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職業ガチャでSSレアを引いたら死神になりました。  作者: 柚木
一章 『死神』の英雄譚
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英雄の説明書

 気がつくと俺はどこか知らない場所にいた。

 俺さっきまで魔王と戦ってたはずだけど、ここって天国?

 見覚えも無いし天国じゃないな、同じく地獄でもない。


「ん……」


 寝ていた体を起こすとすぐ隣にシャルがいた。

 俺が動いたから姿勢が変わったが、すぐに天使のような寝顔で夢の世界に戻った。

 シャルがいるってことは、ここはヴィーグか?

 窓の外には見慣れた原っぱが見えるし、どこかの宿舎で寝ていたらしい。


 ここに居るってことは魔王を倒したのは夢じゃなかったんだ。

 シャルも無事で本当によかった。


「姉さま、お昼ごは、ん……」


「あっ……」


 俺がシャルの頭に手を伸ばした最悪のタイミングでルゥが部屋に入ってきた。

 両手にトレーを二つ持っている所を見ると、どうやらシャルと二人でお昼ご飯を食べる予定なんだろう。


 そっかもうお昼か。


「ベア!」


 ルゥが叫ぶと、現実逃避をしようとした俺に窓から大きな影が現れた。

 逆光で姿は見えないが、名前からして熊なんだろうなと思う。


 でも何の生き物かは正直問題じゃない。


 問題なのはその熊が大きく振りかぶっていることだ。

 もちろん振りかぶったのならやることはただ一つ、振り下ろすだ。


 咄嗟にシャルを抱きかかえその場から離脱する。


「ふぇっ? 何、何が起ってるの? なんで私お姫様抱っこされてるの?」


「その説明は後でいいか? 立て込んでるんだ」


「私の事だよね!?」


「姉さまを何抱きかかえてやがるんだこの死にぞこない!」


「ルゥちゃんがものすごく怒ってるよ、本当に何があったの?」


「本当に後で説明するから、って危ないだろ。シャルを落としたらどうするつもりだ!」


「お前が命を捨てて姉さまを守ればいいだろ? そんで死ね!」


「無理だから、もう死ぬのはごめんだから!」


 熊の魔獣はそのまま宿舎の壁を壊し、俺への攻撃を続ける。

 威力が高い分、速度は落ちる様で何とか対応はできている。


「すばしっこいな。ウル!」


 遠吠えと共に部屋に入ってきたのは狼の魔獣。

 こっちも名前の時点で気づいてたけど、流石に二頭同時に相手はしんどい。


「シャル逃げるから、ちゃんと捕まってて」


「はい」


「もう極刑! ルゥの独断と偏見であの死にぞこないは極刑!」


「独断と偏見だって思ってるならやめろよ!」


 ルゥ相手にそんな常識が通用するはずもなく、仕方なく宿舎の外に飛び出す。


「ウォル起きたのか?」


「起きましたけど、後で伺います!」


 班長に声をかけられたが、止まることなくその場を駆け抜ける。

 それからしばらくの間副班長やヴァレンシア、ヴィーグの人達に声をかけられるが俺は適当に返事をし逃げ続けた。


「ウォルさん、そろそろ下ろしてください。恥ずかしいです!」


「そんなこと言われても後ろから魔獣が……、あれ?」


「だいぶ前から振り切ってますよ」


「そうなんだ」


 夢中で走った結果森の中まで来ていた。

 周囲に誰もいないとわかりようやく落ち着いてきたが、落ち着いたら落ち着いたでお姫様抱っこをしていることが急に恥ずかしくなってくる。

 振り落とされないように首に手をまわしているせいでシャルの顔が近い。


「それで、下ろしてください」


「はい」


 あんな近くにシャルの顔があったのか。


「目を覚ましてくれてよかったです」


「ありがとう。ずっと看ててくれたんだろ?」


「助けてもらったのは私だから」


「「あの」」


「「どうぞ」」


 気まずさから出した言葉が見事に被るとか、なんてベタなことをしてんだよ。


「聞いていいかわからないけど、昔の事聞きたいなって思って、俺が死にかけた時に守ってくれようとしたのが気になってさ」


「よくある話です。魔獣に襲われて弟を守れず逃げてしまった。そのせいで弟は死んでしまった。その罪悪感から逃げずに守ろうって思ってたんですけど、結局逃げちゃいました」


「でも戻って来た。それって凄くカッコいいと思う、逃げたいほどに怖いのにまたそこに戻ってくるなんて勇気がいる。それに争いが苦手なのにこんなところに居ること自体凄いだろ。本当に尊敬するよ」


「まさか『英雄』に尊敬されるなんて思ってなかったです」


「ん、『英雄』?」


 今更ながら自分がおかしいことに気がついた。

 そういえば黒かった装備が灰色に変わっているし、ベッドに寝ていたし、シャルをお姫様抱っこもしたし、疲れもある。


「覚えてませんか? ウォルさんは『死神』から『英雄』に進化したんですよ? さっき話そうとしていたのは、その時の紙は班長が持っているってことを言いたかったんです」


「思い出してきた」


 死にかけてたら職業ガチャの時に見た説明書の紙が降ってきて、それに『英雄』に進化しました見たいなこと書いてた。


 そのおかげで死の魔王を倒した。

 魔王を倒した印象が強すぎてそこまでの経緯を思い出せていなかった。

 その原因は間違いなくルゥのせいなんだけどな。


「戻って紙を見たいけど、今戻りたくないな。絶対にからかわれる。でも戻らなかったら戻らないで変に勘ぐられそうだ」


「私はどっちでも構いませんよ。ウォルさんは私に変なことしないってちゃんと証言しますよ」


「じゃあ、帰るか」


「はい」


 とっちでも構わないって時に一瞬だけドキッとしたけど、まあそんなもんだよな。

 俺はあくまでも安全な存在だよな、でもルゥに証言してくれるのは本当にありがたい。

 俺が何を言っても絶対に信じないし。



 ヴィーグに戻り早速紙を受け取りに班長の元に行く。

 班長に与えられた宿舎は以前より物が減り、空っぽと言っていいほどにがらんとしていた。


「荷物はどうしたんですか?」


「ウォルは知らないだろうが、九班は全員ボルガノに移動だ。あの辺を整備して村をつくることに決まった」


「まだ戦争中ですよ? そんな悠長にしていていいんですか?」


 村をつくるとなったら生活に必要な農業や酪農、その人たちが住むための設備を準備しないといけない。

 そんな大仕事を戦争中にやる必要があるのか?


「プリクトの情勢はウォルさんが寝ている間に大きく変わったんです」


「一番大きいのはプリクト王が退位、そのせいでプリクトは戦どころじゃなくなった。それにこれは無関係ではないが、魔獣や魔人がここ最近急激に増えている。そしてこの魔獣たちはガノマノフ山脈からこちらに流れている」


「それって、魔王の一体が向かった方向ですね」


「そう、そのためにボルガノに本拠地を移動する。ヴィーグは守るには向いていない場所だからな」


 ヴィーグは櫓などはあるが、元が農村だったこともあり壁も無い。

 新しく手に入ったボルガノを使うために基盤を整えるのか。


「そんな感じだからな。体よくこき使える九班が村の開発をしないといけないんだよ」


「それなら俺もすぐに準備します」


「準備はしてもらうが、お前達二人とルゥ、ヴァレンシアの四人はボルガノではなく、ガノマノフ山脈に向かってもらう。目的は魔王の討伐」


 残り二体の魔王、おそらくプリクト王が退位した原因も魔王が関係している。

 だけど、プリクトよりも逼迫しているのはガノマノフ山脈からくる魔獣達ってことか。


「わかりました。準備を終えたらすぐに向かいます」


「期待してるぞ『英雄』それとこれがここに来た目的だろ?」


「そうでした忘れてました」



 おめでとうございます。

 進化条件を満たしたため『死神』から『英雄』に進化します。

 全ての装備品が『英雄』専用に変化します。

 『英雄』の攻撃スキルは「約束された勝利の一撃」となります。

 専用装備はその一撃が放てるときは白、放てない時は灰色になります。


 紙に書いていたのはそれだけだった。

 本当にそれだけだった……、なんか最強そうな一撃だけど、というか確かに最強の一撃だったけど、何をどうすれば装備が白になるのかの説明は一切ない。

 不親切極まりない説明書だった。

 『死神』の説明書は無駄なことが馬鹿みたいに書いていたのに、今回は逆に簡潔に書きすぎている。


 今回の遠征になんで俺一人じゃないのかと思ったが、遠征の間に『英雄』の攻撃に必要な情報を集めろってことか。

 前から思っていたけど、班長はかなりのスパルタだ。

 溜息を吐きながら俺は旅に必要な荷物をまとめる。


 目的地は東と西を分断するガノマノフ山脈。

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