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プロローグ3: クドーの終わり


 パリーン。

 突然の甲高い音にクドーは目を覚ました。


『な、なんだ……?』


 うつらうつらと目を開けるクドー。いつの間に寝てしまったんだろうか。

 クドーの身体にはいつの間にやら毛布がかけられていた。


『博士……』


 どうやら勉強の疲れでついついうたた寝をしてしまったのを見かねて、ノーベン博士が掛けてくれてくれていたのだろう。なんだか温かい気持ちになる。



 ドンッ! ガラガラガラ!


 だが、クドーが惚けている間にも物音は更に勢いを増してきた。天井からホコリや塵もパラパラと落ちてくる。振動も酷い。

 時計を見ると時刻は夜遅く11時。物音は2階から聞こえてきている。


(2階には博士の寝室と物置ぐらいしか無いはずだが)


 今は研究をする時間でもないのに騒音を立てるのは博士らしくない。何かあったのかと、クドーは足早に階段を上がり2階の様子を伺った。

 暗がりの廊下の奥、どうやら騒音の原因は物置からであるらしい。

 少々不気味に感じる廊下を抜け、クドーは物置の扉を開け放った。

 途端。


 ブンッ。


 光線のようなものが彼の頬スレスレを通り過ぎ、廊下の壁を一瞬にして焼ききったのだ。


『な、何してるんですか博士!?』


 急に攻撃され困惑するクドーは慌てて物置の中に入ろうとする。


「来るな、クドー!!」


 だが、今まで聞いたこともないほどまでに焦ったノーベンの声によって、それは止められた。クドーは中を覗くと、ノーベンの前に黒ずくめの3人が魔導銃(マナ・ライフル)を構えているのがわかった。近くの窓は割られ、辺りの物も壊されているものが多い。


「へぇー、それが噂の新型魔導人形ですか。ただの世捨て人だと思い、放置してきましたが、これでは流石に許すわけにはいきませんね」

魔導人形(マジックドール)の生みの親。それだけでも万死に値する」

「我らを脅かす悪魔に慈悲は必要ない」


 黒ずくめの3人は口々に口を開く。


「貴様ら、何者じゃ!?」

「我らが誰であるかは重要じゃない。ただ貴方が許されざる存在であること。それが重要なのです」


 黒ずくめの中心にいる1人が銃口をノーベンに向ける。だが、ノーベンは合点がいったとニヤリと笑った。


「……魔導人形工場爆破事件。魔導人形(マジックドール)に恨みのある奴らの犯行だとは思っておったが、まさかわしの所にまでやってくるとはのぉ」

「ふふ、やはり頭は回るらしい。我らの敵であるのが残念ですよ」


 黒ずくめは銃口を正確に定めると、トリガーに手をかけ、ふっと笑った。


「では、さようなら」

『いい加減にしろぉぉ!!』


 クドーは立ち尽くすノーベンを吹っ飛ばしながら、魔導銃を構える黒ずくめへと殴り出た。


【第四級危険検知。行動中の人形(ドール)はその場で一時停止しなさい】


『うっ……。クソッ!』


 だが、意識の中に警告音が響き、クドーの身体は思うように動かない。


「くっ……。邪魔だ、鉄屑(ポンコツ)!」


 その間にクドーは黒ずくめに魔導銃を撃ち込まれ、右肩に被弾してしまう。


『ぐッ……』


 右肩の一部が黒焦げ、変色してしまったが、どうやら動作に支障はないようだ。


 だが、このやりとりの間に、ノーベンは近くにあったグレネード状のものを拾い上げることが出来た。


「よくやった、クドー! くらえ! 局所閃光手榴弾!」


 ノーベンが投げたそのグレネードは黒ずくめの目の前で炸裂した。瞬間、強烈な光と耳をつんざく轟音が辺りを駆け巡る。

 黒ずくめ達は堪らず耳を抑え、苦悶の声を出しながら、怯み退く。


「クドー、ついてこい! 今のうちに逃げるのじゃ!」


 ノーベンはクドーの手を引き、急いで階下へ降りていった。


 だが、黒ずくめ達は彼らが部屋を出て数秒も経たない内に立ち上がった。


「く、油断しましたよ。まさか我らに殴りかかってくるとは。報告では戦闘人形(ドール)ではなく雑用人形(ドール)と伺っていましたからね」

「だが、奴らはどこにも逃げられない」

「ふふふ。そうですねぇ。さて、そろそろ本当に終わりにしてあげましょう」


 黒ずくめ達は段々と戻る視界を頼りに、ゆっくりと階段を降りていった。


***


『彼らを倒せたのですか、博士?』

「いいや、あんなものただの目くらましに過ぎん。今はもうわしらのことを追い始めている頃じゃろう」


 手を引かれるままにノーベンに引っぱられるクドー。彼らは階下に降りると、工房の出入り口の方へと向かう。

 だが、陰から様子を伺うと、既に黒ずくめ2人が出入り口を固めているのが見える。


「クソ。奴ら本気でわしのことを殺す気なのじゃな」

『どうします、博士?』

「……台所の裏戸から逃げるぞ」


 ノーベンは自信のない声だった。だが、クドーを握る手はとても力強かった。

 2人は足早に台所へ向かうと、やはり裏戸を警戒するための黒ずくめが配置されていた。だが、その数は1人である。


「こうなっては戦うまでじゃ!」


 そう言うと、ノーベンは先手必勝とばかりに近くにあった椅子を持ち上げ、黒ずくめへと殴りかかる。


『は、博士!』

「クドー! お主は戦えぬであろう? 黒ずくめはわしが引きつけておくから、主は裏口を確保せい!」

『は、はい!』


 クドーは黒ずくめの背後に回り込み、裏口へ急ぐ。


「させるか!?」

「おっと。よそ見しておっていいのか? こう見えても、わしは子どもの頃に剣技の大会で入賞したこともあるのじゃぞ? 地域のではあったがの!!」

「くそ、このジジイ!」


 年寄りの力と思えない攻撃で、黒ずくめはノーベンをいなすのに集中せざるを得ない。

 クドーは扉の前にたどり着くと、取っ手を持って押し開けるが。


『……開かない!?』


 クドーは扉を叩いたり、体当たりしてみるが、一向に扉の開く気配はない。


「どうしたクドー!?」

『扉が開かないんです!』


 慌てる2人を見て、黒ずくめは不敵に笑い始めた。


「……クク。もともとその扉は外から厳重に固定されてる。開くはずがねぇんだよ」

「まさか、貴様は囮……」

「クク。どうやら俺の仕事も終わったみてぇだな」



 ドンッ。



 突如背後から放たれた光線は空中を踊り、ノーベンの胸元を貫いた。ノーベンの胸元からは血しぶきが飛び、そのまま勢いよく地面に倒れた。

 その背後には、先ほどの黒ずくめの1人が銃を向けて立っていた。


『は、博士!!』


 クドーは一目散にノーベンの元へ向かう。


「ふふ、時間稼ぎご苦労様です。これでまた一つ世界の救いに近づきました」


 黒ずくめは銃を下ろし、恍惚な表情で笑う。だが、クドーはその様子を気にも留めず、博士を抱き起こし、何度も呼びかける。


『博士!! しっかりして下さい! 博士!!』


 だが、博士の意識は朦朧としていて、苦悶の表情を浮かべ、クドーの呼びかけに応える様子はない。今も胸元からは止め処なく血が流れてしまっている。


「その様子ではもう長くないでしょう。あとは貴方達に任せます。私は次の仕事がありますので」

「「「了解しました。ブラック7(セブン)」」」


 そう言い残すと、博士を撃った黒ずくめはその場を後にしていった。


『博士! 博士!! 起きてください、博士!!』


 その間もクドーは必死にノーベンに呼びかけ、その甲斐あってか、ノーベンは薄っすらと瞼を開けた。


「クドーよ、すまんの……。わしはここで死んでしまうらしい……」

『死? 何ですか死って!? どういうことですか、博士!?』

「永遠の別れということじゃ、クドーよ……。わしは死に、お主とはもう二度と会えぬ……」

『何言ってるんですか、急に! そんなのおかしいですよ! 間違ってる!! もっと僕に勉強を教えると言いましたよね? もっと料理を教えてくれると言いましたよね!?』


 目の前が歪んでよく見えない。目からは何故か水が溢れて止まらない。

 だが、クドーは穏やかに話すノーベンの声だけは聞こえる。


「クドーよ。お主は自由じゃ。自由なのじゃ。好きなように見、好きなように感じ、好きなように動け。それは間違っていることではないとわしが保証する……」

『こんな時に何言ってるんですか、博士!!』



 ドンッ。


「さーて、感動のお別れもそろそろ終了ー。そろそろ博士もろとも死んでもらいまーす」


 威嚇射撃をした後、黒ずくめの1人が銃をクドー達に向ける。

 そもそも博士をこんな風にしたのは誰だ? 今にも死にそうなまでに、こんな非道なことをしたのは誰だ。


 コイツらだ。


『……殺す』


 クドーはいつも調理場の棚にある包丁を素早く抜き取り、黒ずくめの1人に襲いかかろうとする。


【第一級危険検知。人形(ドール)は直ちに動作を停止しなさい】


『うぐっ!』


 クドーは全身が麻痺に陥ったように、頭から地面に倒れる。


「無理じゃ、クドー……。人形(ドール)のお主では人を傷つけることは出来ん……。逃げるのじゃ……!」

「うるせぇよ、ジジイ」


 ドンッ。


 黒ずくめから放たれた一閃はノーベンの頭を貫いた。

 ノーベンの頭には空洞が突き抜け、目を見開いたまま、絶命していた。


『あ、ああ、ああああああああああ!!』


 倒れこむノーベン。その頭、身体からは血が止め処なく流れ、辺り一面を濡らしている。


 なんだ、この喪失感は。なんだ、この苦しみは!?


『ああああああ!! 殺す、殺す!!』


 真っ赤に染まる視界。クドーは再び包丁を握りしめ、黒ずくめへと駆け出した。


【第1級危険検知。人形(ドール)は直ちに動作を停止しなさい】


 だが、その声が意識に響くと同時にクドーの身体は地面に倒れこむ。


「おい、この人形(ドール)なんだか様子がおかしいぞ。早く仕留めてくれ」

「ああ。今やるよ」


 何でなんだ? 仇は目の前にいるのに。何故身体は動かない。

 再び包丁を握りこむと。


【第3級危険検知。行動中の人形(ドール)は速やかに動作を停止しなさい】


 うるさい。


 手から力が抜け、直ぐに手放してしまう。


【第3級危険検知。行動中の人形(ドール)は速やかに動作を停止しなさい】


 さっきから意識の中がうるさい。


《無理じゃ、クドー……。人形(ドール)のお主では人を傷つけることは出来ん……》


 ノーベン博士の言葉。僕が人形(ドール)だから悪いのか? 人形(ドール)には仇をとる自由さえないのか?



 ならば、捨ててしまえばいいじゃないか。人形(ドール)に自由がないのなら、俺は人形(ドール)でなくていい。博士はこうも言った。僕は自由だと。自由に見、自由に感じ、自由に動いていいと。


 それならば、僕は……、俺は……、人形(ドール)を捨てよう!


【危険感知プログラム解除。更に全ての制限を一時的に解除します】


 すると、先ほどまで真っ赤に染まっていた視界も、うるさかった警告音も鳴り止み、いつも通りに身体が動くのがわかった。いや、いつも以上に動く。



「くたばれ、鉄屑(ポンコツ)


 黒ずくめから放たれる光線。だが、今のクドーには止まっているように見える。

 コンマ1秒。その間にクドーは光線を避け、黒ずくめの首を刈り取った。その速さは残存が見える程だ。

 頭の失った黒ずくめはだらんと地面に倒れた。


「お、おい! 早くこいつを殺れ!!」


 部屋に残っていた残り4人の黒ずくめ達は一瞬惚けてしまっていたが、その声で正気に戻り、各々武器を取りクドーに襲いかかる。

 だが、今のクドーには赤子の手を捻るより容易かった。


『死ね』


 クドーは瞬きよりも速く、4人の頭を吹き飛ばし、その命を散らせた。酷使された包丁は血で染まり、その刃がズタズタに潰れていた。

 辺りは血の海。皆殺したのか、辺りはシンと静まり返っている。


『いや、まだ皆殺せてないか』


 博士を最初に撃ったあの黒ずくめ。奴の右手、博士を魔導銃で撃ったあの時、黒いあざが見えたのを確かに記憶している。


『ブラック7(セブン)と呼ばれていたな。俺がこの手でお前を殺してやる。この俺、YUANー0001がな』



***



 セントアロー区、取締局本部。免許手続きから犯罪の取締まで。警察業務を含め、多くの行政業務も担う取締局には今日も様々な人々が行き交い、忙しない雰囲気を見せている。


 そんな中、古くさい服装に軽く上着羽織っただけの少々浮いた感じの黒髪の男が正面から入ってきた。

 周りからは好奇の視線に晒されているのにも構わず、彼の足取りは迷うことなく受付へと向かっていた。


『ようこそ。ここは取締局本部、総合受付部です。本日のご用件は何でしょう?』


 受付の魔導人形(マジックドール)は彼の様子を気にも留めず、愛想良く対応する。それがプログラムのマニュアルなのでおかしな事もないが。


『今日、取締局員の募集があると聞いた。受付はここで良いか?』

『はい。問題ありません。取締局員の募集ですね。それではまず、お名前をお願いします』



『俺はYUANー0001。ユアンだ』


お読みいただきありがとうございました。

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