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職業ガチャでSSレアを引いたら死神になりました。  作者: 柚木
二章 亜人の国に潜む魔王
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血の魔王と血の人形

 ウォルが戦っている一方、シャル達は村へ帰還し、獣人の長グリノワールと森人の長ガルバに森での出来事を説明した。


「奇妙な足跡を発見し、ウォルが後を追っているのか」


「魔王が人攫いもしていると思い、ウォルくんを先行させました」


「それなら、そちらは彼に任せよう。こちらはこちらで痕跡を探そう」


「長、探索に出た一人が帰ってきました。どうやら魔王と遭遇したようです」


「わかった。他の隊を呼び戻せ。只人に魔王は任せ我らは人攫いの方に向かう」


 亜人の戦力を呼ぶために狼煙の準備をする。

 しかしその狼煙が上がることはない。

 組まれた木から大量の血液が溢れ出し、周囲を赤く染める。

 あまりにも唐突な出来事にただ一人を除き動きが止まる。


「オレの時とは大分違うらしいな。鼻の利かぬ獣を警戒するの必要すらない」


 報告に来た獣人の体が氷のようにどろりと溶ける。

 溶けた血液がまた形を作り、グリノワールと同じくらいの大きさの怪物が生まれる。


「お前は誰だ?」


「血の魔王メルウォルト。この町の捕食者だ」


 血の海から生まれた赤い熊にグリノワールが問うと、退屈そうに熊は答える。

 その場にいた亜人達はその姿に命を諦めた。


 どれほど誇りを胸に戦おうと、あの爪で払うだけで自分達の命を軽々と奪う。

 どれほど勇敢に戦おうと、あの牙は楽に砕く。

 どれほど知恵を絞ろうと、あの棘のような体毛を超えることはできない。


「誰でもいいです、ウォルくんを呼んできてください。彼ならこの魔王を倒せます」


 絶望に呑まれたその場でシャルが動く。

 二体の魔王と対峙してきたシャルだけが勝ちを見通していた。


「オレに勝てるというのか?」


「私には勝てません。でも、勝てる人を知っています。それまでは私が守って見せる」


「そいつが来るまで生きていられるといいな!」


 辺りを覆う血の海は姿を変え、獣人や森人の姿に変わりシャルに襲い掛かる。

 それを止めるのは、グリノワールだった。

 大木をなぎ倒す膂力を持つ一撃に、血液でできた人形は形を保てず崩れ去る。


「よい啖呵だった。おかげで恐怖に呑まれていた心に火が付いたよ。只人の騎士」


「全くその通りだな。ホーリージャベリン」


 ガルバの放つ聖なる力が血の人形を吹き飛ばす。


「お前達! 恐怖に呑まれるな、森人はこれくらいでくじける程弱くはないはずだ!」


「獣人の戦士達よ! こんな年端もいかぬ少女に負けていていいのか? 今こそ獣人の力を見せる時だ!」


 二人の叫びに獣人も森人も恐怖を払うように大声で叫ぶ。


「獣と植物がオレに勝てるはずないだろ」


 魔王は『躁血師』としての力を使う。

 町を沈めるほどの血液を操り数多の人形を作る。


「お前達の血をささげろ。それがお前達の生きる理由だ」


「私達の相手はこいつだな」


 血の人形が亜人達をぶつかり、長とシャル達の前に魔王が立ちはだかる。


「シールドバッシュ」


 魔王の一撃を受けきれないと知っているシャルは、動きを止めるため受けるのではなく攻撃を選択する。


「行動を妨げる攻撃か。さっきの啖呵は虚勢ではないらしいな」


「私は魔王が相手でも逃げないと誓いました」


「人の誓いが果たせるほど魔王は弱くないぞ」


 シールドバッシュの効果で動かせない右腕を魔王は躊躇いなく切り落とす。

 切り取った腕からは血が溢れ、腕を再生していく。


「待ち人が来るまでお前の体力が続けばいいな」


「貴様も我らの存在を忘れてくれるな」


「ホーリーレイ!」


 亜人の長二人が放つ一撃に魔王の体から血が溢れる。


「忘れてはいないさ。気にかける程ではないだけだ」


 溢れた血液は体を回復させるだけに終わらない。

 余った血液は魔王は棘に変わり二人を襲う。


「支えてください!」


 シャルは自分の身を顧みることなく飛び込み、血の棘を盾で受け止める。

 絶え間なく繰り返される連撃に、シャルの体力は削られていく。


 これ以上は盾が持たない……。

 一度避けないと。


 体をわずかにズラし、わざと後方に飛ばされる。


「逃げられると思うなよ」


 血の魔王は自分の腕を千切りシャルの後方に投げる。


 腕から体が生えた?


 腕から生えた魔王は吹き飛ばされたシャルを地面にたたきつける。


「終わりだな。勇敢な騎士よ」


 シールドバッシュでようやく対等な拳の連打。


 これはダメかも知れない。

 呼吸が辛い、盾にひびが入っている、体が言うことを聞かない。

 でも、負けちゃダメだ。

 私に意識が向いていれば他の人に攻撃が向くことはないんだ。


 決して諦めない心で限界を超え意識を保つシャルとは違い、盾には限界を超える力は残っておらず、無惨にも砕け散る。


「盾が壊れたがどうする? オレはお前が気に入った、お前が負けを認めオレに従うならここの連中は助けてやろう。お前の望み通りここの連中は守れるぞ」


 魔王は本心で言っていた。


 分身で力が弱まっているとはいえ、オレの攻撃をここまで耐えた人間を殺すのはもったいない。

 ここにいる連中の命を守ると宣言したこの騎士に敬意を表そう。


「私が、守りたいのは……、全員です。この町の人も、ヴィーグの人達も……、この世界の全員です」


「強欲な人間だな」


 昔から人間はこうだったな。

 只人も亜人も叶いもしない欲を持ち、オレに挑んできていたな。

 せめて苦しまぬように一撃で殺してやろう。


 慈悲の心を持って魔王は拳を振り下ろす。

 その攻撃は盾の破片に止められる。

 ありえないことに魔王さえも戸惑いを隠せずにいた。

 淡く発光する破片は一つの塊になり一匹の獣に姿を変える。


「ご主人様、ボクは何をしたらいいの?」


 長い体毛の猫のような姿、額には大きな赤い宝石が輝いている。

 見たこともないそれはシャルに話しかけてくる。


 この子は何?


 疑問に答えるように目の前に一枚の紙が現れる。


 この光景はウォルくんが『英雄』に進化した時と同じだ。

 この子は私の味方だ。


「ガルディア、私は魔王からみんなを守りたい」


「わかったよ」


 ガルディアと咄嗟に名づけた獣は長い体毛を使い、町の中にいる魔王と人形に絡ませる。


「これくらいで動きが止められると思っているのか!」


 動きを止められたと思った矢先、魔王の本体だけがガルディアの体毛を引き千切る。


「進化とは驚いたが、そんな連中飽きるほど葬って来たぞ」


「行くよガルディア」


 なんでだろう、心が落ち着いてて負ける気がしない。

 痛みも息苦しさも感じない。


「オーバーシールド」


 獣はその身を盾に変え魔王の拳を真正面から受け止める。


 さっきまでは受け止めることさえできなかったのに、今はここまで簡単に止められる。

 いくら殴られてもこれなら問題ない。


「充填完了したよ。いつでも反撃できる」


「ありがとう。なら全部返そう。オーバーパイク」


 全部わかる。

 細かいことはわからないけど、この技なら魔王にも通じるってはっきりとわかる。


 盾は大きく口を開け、球体が飛び出す。

 それを受けた魔王は吐血しながら片膝をつく。

 流石の魔王も自らが全力で繰り出す攻撃を受けて無事でいるはずはない。


「反射の力か、初めてだよ。人間相手にここまでやられたのは、もう手加減はしない」


 町に広がる人形が一斉に血液に戻り、全て魔王の元に集結する。

 全ての血液を吸収した魔王の体は肥大化し、そして元の大きさに戻る。


「勇敢な騎士よ、殴り合おうか」


「望むところです」


 魔王の拳とシャルの盾が激しくぶつかる。

 魔王の攻撃は盾に防がれ、シャルの反撃も魔王の再生でダメージはすぐに回復される。

 その度に相手の体からは殴るための腕が増え続ける。

 互いに決め手を欠いたまま戦いは続いていく。


「いいか、悔しいことに今私達にできることはウォル・ノーグルを探してくることだけだ」


「シャル殿の体力も無限じゃない。森人と獣人、二つの種族の力を使って至急ウォル・ノーグルを探し出すぞ」


 動けるもの総出での捜索が開始される。


「それじゃあ、指揮は任せたからなグリノワール」


「お前も死ぬなよ、ガルバ」


 回復を使える『司祭』のガルバは少しでもシャルが長く戦えるようにシャルの元に向かう。


 圧倒的な能力を持つウォル・ノーグル、土壇場で進化し魔王を抑えるまでに成長したシャル・ロワイエ。

 両者の側にいながらも一緒に戦えない現状に、ルゥもヴァレンシア歯噛みをするしかなかった。

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