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職業ガチャでSSレアを引いたら死神になりました。  作者: 柚木
二章 亜人の国に潜む魔王
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東西の歴史

「やっぱりおかしいよね」


「学んできた歴史と違いますね」


 シャル達の言うこともわかる。

 山を下りる途中だが、俺達の知っている西部は暗雲が立ち込める極寒の地で説明を聞く限り曇った南極とか北極ってイメージだった。

 それなのにこの山はあまりにも普通だ。

 空は晴天、少し肌寒いが山頂の近くと考えれば普通だ。


 魔法があるファンタジーの世界だから、東西で極端に気温や天気が違うとしても違和感がなかったけど、どうも何か裏がありそうだ。


「自分達の歴史と違うか?」


「何か知ってるのか?」


「ああ、東では西は極寒で亜人じゃないと住めない。そう教わってきたんだろ?」


「違うんですか? 教会でもそう聞きましたが」


「簡単に説明すると、亜人と只人が戦争をし、あまりに悲惨な状況が続いた。それを見かねた亜人連合の頭首と只人の頭首が話し合いの末、このガノマノフ山脈を境界として分かれることになったんだよ」


 なるほど「昔の偉い人が決めたことだから守りましょう」なんて守る人は少ないが、神が決めたことにすれば信じる人は多いってことか。


「ってことは、もしかして教会って戦争が終わってからできたってことか?」


「ノーグルさんは何を言っているんですか! 神は人を常に見ていてくださっていますよ!」


 流石神官だ、神への敬意が凄い。


「それはわからん。俺が言えるのはその嘘は互いを守るために作られたおとぎ話ってことだけだ」


「それを知ってるあんたは何なの?」


「ここを守る者は知らないといけないこどだ。西側でも国のお偉方か俺みたいな守り人にしか正しい歴史を教えられない」


「へぇー」


 自分で聞いておいたくせにルゥは早くも興味を失ったらしい。


「でもそれを俺らに教えてもいいのか? 俺達が東に戻ったらすぐ話すかもしれないぞ?」


「その時はその時だ」


 甘い考えだってカッコつけてい言いたいところだけど、ルードは確信を持っている気がする。

 獣人だしそんな能力位備わっているのかもしれない。


「ここが我が家だ。直に娘も帰ってくる、町に下りるのはその後でいいか?」


「それでいい。俺達だけで行っても争いになるだけだしな」


 ルードの家は木造の一軒家だった。

 待っている間話をしているとここはガノマノフ山脈の守り人が代々住む家で、生活に必要な食糧なんかは町から運ばれてくるらしい。

 奥さんが町に下りたのは最近町で迷子が多いらしく、その定期報告に出かけているんだとか。


「それは親御さんは心配されているでしょうね」


「私達も手伝ったほうがいいのかな?」


「姉さま、私達の目的は迷子探しじゃなくて魔王の討伐です」


「その通りだ。お前達はお前達の仕事をしてくれ。こちらの事はこちらで対処するさ」


 迷子の心配をする二人とは対照的にルゥは他人事のように嫌々会話に入っている。


「ただいま――って只人! なんでこんなところにいるの!?」


 玄関から来たのは女の子だった。

 獣人らしいけど、ルードと全然違い獣の耳と尻尾が生えているだけの普通の可愛い女の子だ。


 俺達の姿を確認した彼女は獣人らしく爪を伸ばし、攻撃の姿勢を取っている。

 かなり攻撃的な性格らしい。


「エリシア、この人達は東から勅命で来た人たちだ」


「勅命? この人達が?」


「ああ、町に着いたら詳しく話す。町に行く前にエリシアを待っていたんだよ」


「あっそ」


 そっけないが、一応は受け入れたらしく爪を収納してくれた。


「ママは?」


「今日は町に定期報告に行ってるよ」


「この人達じゃない? 只人だし獣人の子供は東じゃ珍しいだろうしさ」


「何その言い方。ルゥ達が攫ったって言いたいの?」


 その言葉には流石に怒りが沸き上がる。

 言い返そうと口を開きかけた瞬間にルゥがキレた。


「そこの男ならやりかねないけど、姉さまがそんなこと許すはずないでしょ?」


 俺ならやりかねないってどういうことだろう……。

 シャル達に目を向けると、私達はそんなこと思ってませんとジェスチャーをくれ一安心だ。


「ならやっぱりそいつが犯人じゃん」


「姉さまが見張ってるんだからそんなことできるわけないでしょ?」


 俺見張られてたの? シャルはすぐに首を振る。


「さっきから姉さま姉さまって何なの? シスコン? キモッ」


「シスコンじゃない。ルゥと姉さまは本当の姉妹じゃないし、私が愛している素敵な人なのキモくなんてない!」


「そっちの方が気持ち悪い」


 俺達の首は自然と縦に動いた。

 その愛の言葉にはシャルも少し困り顔だ。


「ルゥと姉さまの愛がわからないとは、そんな図体でも子供らしいな」


「チビのくせに態度はデカいね。いいよ、喧嘩なら買う」


「望むところだ」


「ルゥちゃん、望まなくていいから」


「姉さま私を受け入れてくれるんですか?」


「エリシアも喧嘩は買わなくていいから」


「パパ、このチビムカつくから決着つけないといけない」


「とりあえず、娘さん来たなら出発しようか」


 シャルとルードに引き離された二人は互いに両端に分けられ、俺達は下山する。

 エリシアに自己紹介をしながらざっくりと西側に来た理由を説明した。


「人攫いさん達は魔王を倒しに来たと?」


「ウォルね。ウォル・ノーグル。決して人攫いじゃない」


 ここでしっかりと訂正しないと後々まで人攫い扱いされそうだ。

 町に着いてまで言われたら俺は町に入れなくなってしまう。


「信じられない。しかもすでに二体倒してるってのが信じられない」


「本当だよ。ウォルくんは、従属の魔王と死の魔王を倒した。私はその瞬間を見てた」


「パパさあ、本当にこんなのを信じるの?」


「信じるさ、ウォルなら魔王を倒せる」


 ルードはそう言いながら視線を俺に向ける。

 娘が信用できるようにその力を見せろってところか。


 そのまま近くにあった木に触れ、『死神』の力を使う。

 木はすぐに寿命を迎え灰に戻る。


「これで俺が人攫いじゃないって信じてもらえた?」


「えっ、怖っ……」


 エリシアの本気で引いてるっぽいリアクションにかなり凹んだ。

 見せろって言われたから見せたのに……。


 山を下りること三時間、ガノマノフ山脈の西側は登って来た東側よりも整備されていてかなり楽に下山できた。


「もうすぐ町に着く、町に着いたら、面倒だろうがお偉方に事情の説明をしてもらうぞ」


「それが目的だしな、ルードのおかげですんなり話せるのは楽だよ」


「改めて釘を刺しておくが、東西の歴史については触れるなよ。事実を知っているのは守り人だけだからな」


「大丈夫だって安心しろ」



 獣人の町は町というよりも村と言った風貌だった。

 石で作られた物が異常に少なく、ほとんどが木材と藁、それと土でできていた。


「大分只人の町とは違うらしいな」


「ここが町なの? 村でしょ」


「ルゥちゃんは少し黙ってようね」


「そうか、そちらから見るとやはり生活の水準は低いか」


「まあ、そう見えるな。気を悪くしたならごめんな」


「いや、気にしてない。後で色々そっち話を聞かせてくれ」


 町の中で一番大きな屋敷が町長の家らしい。

 中にある物は名産なんだろうが、何も知らない俺にはただのガラクタにしか見えない。

 そんな屋敷の中で異彩を放つ扉があった。

 他の部屋とは違う、重々しい鉄の扉を開くと百人は入れそうな広い空間があった。

 ここはシェルターみたいな役割も持っているのか?


「東の国からの使いをお連れしました」


「そうか。どんな凶報を持って来たのだ」


 薄暗い部屋の奥からしわがれた声が聞こえるが、そこには誰もおらず白い壁だけがある。


「そのお話をする前に顔を拝見させてもらえますか?」


「部屋に入った時から長は姿を見せてるぞ」


「は?」


「これでよいか、只人よ」


 壁が突然動き出す。

 そして町をも飲み込めそうな大きな口が目の前に現れる。


「もしかしてこの部屋の壁って、町長ですか?」


「いかにも、長生きしすぎてなここでないと目立って仕方がないのだ」


 ここはシェルターじゃないのか、ありえない程の巨体が住むための部屋だ。

 頑丈そうな扉も壊れないためか。


「して、用件を話せ。急ぎの用があって来たのだろう?」


「そうです。東に封印されていた血の魔王が逃げ出し、西側に逃げてきました」


「ルード、至急町の戦士を呼べ。すぐに魔王の捜索隊を編成する」


「わかりました」


「只人よ、お前達に一つ聞くことがある」


 町長はわざわざルードがいなくなってから改めて言った。


「お前達の他には誰もいないのか?」


「いませんが、それがどうかしましたか?」


 町長がそんなことを聞く理由がわからない。


「危ない!」


 シャルに押され体勢を崩す。

 それと同時に激しい衝突音が部屋に響く。


「町長さん、これは何のつもりでしょうか?」


「怪しい人物への攻撃だ」


 一撃目は防げたが盾と競り合う尾とは別にもう一本の尾がシャルの盾を叩く。


 尾が二本?


「よそ見とは余裕だな」


 更に三本目の尾が俺めがけてたたきつけられる。

 辛うじて剣で受け止められたが、体中が軋む。


「所詮この程度か」


 部屋の明かりに照らされ、残り六本の尾がその影を見せる。


 九尾の狐?


 そして残りの六本が俺めがけ振り下ろされる。

 上下左右絶え間なく七本の尾が俺を叩き続ける。


 『死神』を使うか? 使えば勝てるけどここで勝ってもいいのか?

 町長を殺した俺達の言葉を誰が信じる?

 ここは耐えて話を聞いてもらうしかないか。


「プロテクション」


 ヴァレンシアの魔法で俺達を囲むように光の壁が現れる。


「話をするなら今です」


「我らを謀ろうとする奴らと話す義理はない」


「そうでしょうか? 私達を殺すつもりなら一番小さいコープスさんを狙うと思います。そうしないのは何かを確かめようとしているんじゃないですか?」


「ほう、何を確かめていると思うんだ?」


 確かめる?

 そうか、それで他の同行者を聞いていたのか。


「ヴァレンシアありがとう。後は俺が信頼を勝ち取らないといけないらしい」


 視線が苦手なヴァレンシアの足は小さく震えている。

 ヴァレンシアじゃなくても、こんな怪物と向き合うのは度胸がいるよな。


「ほう、何をするつもりだ?」


「西側へ来るには書状、もしくは東側にいる亜人の同行が必須なんじゃないか?」


「正解だ。東西に分かれている理由を知っていれば当然の事だろう?」


「それと、おそらくもう一つ同行者がいない場合の特例があるんだろ?」


 その特例が無いと今回みたいな緊急時に対応が遅れる。

 そのせいで沢山の人が死ぬのはこちら側も避けたいはずだ。

 そんな仮設だけど、正解でありますように。


「正解だ。その方法は強さを見せること。つまりお前達が町長の私に認められることだ」


「それなら俺の本気を見せてやるよ」


 『死神』の能力を発動させ、装備を黒く染める。

 そしてプロテクションに触れ魔法の寿命を奪う。


「弁償はしないからな」


 俺は建物に触れる。

 瞬く間に屋敷から寿命を奪い、屋敷全体を灰に変えてみせる。


「ウォルくん、中にいる私達ってどうなるの?」


「大丈夫だって、屋敷が灰になるだけ――」


 灰になった屋敷は自重に耐え切れず俺達に降り注ぐ。


「これで力の証明になりませんか?」


 その場にいた全員を真っ白に染め、俺は町長に笑いかけた。


「くくっ、あっはっは良かろう。お前達を客人として迎え入れようじゃないか」

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