英雄の一撃
「見えてきました」
「町長の場所場所に落としてくれ」
「わかりました。任せてください」
上から見るとどれほど苛烈だったかがよくわかる。
抉れた大地、倒壊した家が城までまっすぐ伸びている。
噴煙の立ち上る王都はどこが戦場になっているのかわからない。
「準備は良いですか? 落としますよ」
「いつでもいいぞ」
うわっ、怖っ……。
支えてくれた感覚がふっと消え、自由落下に変わると急に不安が襲ってくる。
落下地点にしていた町長の体がどんどん大きくなってくる。
「町長、助けてぇぇ!」
「ウォル!?」
俺が落下しているのに町長はすぐに気づいてくれたが、少しだけ間に合わず、俺は城壁を灰に変え何とか着地した。
「何してるんだ」
「急いでたからさ、丁度よく町長が見えたから拾ってもらえるかなと思って」
「危険なことをするなと言いたいが、助かったよ」
「あれが、魔王の総大将ってことでいいんだよな?」
見た目は俺達と同じ、それどころか少し地味なのに、威圧感が人間のそれじゃない。
これが魔王なんだと思い出させられた。
「『英雄』の到着、タイムリミットか」
魔王は全てを諦めたのか地面に座る。
シャルを含めた人間の最高戦力を相手に、ほぼ無傷だった相手とは到底思えない。
「どういうつもりだ?」
「見たままだ。この戦いは俺の負け、『英雄』がたどり着くまでに人間を殺せれば俺の勝ち、殺せなければ俺の負け。そういう戦いだったんだよ」
何がどうなってるの?
「ウォル、気を抜くな。そいつを倒して初めて私達の勝利だ」
「はい」
正直気は進まないが、俺以外が全員身構えてるしそれが正しいんだろう。
『英雄』から『死神』へ変わり、手を伸ばす。
「俺は支配の魔王ゼログラフだ」
「覚えておくよ」
「支配とは触れるものを思い通りにできる力だ」
「それがどうした? 自分は役に立つから生かせとか言うのか?」
「俺が今何に触れているかわかるか?」
「何って地面だろ?」
「ウォル待て、そいつは今この星に触れている!」
「流石リグレス、その通りだ。この星を支配した、俺の命を今奪えばこの星もともに死ぬ」
そんなことはあり得ないとは言えない。
『死神』だってありえない力を使える、それを考えればはったりとは言い切れない。
『英雄』なら魔王だけを倒すことはできるが、醜類の魔王に使ってしまったせいですぐには使えない。
それどころか一撃が撃てる条件さえまだわかっていない。
「残念だったなシコメに『英雄』の攻撃を使わなければ勝てたのにな。だが安心しろ、人間を全て殺せばこの星を手放そう、そうなればお前に大人しく殺されよう」
醜類の魔王をぶつけたのもそれが理由か。
結局魔王の手のひらの上か……。
なにが『英雄』だ、必要な時に使えないじゃないか!
「ウォル行くぞ。お前は私と他の魔王を倒していく」
「わかりました」
「下を向くな。お前が私達の切り札なのは変わらない」
「はい」
「そんな回を聞いてお前達を逃がすと思っているのか?」
「思ってませんよ」
俺に触れようと動き出すゼログラフをシャルが止めてくれた。
「邪魔をするな。お前達の誰も俺には勝てない」
「勝ちますよ。どんな状況でもウォルくんは必ず勝ちます。だからそれまで全部を守るのが私の役目です」
ここまで言ってもらえるなんて、こんなにも頼ってもらえるなんて俺は幸せだ。
「支配の魔王ゼログラフ!」
だから俺は叫ぶ。
「俺が必ずお前を倒してやる、首を洗って待ってろ!」
班長と共にその場を走り去り、残りの魔王の元に向かう。
†
「約束された勝利の一撃を放てば魔王だけを倒せるが、それを放つための条件がわからないってことか」
「そうなります。撃てたのは死の魔王、血の魔王、醜類の魔王くらいです。最初の魔王二体を倒した時は間隔はあんまりあいてませんけど、血の魔王からはしばらく撃てない状況でした。醜類の魔王にたどり着いてから撃てることに気がついたんです」
「その間に何かあったとかじゃないのか?」
「無かったと思います」
戦ってはいたけど、醜類の魔王を討伐してすぐに合流してるし、それが直接の要因だとは思えないんだよな。
「ウォル、魔王共だ」
「わかってます。班長は他の人を助けてください」
『死神』に職業を変え魔王の群れに突っ込んでいく。
大鎌を振り回し、魔王の寿命を全て奪いつくす。
「終わりました」
「なあ、お前が吸い取った寿命はどうなるんだ?」
「わからないです。生きるエネルギーになるんですかね?」
そう言えば深く考えたことはなかったな。
寿命を奪っているんだから、その寿命はどこかに蓄積されているはずだ。
てっきり俺の寿命に加算されていると思っていた。
「約束された勝利の一撃を放つ条件がそれだって可能性はあるか?」
「ありえなくはないです」
確かに死の魔王までにも沢山能力を使った、血の魔王も奴の血から沢山奪い取ったし、醜類の魔王の前にもかなりの魔王から寿命を奪った。
その間は精々瓦礫の撤去くらいで、寿命自体を奪えていない。
「やってみる価値はあるよな?」
「元から全部の魔王を倒さないといけませんから、逆に好都合ですね」
これから魔王退治を始めよう。
†
あらかた王都を破壊していた魔王から寿命を奪い、改めて支配の魔王の元に向かう。
「『英雄』の登場には少し早いぞ。それとも自分の手でこの星ごと殺す覚悟でもできたのか?」
「そんな覚悟はないさ、俺はただ、お前を倒しに来ただけだ」
『死神』の闇色の装備から『英雄』の純白の装備に換装する。
「ゼログラフ、お前は人間に戻るつもりはあるか?」
「ないな。お前は虫に変わっても楽しめるか?」
「その答えで安心した。お前は倒さないといけない」
剣に手をかけた直後にゼログラフは襲い掛かってくる。
剣は槍へ、槍は槌へと目まぐるしく武器を変化させながら攻撃を仕掛けてくる。
「お前のそれは知っているさ。だが、攻撃できなければ結局俺を倒すことはできないだろ」
「なら隙を作ればいいんだよね」
避けることで精一杯な俺の代わりに、シャルがゼログラフの攻撃を受け止める。
そのまま弾かれ隙が見えた魔王の懐に潜り込み剣に触れる。
直後、足元から一本の槍が生えてくる。
「『死神』に頼りすぎだ。今ならお前に触れて殺せるだろ?」
敵との駆け引きをしてこなかった俺にそれを避ける技術はない。
それでも構わない、俺の役割は最初から敵を倒すことだ。
剣を引き抜くよりも少し早く槍が俺の胸に触れた気がした。
なのに、痛みが来ることはなく、剣を抜く。
剣から放たれた斬撃は一筋の線になりゼログラフの体を通り抜ける。
「なぜ、届かない……? 俺の方が早かった、はず……」
「私がいる限り誰も傷つけさせない。そう言ったはずです」
吐血し、崩れそうな魔王にシャルが告げる。
俺の胸には小さな盾が付いていて、地面から生えた槍は先端が折れていた。
「俺の、負け……だ……」
支配の魔王はそのまま地面に伏した。
その最後を見届け灰色に変わった装備のまま地面に座りこんでしまう。
「疲れたー」
「お疲れ様、これで終わりだね」
「おう。シャルのおかげで助かったよ」
「ゆっくりしようとしている所悪いが、まだ仕事は残ってるぞ。王都の復興とプリクトの救援に行かないといけない」
「マジですか……」
まだ当分ゆっくりできそうにはないらしい。




