ボルガノ砦襲撃
「今日から新人が新たに一人増える」
「ヴァレンシア・ストレージです。『神官』です。よろしくお願いします」
翌朝、ボルガノ砦へ向かう前に新しい仲間が増えた。
『神官』は名前の通り神に仕える存在なのだが、『神官』を含め僧侶系統の職業は回復や補助系の聖属性魔法を使えるせいで、こうやって戦場に駆り出されることがある。
それくらいに戦場では必要な職業だ。
俺には関係ないが、前衛で戦うことの多い班長やシャル、動きやすさ重視で軽装の副班長には喉から手が出る程に必要だ。
そんな新しい仲間だが、職業よりも注目する点がある。
圧倒的なスタイル。
清楚な神官専用の修道服では抑えきれない豊満な胸、ツンと上に持ちあがっている大きな尻。
それほどの物を持ちながらも背は高くウェストは細く引き締まっている。
グラビアアイドルよりも完成されたプロポーション。
その上、雪のような白い肌に純金よりも綺麗な金髪とどこを見ても完璧な女性だ。
「ウォルさん、失礼ですよ?」
「はっ、ごめんなさい。あんまりにも綺麗だったもので見惚れてしまいました」
シャルに言われるまでガン見してしまった。
ヴァレンシアも居心地が悪いらしく背を丸めて小さくなってしまった。
「気持ちはわかりますけどね、まるで絵画や彫刻みたいに綺麗で羨ましいです」
「そんなこと、ないです。できれば見ないでください」
「彼女は視線を怖がるらしい。見たくなる気持ちはわかるがあまり見るなよウォル」
「名指しはやめてください」
見てたけど、さっきめっちゃ見てたけど名指しされると俺が悪いみたいじゃないか。
現にシャルと副班長が俺を冷めた目で見てるし。
「ウォルの監視はシャルに任せるとして、これからの動きを説明するぞ。目的はボルガノ砦の陥落。できることなら砦ごと手に入れたいが、無理なら破壊する。先陣を切ってもらうのは今回もウォルだ」
「わかりました」
捕虜の話だと現在砦に残っているのは数百人程度。
昨日の襲撃に砦の戦力の三分の二をつぎ込んでいたためかなり手薄で、救援を出したとしてもニ三日はかかるらしい。
そのくらいなら問題はない。
「ウォルが敵の目を引いてくれている間に、私達四人は砦の中に侵入し残ったやつらを殲滅する」
俺が囮で内部から切り崩していく作戦か。
いつも一人で突撃っていうのは退屈だけど、俺の能力を考えればそれが一番だな。
「それともう一点目標がある。『調教師』を捕まえておきたい。死なせてしまったならしょうがないし、命を危険にさらしてまで捕まえる必要はないが、可能なら捕縛してもらいたい」
相手の性格にもよるが、あの大群を生み出せる戦力は確かに欲しいよな。
そう言えば騎士長との話でもその話題が出ていた気がするな。
作戦会議が終了しそれぞれが準備期間になった。
「ウォルさん、また先陣ですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫。疲れもないし、俺自身が頑張ることはないから。シャルに心配されるほどじゃない」
俺は不審人物として敵の中に行って子供が駄々をこねるように鎌を振るだけで、人の命を簡単に奪ってしまう。
技術も知恵も力もいらないんだから疲れるはずもない。
「体じゃなくて気持ちの方です。目の前で人が死ぬのは例え敵だとしても心を蝕んでしまう。それを心配しているんです」
「ああ、気持ちいい物じゃないけどね、俺はまだマシだと思ってる。寿命を奪う瞬間に感触は無いし血が噴き出ることも無い。それよりは灰が崩れるくらい大丈夫だよ」
「辛くなったら言ってくださいね。支えることは無理ですけど、守ることはできます。『聖騎士』ですから」
シャルは線も細いし、こんな戦場に出るタイプじゃない。
力こぶを作るポーズをしても鎧のせいで確認はできない。
それでも凄く心強く感じた。
†
準備を終え、かなりの速度で移動したおかげでボルガノ砦には昼前に到着することができた。
魔獣に出会うことを想定し移動していたが、運良く魔獣に遭遇することも無く一度休憩を取ることにした。
「俺はそろそろ行きますね」
「いつも大変な役を頼んですまないな」
「平気です。ここを落とせば、戦争も楽になりますから」
すっかり軍人気取りだな。
一昨日まで村で遊んでいたはずなのにな。
自嘲しながら砦の門に向かう。
昨日と同じようにフードを目深に被り、大鎌を担ぐ。
こんなに明るいと不気味さは無くなってしまうが、それでも構わない。
おそらく昨日逃げた連中が俺の姿を伝えているはずだ。
「止まれ、それ以上近づくようなら矢を放つ」
「やってみればいい」
対話の意思はないと足を進める。
そして矢が一斉に放たれ、俺に触れた矢は全て灰に変わる。
「おい、あの恰好は報告にあったやつじゃないか?」
班長達が捕まえられなかった連中もやっぱりいたらしく、噂は広まっているらしい。
「あいつを近づけるな。遠距離で仕留めるぞ」
弓と魔法が何度も放たれる。
巻き起こる煙を鎌で払う。
「そんなのは無駄だと言われなかったのか?」
「何か仕掛けがあるはずだ。手を休めるな撃ち続けろ!」
そうだどんどん攻撃して来い。
俺を倒すためにもっと人員を集めて来い。
「今ので終わりか?」
「プリクト兵を舐めるな!」
切りかかった剣も灰に変わり、勢いのあまり体ごと灰に変わってしまう。
「化物だ!!」
ちょっと失敗だったか?
人が灰に変わる瞬間を見てしまったプリクト兵は叫び声をあげ逃げ出してしまう。
この状況は少し拙いな、砦の中にいる連中まで逃げ始めてしまった。
そうなったら班長達と遭遇しかねないな。
「誰か、コープスを呼んで来い! 化け物は化け物にしか倒せない!」
コープスって誰だ?
俺と同じ『死神』だとしたらかなりヤバい。
俺は『死神』になってから日が浅いし、戦う訓練もしていない。
まともにぶつかって勝てるかわからない。
「おい、コープスってのはなんだ?」
「『調教師』さ、あいつの魔獣コレクションの中にはお前を殺せる魔獣がいる」
コープスって名前なのか。
でも魔獣で俺が殺されるとは思えないけどな。
熊とか狼みたいな魔獣なら昨日かなりの数倒したし。
「そこまでだ死神! 待たせたな、ボーンドッグを連れて来たぜ」
砦の奥から出てきたのは一人の男と、骨の犬?
あの男がコープスってことか?
「昨日逃げてきた兵からお前の情報は得ているぞ。死をもたらす死神だと言っているらしいな。それなら最初から死んでいる魔獣ならお前の力を受けないだろ?」
「そうかもしれないが、違うかもしれないぞ」
あれって寿命あるのかな?
っていうか、あの犬はどうやって動いてるんだろう……、骨だけで筋肉とか無いけど、魔法で動いてるのかな?
「噛み殺せボーンドッグ!」
効くかどうかはやってみればわかるか。
大鎌を全力で振る。
ボーンドッグはひらりと攻撃を避け、むき出しの牙を向ける。
そして俺に牙を突き立て灰へと変わった。
「えっ?」
「どうやらそちらの策は尽きたらしいな」
動けるんだから寿命くらいあるよな。
よく考えたら剣だって灰になるんだから死体も灰になるよな。
アンデッドにも寿命はあるってことか、一つ勉強になった。
「おい、お前がコープスか?」
「ち、違う! 俺じゃない、俺はただコープスから魔獣を借りてきただけだ。だから命だけは助けてくれ!」
違うのか……、登場の仕方がピンチに駆け付けたヒーローっぽかったのに違うんだ……。
「そうか、死にたくないなら武器を捨てて投降するんだな」
さてここからどうするかだな。
なるべく班長達とは関係ない位置に居たいけど、敵の数も減らさないといけないんだよな。
「俺に刃向かう気概のある兵士はいないのか!」
もう少しここに人が来るか待ってみるか。




