長達はもうすでに俺を慰めることをやめている。
「二人とも、遊ぶのはやめて手伝え。なるべく早くここを使えるように修繕するんだからな」
「うぃーす」
ボルガノ砦を手に入れた俺達が最初にしないといけないのは修繕だ。
班長が直談判した結果、厄介払いなのかこの砦の守護を任された。
それに合わせて人員の補充もされ、今朝から急ピッチで作業が続けられている。
しかし俺に仕事は回ってこない。
修理と『死神』は相性が悪い。
解体作業なら得意なんだけどな。
「俺見回りに行ってきます」
「それならヴァレンシアも連れていけ、道も教えないといけないしな」
班長命令で探索に向かうが、教えられるほどこの森に詳しくはない。
せいぜいヴィーグと砦の道くらいしかわからない。
そうなると必然的に迷子になる。
足元には灰がばら撒かれるから正確には迷子ではないんだけど。
「ここってどのへんだ?」
「この辺は遺跡の近くですね」
「道知ってるのか?」
「はい。この辺りは二年いますから、地図は覚えてますよ」
班長が道を教えるっていうのは、俺の事か……。
てっきり俺がヴァレンシアに教えると思ってた。
配属三日目だもんな、教えるどころじゃないよな。
「その遺跡って何があるんだ?」
「正式にはココリの遺跡です。言い伝えでは邪悪な存在をココリという神の使いが封じ込めた場所とされていますね」
そういうのってどこにでもあるんだな。
「流石『神官』そういう歴史に詳しいんだな」
「こういう話は昔から好きなんです。勧善懲悪みたいなのが特に」
「その遺跡って入っていいのか?」
「大丈夫ですけど、本当に何もない場所ですよ。大きな彫刻があるだけで神話が好きな人くらいしか見に行くことはないです」
それはそれで気になるな、邪悪な存在ってのも面白そうだ。
なんかこう、男心がくすぐられる。
ヴァレンシアの案内で遺跡に向かうが、さっきまでの感情が嘘のように消えた。
ピラミッドや古墳のような物をイメージをしていたのに、そこに在ったのはただの洞窟。
山をくりぬいただけの洞穴だった。
もっとこうパルテノンとかピラミッドとかそんな大がかりな物だと思ってた。
「これが遺跡……?」
「気持ちはわかります。教本に乗っている様な建物じゃないですから」
こういう場所でも、歴史を勉強している人が見れば何か思う所があるかもしれないけど、遺跡って単語に惹かれてきた人間にはがっかりな場所だ。
「入ってみますか? 彫刻は大きいので少しは見ごたえあると思いますよ」
「一応見てみようかな」
この調子だとあんまり期待できない。
本当に凄いなら盗賊に盗まれるはずなのに、未だに現存しているってことは大して凄い物じゃないんだろう。
期待しないままに遺跡を進んで行く。
中は外観から想像できる通り、簡素というよりは雑な作りだった。
岩山をただくりぬいて人が通れるように作られただけで、道とは決して呼べない。
「邪悪な存在ってこんな狭いところで何してたんだ?」
「違います。封印されてからここが作られたんです。四体の邪悪な存在がココリに封印され、それをこの遺跡で蓋をしたんです」
てっきりこの岩山におびき出して封印していたんだと思っていたけど、逆だったわけだ。
そういうことならここがただの岩山でもしょうがないか。
漬物石みたいな感じだもんな。
「ところで邪悪な存在って言ってるけど、それってなんなんだ?」
「この先に答えはあります。数万年で歴史の中で千体ほどしか存在が確認されていない、魔に染まりし物の王。魔王ですよ」
くりぬかれた道を進んだ先にある大広間。
天から差し込む太陽はそこに並ぶ三体の石像を照らし出している。
俺の三倍はありそうな巨大な石像は、今にも動き出しそうなほどに精巧な物だった。
「こいつらに名前って――」
「ノーグルさん、急いで戻りましょう。これは大変な事態です」
突然走り出したヴァレンシアを追いかける。
「いきなり走り出してどうしたんだ?」
「あそこには四体封印されていたんです。少なくとも二年前までは」
「一体少なくなってる」
俺が見たのは三体だ。
つまり誰かがあそこから一体盗み出したってことか。
「封印が解かれたってことになりますね。天井に開いた大穴も以前は開いていませんでした」
「それも魔王が壊したっていうのか? それで何が逃げ出したのかわかるか?」
「死の魔王ノヴァの像があそこから消えていました。不死の存在で死体から魔獣を作り出す魔王です」
俺と似てるけど違うのか。
ネクロマンサーみたいなもんか。
「あいつが逃げ出している状態で戦争を続けるのは最悪です」
「死体を使うんだから当然か。なら少し急ぐ、ボルガノはこの方向でいいよな? 灰を被るけど、我慢しろよ」
森を壊したくはないので今までやらないようにしてきたが、急を要するらしいし仕方がない。
大鎌を取り出し、最短距離を突っ走る。
触れた草木は一瞬で灰に変わり白い道が出来上がり、すぐにボルガノにたどり着くことができた。
班長に報告すると、すぐに調査隊が組まれた。
戦闘員は同じ班や隊ごとにチームを組み、非戦闘員は砦の修復作業とヴィーグへの連絡係になる。
第一発見者の俺とヴァレンシアがいる九班は再び遺跡に戻ると、遺跡は崩壊していた。
「ウォルがやったってわけじゃないよな?」
「はい」
岩山は瓦礫となって周辺に散らばっている。
自然に崩れたとはとても思えず、間違いなく中から破壊の意思を持って壊している。
「魔王が全部逃げてしまったみたいですね」
「あの、おとぎ話くらいでしか魔王って知らないんですけど、逃げたらどうなるんですか?」
「国が全勢力をつぎ込んでようやく討伐ってレベルらしいな」
「過去最凶と言われる魔王は、世界の半分を海に変えてしまう程に強力だったと言われています」
地形を変える魔王ってどんだけの怪物なんだろう……。
そこまで行くと『死神』が通用するのかも怪しい所だな。
「ここで魔王談義してても仕方ないよ」
「そうだったな、魔王がどの方面に逃げたのかわかればいいんだけど」
「一体はヴィーグの方、もう一体はプリクトの方、もう一体はあっちのガノマノフ山脈に向かってるよ」
ルゥが地面を見るなりそう断言した。
「ルゥちゃん、なんでそんなのがわかるの?」
「足跡を見ればわかるよ。ヴィーグに向かってる足跡は犬と似てるけど大きさも重さも全然違う、他にも二種類熊っぽいのと、人っぽいのがあるけど、同じ理由で野生では存在してない大きさだから、それぞれが進行方向に足跡残ってるから方向だけはわかる」
よどみない説明に地面を見るが、いまいちわからない。
確かに足跡はあるが今言われた三つ以外にも野生の動物の足跡も見える気がする。
進行方向も言われれば獣道が広く見えるけど、この足跡と同じなのか判断ができない。
「ルゥの言う通りに進んでみよう。プリクトとガノマノフ方面に向かった奴は一度保留にする。まずは自国の問題から解決しよう」
「ルゥお手柄だった?」
「うん。ルゥちゃんは凄いね。なんでそんなことわかるの?」
「ルゥはちょっと前まで『狩人』だったから」
じゃあ、『調教師』の前は『狩人』だったわけか。
話には聞いていたけど職業が変化するって本当にあるんだな。
「無駄口叩いてる暇はない、急いでいくぞ。ルゥ道案内を頼む」
「ルゥちゃんお願いできる?」
「姉さまのお願いなら」
やっぱりシャル以外と話す気は無いらしく、シャルに言われるまで動こうとしない。
本当にこいつはシャル以外はどうでもいいと思っているらしい。
ルゥに足跡の追跡を頼み、全員で後を追う。
「ヴァレンシア、犬のような足跡の魔王はどんなのだ?」
「たぶん従属の魔王だと思います。獣人が魔に染まった魔王です。触れた全てを従わせる魔王だと聞いています」
全てを従えるっていかにも魔王っぽい能力だな。
ルゥの上位互換って感じだな。
「厄介なのは獣人ってところだな」
まだ実際に会ったことはないけど、人の体に動物の力を宿している種族だっけか。
魔力回路を身体能力の向上に当てていて、魔法を使えるのは極わずかで身に宿した動物の特性も使えるはずだ。
「それならまた俺が先陣を切りますか?」
「おすすめはできない。相手は魔王だから、あちらの能力が先に発動するかもしれない」
ボスに即死攻撃が効くかわからないってことか。
俺なら早かろうが強かろうが負けないと思ってたけど、魔王に寿命があるのかもわかっていないのか。
寿命が無ければ奪いようは無いしな。
「狼煙だ急ぐぞ、作戦は移動中に伝える」
ヴィーグの辺りで緊急事態専用の赤い狼煙があがる。




