『英雄』のいない魔王退治
「シャルさん、いつまでここで休むんですか? いつ魔王達が来るかわからないですけど」
「ウォルくんを休ませないといけないからもう少しかな」
結構騒いだけど起きないし、思っていたより疲れているのかも知れない。
「魔王が来ても私が時間は稼げるから心配しないで」
「何か森の様子がおかしいんです。怯えているような感じで」
「わかった。周囲に気を配っておくね」
確かティックさんは『庭師』だって言ってたっけ、木の様子がわかる彼女がそう言うなら魔王が近づいているのかも。
「ルゥちゃんは何か感じる?」
「何も聞えません。でも今は『狩人』の時ほどの精度はないから遠くまではわからないです」
森の中には居ても近くにはいないって感じかな。
それなら騒がないで大人しくしていれば、動物や獣人の魔王じゃない限りすぐに見つかるわけじゃないか。
「なるべく音を立てないように伝えておいて。ガルディア、いざとなったらすぐに動くから準備しておいてね」
「今がそのいざという時じゃないのか?」
ぬっと私に影がかかる。
そこには一頭の狼。
銀の毛皮が風で靡き、私が危機を感じた時には大きく開いた口が眼前に迫っていた。
「ガルディア!」
ガルディアの変身した円柱が辛うじて間に合い、魔王の攻撃を防ぐことができた。
「中々に固いな。強い女は好みだぞ、屈服させる喜びがあるからな。安心しろ弱い女も好きだ、虐げられる姿がそそるからな」
「下品な犬」
「俺は狼だ。音の魔王テリア、お前達の主人になる魔王だぞ」
「最低だね。弱い物にしか強く出れないってことでしょ? それが最低じゃないならなんなの?」
「魔王である俺に無礼な人間だ。お前を噛み殺すことくらい楽勝だぞ」
「言い訳なんかいらないから来てみたら?」
強いってそうじゃない。
少なくとも私の知ってる強い人は、弱い人だからって強く出ない。
魔王が私の前から音も無く消える。
「姉さま、後ろです!」
「オーバーシールド」
攻撃が一つ音も無く盾にぶつかった。
この魔王からは音が出ないんだ。
それと元からある速さがこの魔王の強み。
でもそれならあれを使ってみようかな。
「ガルディア、あれやってみるよ。みんな目を瞑って動かないでね」
「ご主人様、捕捉完了したからいつでも行けるよ」
「じゃあ、倒そうか」
「俺を見つけたくらいで倒せるとでも……? 体がうごかない?」
「ストリングシールド、紐の盾」
「そんなもんすぐに引きちぎってやるよ!」
「できないよ。私の盾は壊せないから、その糸の盾も壊れない」
それにオーバーシールドで衝撃は全て盾に吸収されて、結んでいる木を引き抜くこともできない。
「だからこれで終わり。オーバーパイク!」
今までの蓄積された攻撃を全て解き放つと、魔王はその衝撃に耐えきれず息絶えた。
いくら魔王でもやっぱり命を奪うって嫌だな。
そんなこと考えてる場合じゃないのはわかってるけど、やっぱり嫌な気分だ。
「姉さま大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。魔王に見つかったからそろそろ起こさないとね」
今の魔王は弱かったな。
今までの魔王とは何かが違った気がする。
「こいつらが……」
息絶えている魔王の元に女性が一人近づくと、持っていたナイフを魔王の死体に突き立てる。
「な、何してるんですか?」
「放してください、こいつらの仲間が私達の村をあんなにしたんです!」
その女性に続くように村の人々は魔王の死体に群がり、持っている武器を何度も振り下ろす。
泣きながら、叫びながら、怒りながら、笑いながら何度も何度も凶器を振り下ろす。
「やめてください! それはもう亡骸です、死んでるんです!」
「関係ない! 私達の復讐の邪魔をしないで!」
「姉さま、ルゥ達にあれは止められない」
止めたい気持ちはあっても、どうやって声をかけていいのかわからない。
そんなことに意味がないとどうやったら説得できるんだろう。
ウォルくんならこんな時どうするんだろう。
そんなことをしても家族は帰ってこない? そうやっても気持ちが晴れることはない?
そんな綺麗ごとを言ってもこの人達には響かない。
「そんなことしても家族は帰ってきませんよ」
「そんなことはわかってる!」
私が言っても意味がないと思った言葉を彼は言う。
まだ眠そうな目で彼女達に近づいて、無惨な姿の魔王に手を触れる。
「復讐したいなら俺達を手伝ってください。見てたと思いますけど、俺達は魔王を倒せるくらい強いです。でも人手が足りないんで、この国を知っているみんなが手伝ってくれたら魔王なんてすぐに倒せます。奪われた全てを取り返すことはできませんけど、取り返せる全てを取り戻しませんか? そっちの方が死体で憂さを晴らすよりよっぽど心が晴れると思いますよ?」
言われたら当然のことだったな。
今の感情を抑えるんじゃなくて、その感情を先に向けさせることが大事なんだ。
そうすれば負の感情も落ち着いてくる。
心は時間が解決するって私は知ってたはずなのに。
「じゃあ、指示はそこのルゥが出すからみんなそれに従ってください」
「ルゥに面倒な部分丸投げする気なの!?」
「私もルゥちゃんが適任だと思うよ。幻影の魔王の時は大活躍だったでしょ?」
「わかりました。姉さまがそういうなら引き受けます」
やっぱりかっこいいな。
彼が言ってくれればそれで話がまとまる。
うん、認めるしかないよね。
私はウォルくんが大好きだ。




