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職業ガチャでSSレアを引いたら死神になりました。  作者: 柚木
三章 プリクトの魔王
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 やっぱり人間って脆いね。

 こんな幻で簡単に騙される。


 叫びながら突進し壁にぶつかるウォルを見て心の中で魔王は笑う。

 壁をない様に見せ、あるはずのない壁を作る。

 敵の動く道を制限しながら体力を奪っていく。


「そんな攻撃じゃ当たらないよ。この女も報われないね」


「うああぁぁああ!」


 こんなにも簡単に逆上する。

 周りが見えなくなって、勝手に自滅していく。

 僕に一瞬で人間の首を切り落とす力なんてないのにさ。


 ヤークティヒの持っている頭は能力による偽物である。

 幻術特化ゆえの非力、並みの人間や魔獣よりは強いが、ウォル達が倒して来た魔王と比べると比べ物にならない非力さだ。

 それゆえに慎重な行動を心掛けてきた。

 幻術を使い、嘘を重ね、人を謀る。

 そうやって幻影の魔王は人を滅ぼして来た。


「どうしたの? 息が上がって辛そうだね」


「はぁ……はぁ……」


 もうそろそろ終わりか。

 こんな弱い奴を僕の元に送り込むなんて人間は本当に愚かだ。


「そろそろいいかな? お前はどんな景色で死にたい?」


「今度は畳の上で死にたいな」


「たたみ? 何を言ってるのか――、は?」


 ヤークティヒの背中がルゥに押される。

 わずかにバランスを崩した魔王には何が起こったのかわからない。


 今何が起った?

 さっきの女か、弱いからと放っておいてやったのに。

 この攻撃は避けられないが、人間の一撃で死ぬはずはない、くらった後にまずあの女をなぶり殺しにしてから――


 眼前に迫る黒い手、それが幻影の魔王ヤークティヒが最後に見た光景だった。

 いくら慎重を心掛けていても魔王は魔王なのだ。

 人間よりも魔獣よりも魔人よりも頑丈で剛力で俊敏、そんな人間が一対一で魔王に勝てるはずがないという驕り。


「マジでしんどい……」


「ルゥの作戦が効いたね。褒めてもいいんだよ?」


「何回か触れるチャンスあっただろ。なんでそこで目を逸らすんだよ」


 最初から二人はこうなるように動いていた。

 ルゥは魔王の幻術が効かないフリをし、戦闘員はウォル一人だと思わせた。

 非戦闘員だと思われたルゥが死んだ幻影を見せつけ、ウォルが自分は一人だと幻で思わされることも全部がルゥの作戦だ。

 後はウォルが魔王に攻撃し続け、ルゥが魔王の背中を押せるところに誘導すれば確実に一度は触れることができる。


「あんなに時間かかったらいつ仕掛けがバレるかってひやひやした」


「ルゥの位置を教える方法はまだあったから平気だし」


 玉座の間で天井から一羽の小鳥が舞い降りる。

 ルゥ自身の存在が認識できなくなることを見越して小鳥を放っていた。

 小鳥が飛んでいる真下にルゥが待機し、もしルゥに危険が迫っていれば小鳥はその場から離れる。

 そういう作戦だった。


「これで魔王は全部倒したし、班長に報告して俺の仕事は終わりだな」


 今回の件でプリクトとの戦争も終わるし、魔王はいなくなった。

 ヴィーグに配属されて初めて休みらしい休みが貰えそうだ。



 魔王討伐から一週間が経ち、ハイネスとプリクトの両国は和平を結ぶことが決定した。

 更に一週間が経ち正式にハイネスとプリクトで和平協定が結ばれ、その発表と同時に魔王が復活していた事実、そしてその魔王がすでに倒されていたことが発表された。

 九班の面々は英雄ともてはやされ、俺も名実ともに英雄として崇められた。


「安全なんだったら、私も西の国に行ってみたいな」


「班長はもうそんな簡単に動けないですよね。本国の参謀になったんでしょ?」


「参謀ってより雑用なんだぞ? あの書類に目を通せ、この書類に印を押せ。訓練の内容を考えろ。とか前線の班長だった私に無茶を言いすぎだ。これでは休めないじゃないか」


「ここに愚痴を言いにくる時間はあるんですね」


「無いから逃げ出して来た。昨日はルゥ、一昨日はヴァレンシア、その前はシャルに愚痴って来た」


「副班長はこうなるのをなんで放っておくのか」


 あの人なら先回り位できそうな気がするけど。


「本当に限界の時になったら呼びに来るさ。ちゃんとここに居ることも伝えてあるしな」


「公認なんですね」


 そこまでやってるならそれは脱走じゃなくて休憩なんじゃないだろうか。


「旅行楽しんで来い。一応西の被害状況の確認もあるが適当でいい。今まで散々働かせてきたからな、ゆっくり羽を伸ばせばいい」


「ありがとうございます」


 班長は他の連中にも一声かけると言い残し部屋を出て行った。

 さあ、今度は亜人の国に観光と行こうか。



 班長と副班長に羨ましそうに見送られ、俺達四人は亜人の国にやって来た。

 町長に挨拶をし今日は獣人の町で復興の手伝いをすることにした。

 元々こういうことを想定して作られていたらしく、短期間の間で建物は大分出来上がっていた。


「建物よりも土壌が酷い感じか」


「魔王の血に侵されたせいか、土が脆くなってしまっているんだ。幸い畑なんかはここから少し離れているから食料は問題ないんだがな」


 緑が豊かな場所だったのに、今となっては荒野と変わりないか。

 土地を壊すほどの魔力ってことだよな。

 早く魔王を倒せてればよかったのにな。


「そう悲しむな。どれだけ強大な力を持っていたとしても人は人だ。間違うし間に合わないこともある」


 ふわふわとして尻尾が俺の体を包む。


「全てを平等に守る。それはただの理想で誰にもできないことだ」


 そう言えば班長も似たようなこと言われてたっけか。


「自分の手が届くところを守ればいい。そうすれば守った誰かがまた誰かを守る。人はそうすることで歴史を受け継いできたんだ」


「それも理想じゃないか」


「いや、理想じゃない。自分ができることをするべきだと言ってるんだからな」


「そうかも」


 優しく温かい尻尾を抱きしめる。

 雲のような柔らかさに太陽の様な温かさが体にしみ込んでいく。


「この土壌については魔力をどうにか取り除けないかを地人に聞いているところだ」


 そう言えば人間の血が染みたからってこんな状況にはならないよな。

 ってことはこうなった原因は魔王だからだよな。


「魔王って血まで魔に侵されてるんだっけか?」


「そうだな。それがどうかしたのか?」


「少し実験してもいいか?」


 ヴァレンシアなら何とかできるんじゃないか?

 確か『神官』には魔獣とかを動物に戻す力があるはずだ。


 思いついたことを町長とヴァレンシアに伝えると、すぐに実験の準備は整った。


「失敗しても怒らないでくださいね。イレーズ」


 地面の中央に光の柱が生まれた。

 その光は天まで伸びたかと思えばさらさらと光の粒になり空気に溶けていく。

 初めて見たけどこれが魔を取り除く魔法なんだな。


「これは成功でいいんでしょうか?」


「ああ、土が戻った。ヴァレンシア、すまないが他の場所もお願いしていいか? この町に『神官』がいなくてな、森人の中には何人かいるから協力してくれると助かる」


「はい。私にできることならお手伝いさせてください」


 これで、土壌の件は解決でいいかな。

 それじゃあ、俺は他の所の手伝いでも、って影?


「町長、空から人が落ちて来てる!」


 上を見上げると人が真っ逆さまに落ちてきたいた。

 咄嗟の呼びかけにも関わらず、町長の迅速の動きでその少女は地面に激突せずに済んだ。


「翼人か? 初めて見たな」


「呼吸が浅いです、すぐに魔法で回復させます」


 ヴァレンシアの魔法で外傷はみるみる内に塞がり、翼の生えた少女の目が薄く開く。


「たすけて、ください……、ま、おうが……」


 それだけを口にし、少女は再び目を閉じた。

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