65話
届いたピザを食しながら、俺たちは他愛もない話をしたり、悪魔について話したりと話題は尽きなかった。
腹も満たされ一息ついたところで、気付けば浄化も終わり結晶を取り込んでしまおうとなった。
「ニャーちゃん、ご苦労様」
「シャーッッ!!」
「こ、声をかけただけじゃないか……」
敵意を剥き出しにするニャーちゃんに、どうも腰が引ける。
「バイバイ、ニャーちゃん」
「にゃぁ~お」
千尋さんとナナちゃんが手を伸ばすと、甘えた声にゴロゴロと喉を鳴らしている。
この猫めが……
「じゃぁボクとニャーちゃんは他の人達のところに行かないといけないから、これで失礼しようかな」
「あぁ、長々と悪かったな」
「いいんだよ、人間界の食べ物は美味しいしね」
そう言えば、コイツ1人でLサイズのピザ抱えて二枚も食べてたな……。
この小さい体にこの食欲、天使はどんな作りしてんだよ。
「じゃぁな、気を付けて。ニャーちゃんもありがとう」
手を振るミカと、プイッと顔を背けるニャーちゃんは弱い風と共に部屋を去っていった。
「さて……取り込んじゃうか」
俺達はそれぞれの結晶に手を伸ばた。
やはり最初に手に取るのは色違いの結晶だろう。
“氷属性魔法吸収、氷属性魔法覚醒” ……氷属性の魔法ダメージを吸収し回復効果に変換する。 氷属性魔法が使えるようになる。
「ッッしゃぁ!!」
「な、なに!?」
あまりの嬉しさに思わず叫んでしまった。
千尋さんとナナちゃんは俺の声にビクッ! と反応し、目を丸くしている。
「あ、ごめん、つい嬉しくて」
「えーそんなに良いの出たんですか?」
「氷属性魔法吸収に、覚醒! いやー、コウが水属性の同じ効果手に入れてからいつかは俺も……と思ってたんだが」
「へー! 結晶からでも魔法使えるようになるんですね!」
「みたいだな。って言ってもリヴァイアサンと今回しか知らないけど……」
「俄然ヤル気が出ますね!」
「2人はどんな効果だったんだ?」
「私は……」
ナナちゃんが教えてくれた効果は……
“硬化” ……一時的に防御力が飛躍的に上がる。秒数は発動者の経験値により変動。
「千尋さんは?」
「私のはねー……」
“自然治癒 中” ……受けたダメージの半分を徐々に回復する。
“魔法攻撃力 倍加” ……魔法威力が2倍になる。
「えっ、なんだかみんな凄くないか?」
「えぇ、間違いなくアタリですね」
どれが当たってもアタリって、素晴らしすぎるだろ。
確かに強い魂喰らいだったが、ここまでとは。
「4個ってだけでも破格なのに、全部アタリって……ねっ」
内心皆テンション上がっているのだろう。
冷静を装っているが、それぞれ顔がニヤけている。
「リヴァイアサンの時も良かったが、ドラゴン系ってアタリ率高いのか?」
「そうなのかなぁ? そもそも遭遇率も悪いからね」
リヴァイアサンにしろ今回にしろ、魂喰らいを吸収したヤツの方がより強いモンスターになる。
当たり前と言われればそれまでだが、そもそもは魂喰らいを見つけたらラッキー! 倒したろ! ですぐに狩ってしまうからな。
魂喰らいが共喰いするほど放っておくことが、あまりないのだ。
「……例えば、例えばだけどさ」
少し言いにくそうに千尋さんが話し始めた。
「今残ってる魂喰らいを放って置いたら、共喰いするかな……」
「かもな、明日には一匹になってるかも。でも昨日は数十体いたんだ。1、2匹取り込んだところで大差はなさそうだけどな」
「そっかぁ……。まぁそうだよね」
千尋さんの考えてる様に、より強い魂喰らいになってもらい、アタリの結晶を落としてもらいたいのは当然だ。
今回の結晶効果はなかなか特殊だしな。
だが普通の結晶で言えば、弱い魂喰らいは数は少ないが1人でも倒せる。
強いヤツはそれなりに協力しながらでなければ無理だろう。
分け合えば、正直弱い魂喰らいと大差なくなってしまうのだ。
強ければ1体が限度でも、弱ければ3体ぐらいはいける。
レアな結晶効果を求める以外で言えば非効率だ。
それでも倍加等は喉から手が出る程欲しい。
だから皆強い魂喰らいを求めてしまうのだろう。
「まぁまた遭遇できるさ。体調が回復したらまた旅行でもしながら探し回ろう」
「うん」
「旅行! そんな発想なかった! 私も各地回ってみようかなぁ」
「はは、案外凄いのと遭遇するかもな」
「倒せれば良いんですけどね」
――そして手にいれた結晶を全て取り込んだ頃には、すっかりと夜も更けてしまっていた。
「じゃぁそろそろお暇します」
「こんな時間だし送ってくよ」
「うん、送ってく」
「いえいえ! 2人とも休んでください! 私は大丈夫です」
「そうもいかないよ。こんな時間に女の子1人で歩かせられないから」
「ナナちゃん気使いすぎ。私もコンビニ行きたいし、気にしなくて良いよ」
「で、でも……」
「いいからいいから」
断るナナちゃんを半場強引に車へと誘導し、俺と千尋さんでホテルまで送り届けた。
ありがとうございます、と深々と頭を下げるナナちゃん。
ホテルの中まで入ったのを確認し、俺達は家路へと着いた……。




