『守護者』と魔王
亜人連合が参戦し、王都での戦は苛烈になる。
一度は諦めていたハイネス軍は首の皮一枚繋がった状態で四時間が経過した。
その四時間も、多大な犠牲の上に成り立っており、もう後がない状態になっていた。
「よく粘った。人形にしては骨があるな」
「さっきから人形人形って俺達は人形じゃないぞ」
「そうだ。あたし達は生きている」
「思い上がりも甚だしいな。そろそろ人形劇に幕を下ろそう」
ゼログラフは地面から剣を引き抜く。
「コウテツ、お前と同じ『錬金術師』ってわけじゃないよな?」
「あれは錬金術じゃない、錬金術でできるのは足し算と引き算だけだ。あんな造形は作れない」
「『侵略者』それが俺の職業、襲い支配する。それが俺の力だ」
魔王が剣を振ると、剣はフレイルに変わる。
フレイルの先端が地面を抉ると、フレイルは剣に変わり、それを避けた瞬間槍に変わる。
「急に本気を出して来たじゃないか」
「お前達が人と同じになったからな」
「さっきから意味わかんないこと言ってないで、あたし達にわかるように言ってくれない?」
「老人と腕を欠損した青年が崖から落ちそうになっていたとして、お前達はどうする?」
「その二人を助ける」
グリノワールの答えに三人が頷くと、魔王はため息を吐く。
「論外だな。傲慢で食物連鎖の輪から外れた動きだな。役に立たない者を助けて何になる? 腕が無くては力仕事はできない、老体では動けもしない。そんな食物連鎖の輪から外れた連中を滅ぼし弱肉強食の世界を取り戻す。それが俺の目的だ」
「その老人は知恵を持っていて、その青年は片腕のおかげで自分でも力仕事ができる術を解決するかもしれないとしたら助ける必要はある。私ならそう考える」
三人が閉口する質問に、リグレスは駆け付けたばかりでルードの背に乗ったまま答える。
「そもそも弱肉強食を訴えるなら、強者が弱者を助けたとして何も問題はないだろ? 生殺与奪を握っているのは結局強者だ。私にはお前の言葉の方が弱者の考えだと思うぞ」
「お前がさっきまで指揮を執っていた者だな?」
「ご明察。私がリグリス・アスフィールドこの国の参謀だ。それであなたの名前は何かな弱者代表殿」
わかりやすい挑発に長の三人は冷や汗が出る。
しかし、リグレスにはこの魔王が怒りを面に出さないことがわかっている。
こいつは流星弓を止めはしたが今の今まで戦闘には参加していない。
あくまでこいつは強者だと誇示したいのだ。
そんな魔王が弱者の見え見えの挑発には乗るはずはない。
「そうだな。俺の名前はゼログラフ。支配の魔王なり」
「ゼログラフ、はっきり言ったらどうだ? 人間が気に入らないから滅ぼしたい。でも、ウォルがいるせいでその野望は叶わない、それならいっそ相打ちにしてしまえばいいと思ってるってさ」
リグレスの言葉にゼログラフはわずかに顔をゆがめる。
「中々想像力が豊からしいな。言っただろ? 食物連鎖を元に戻すために人を滅ぼす。それが俺の目指すところだ」
「それが事実だとしても、お前がやけっぱちで人間と相打ちになろうとしているのは確かだろ? すでに負けているお前がこれから何をしようと負け犬の遠吠えと変わらないさ」
次の瞬間に周囲の空気が変わる。
いくつも戦場を越えてきた長三名も、その空気に耐え切れず一歩後ろに下がる。
「例えお前が言う通りだとしても結果は変わらない。俺を止められる『英雄』は雲の上。どうやっても間に合うはずはない」
ゼログラフは両手に剣を携える。
それを前にしてもリグレスは盾さえ手に持たず、ただ立っている。
「死ね」
魔王の全力の攻撃はリグレスには届かず、金属音だけが響く。
二人の間に立ちふさがったのはシャルだった。
「無茶しすぎです。合図もくれないなんて死ぬつもりですか?」
「シャルなら平気だと信じてるからな。お前達は私の大事な部下だからな」
「調子がいいんですから。私が来たからにはあなたにはこれ以上誰も傷つけさせません」
「やれるものならやってみろ。お前ごときに止められる俺じゃないぞ」
†
「そう言うことは早く言いに来いよ」
「気づいたのはお前が行ってからだったんだから仕方ない。お姉さまは先に行ったから急いで!」
醜類の魔王を倒してようやく全部終わったと思ったが、まだ続いていたらしい。
気づいたのはルゥらしい。
翼人との会話に違和感を覚え、これが陽動だと気がついたらしい。
「今更だけど、俺はどうやって下に下りるんだ? シャルが先に行ってるなら船はもうないんだよな?」
「それなら私達翼人が運びます。宙船よりも早いですよ」
「どうせあんたは殺しても死なないんだから問題ないでしょ」
「死ぬからな?」
『死神』の力があってもこの世界中心に落ちたら流石に死ぬ。
「流石に落としたりはしませんから。安心してください」
「マジで頼むぞ、魔王を倒したと思ったら落下死って最悪だから」
幸運があるんだからそんな死に方はしないと思うけど。
それから数時間走ると、向こうも移動してくれたらしく翼人と合流することができた。
「この格好で下りるの?」
「はい。これが一番安全で早いですから」
「安全ならこれでいいや」
四本ある手足それぞりに翼人一人、それと俺の胴体に一人の計五人で俺の体を持ち上げられた。
なんだろう、こんな拷問漫画で見たことある。
四方向から引き裂く奴、いや、上に一人いるからドローンの方が近いかも。
何にせよこのまま地上に下りるのは少し恥ずかしい。
「それじゃあ、行きます。力を抜いて私達に体を預けてくださいね」
「はーい」
ジェットコースターと同じドキドキを感じると、体がふわりと浮いた。
ゆっくりと体が横に移動し、一瞬止まったかと思うと急降下を始めた。
「うわああぁぁああ!!」
二度の人生で初めてのジェットコースターに絶叫しながら、地上に向かう。
やばいな、ジェットコースターって意外と楽しいかも。




