67話
俺と千尋さんは同時にオルトロスに飛び掛かった。
地上と上空から同時に攻められ、無傷でいるほどのオルトロスも元気ではなかったようだ。
しかし俺の攻撃は浅い……
痛む腕のせいで上手く剣が握れない。
俺達に囲まれたオルトロスは、再び口を大きく開く。
今度は双頭同時にだ。
「避けろ!!」
俺が声を発する頃には、皆オルトロスと距離を取る取るように背後に下がる。
スピードはあれど、攻撃範囲はそれ程でもない。
これぐらい距離を取れば……そう思った瞬間、オルトロスは既に標的を俺に絞っていたようだ。
物凄いスピードで俺に詰め寄り、再び近距離で炎をブチかますつもりらしい。
これだけのスピードを持ち、己の弱点をもカバー出来る知能まで持ち合わせてるなんて……。
だが、俺だって馬鹿じゃない。
「同じ戦法がまかり通ると思うなよ!!」
俺は予め氷魔法を使える様に準備していたのだ。
……とカッコ良く言えれば良いのだが、先ほどのオルトロスのゼロ距離攻撃を相殺しようと溜めた魔力が溜まっただけの話だ。
うさ吉のおかげで開放されなかった魔力が、行き場を失い増幅していたのだ。
「凍れッ!!」
俺はそう叫ぶと、オルトロスの全てを凍りつかせるイメージで魔力を解き放った。
ヒュッッ!! と音が鳴ったと思えば、ビキビキと凍る音が鳴り響く。
一瞬にして辺りが白くなる。
大口を開けていたオルトロスの口から、ハァー……と白い吐息が漏れたと同時に動くことも出来ない氷の彫刻が出来上がってしまったのだ。
「わぁぁ! これスッゴいね!」
千尋さんは驚きながら、俺とオルトロスに近寄ってきた。
「倒したの??」
セリナも不思議そうに駆け寄る。
「どうなんだろうな。氷魔法は初めてだから勝手が分からないしなぁ……」
何せ昨日取得したばかりだし。
「カッチンコッチンなの!」
セリナは笑いながらオルトロスを眺めたと思ったらバシバシと叩き始めた。
「あはは、これなら可愛いの~!」
「「「あっ……」」」
セリナの力が入りすぎたのか、オルトロスはバランスを崩し倒れてしまったのだ。
――ドシャンッ!!
氷が砕ける音と共に、オルトロスは跡形も無く砕けちってしまったのだ。
残るは結晶だけ……。
「ま、まぁ……倒せて良かったね」
「お、おう」
「……」
フォローする千尋さんに、セリナは黙ってオルトロスの結晶を見つめていた。
「あ、あっちはどうかな!? ね! 珪太!」
「だなッ!! あっちも倒せたか!?」
なんとも言えない雰囲気を醸し出し始めたので、堪らず俺達は話題を変えた。
何が気まずいのか分からないが、セリナは何を考えているのかよく分からない……俗に言う不思議ちゃんぽくて若干苦手かもしれない……。
「ありゃ、何だか苦戦してるみたいだよ?」
千尋さんがそう言うと、俺もセリナも他のメンバーの方へと目を向けた。
「ん? ナナちゃんが居ないぞ?」
リョウと楓さん、そしてもう一人の男の子は肉眼で確認出来るが、ナナちゃんの姿が見当たらない。
「セリナ行ってくるの!」
「あっ、待てよ! 俺らも行くから!」
先に向かうセリナの後を、俺達が追う。
――……
「楓ちゃん! 大丈夫?」
「あなた達、もう倒したの?」
千尋さんが楓さんに駆け寄ると、楓さんは少々息を切らしながら俺達を見た。
「厄介だわ。物理攻撃も魔法攻撃も全く効いてる様子がないの」
顔を曇らせる楓さんの言葉に、俺達は驚きを隠せなかった。
「ナナちゃんはどうしたの?」
「あの触手……多分毒があるみたい。刺されてしまって戦えそうにないから肉体に戻ってもらったわ」
うにゅうにゅと動く触手。
よく目を凝らして見ると、先の方がパチパチと光っているのが分かる。
「見るからにヤバそうだな」
「それにしても、攻撃が通らないんじゃどうしろって言うの」
「幸い、敵の手数は少ないわ。あの触手され食らわなければ……」
「おいおーい、お喋りはその辺にして戦ってくれよ」
嫌味ったらしく言ってくるリョウに、心底お前にだけは言われたくないと思った。
「セイヤ、情けないの! 早く帰ろ、セリナお家に帰りたい」
「セ、セリナ……そんなこと言わないの。セリナも手伝ってよ」
どうやらもう一人の少年とセリナは知り合いのようだ。
見た目も同い年ぐらいだし、顔も似ている。
セリナと違うと言えば、性別と冷静さだろうか。
気を取り直し、どうすべきか頭を働かせる。
「なにも効かないなんてことはないはずだ。必ず通る攻撃や弱点がああるはず」
「少し時間くれる? 部位の弱点なら見極められるかも……」
そうだ、千尋さんなら弱点を探し出せるかも。
「分かった、よろしく頼む」
俺達は無駄にエネルギーを使わないよう、巨大クラゲと距離を取りつつ時間を稼ぐ事に専念した。
「そう言えば、リョウと楓さんの魔法って属性なんだ?」
「俺のは魔法って言うのか分かんねーけど、弾に爆破効果付けられるぜ」
「私は水と毒ね。毒と言ってもリョウと一緒で武器による攻撃でのみ有効だけど」
なるほど……。
そんな魔法もあるのか。
爆破は物理に近いのか?
なんにしろ、水と毒は無効……と。
俺や千尋さんの魔法ならどうだろうか。
少しでも効果のある魔法があれば……
そう思い俺は自分の魔法も試してみる事にした。
邪心と言えば光属性の方が可能性は高そうだな。
モノは試しだ……
俺は野球ボール程の光の玉を作り、巨大クラゲへと撃ち込んだ。
――ドンッ!!
爆発音が鳴り、少しばかりの期待を込めて爆煙が晴れるのを待つ。
「くそ、ダメか……!」
全くの無傷。
何も変化すらしていない。
「ならこっちはどうだ!」
すぐに氷魔法で氷の刃を作り、巨大クラゲへと撃ち込んだ。
無数の氷の刃が物凄い勢いで巨大クラゲに襲い掛かる。
ドドドドッ!! と、無情に鳴り響く音。
「これもダメなのかよ……」
巨大クラゲはうねうねと触手を動かすだけで、痛そうにするでも、怒り攻撃してくるでも無く……
ただただ、そこに浮遊しているだけだ。
俺達はなすすべも無く、ただ巨大クラゲを見ている他なかった……。




