58話
それから1週間……
俺は魔法壁を完成させる事に集中した。
千尋さんは、1ヶ月もの間音信不通にしてしまった家族の不安を取り除く為にも実家に帰り療養している。
この1週間で完成したのか?
答えはNOだ。
とは言え、限りなくYESに近いNOだ。
イメージは掴めている。
少しずつエネルギーの放出量を変動させながら微調整しているが、どうしても攻撃するとなると壁が雑になるし、壁に集中すれば攻撃が弱くなってしまう。
それを補強するような形で更に大きなエネルギーを注げば、安定するが……
それでは戦闘が長引けば長引く程不利になってしまう。
ただ光を発することなく、一見防壁があるのか分からない様にする事が出来た。
魔力感知能力が強い相手なら、防壁を纏っている事はバレるだろう。
しかし何処が脆いのかさえバレなければ相手の意欲を削ぐ効力もあるかと。
千尋さんの様に弱点を見極められる相手だとバレてしまうかも知れないが……。
敵の攻撃速度が遅かったり、見極めやすければその都度壁を作れば良いが、出来れば千尋さんには常に防壁を張っていたいのが本音だ。
――ガチャッ……
「珪太ー??」
合鍵を持ってる千尋さんが帰宅したようだ。
「あれ? まだ練習してるの?」
俺は練習を中断し、肉体へと戻った。
「お帰り。練習してた」
「どう? 完成したの?」
「まだ……かな」
「結局なんの練習なの?」
「まぁまぁ、それはまだ内緒だよ」
「えー……」
「それより、早速行く?」
正直ここまで来たら実戦で試すのが一番良いだろう。
「そうだね、特に予定もないし」
「でも今日は様子見だからな? 魂の姿になって、その辺回るだけにしとこう。戦っても邪心まで。魂喰らいがいたら千尋さんは家に戻ってね?」
「はいはい、分かりましたよー」
少し不服そうだが、わりとすんなり受け入れてくれた。
――俺達はベッドに横になり、目を閉じる。
「久しぶりだからちょっと緊張する……」
「だよな。でも俺が付いてるから」
千尋さんの手を握り、俺達は肉体を離れると魂の姿になった。
「……どう?」
「うん、大丈夫そうかな」
少し体を動かし、様子を見る千尋さん。
特に不具合はなさそうだ。
俺達は意識を集中させ、辺りの邪心の気配を探る。
すると少し離れた場所に数匹、強い気配を感じる。
暫く狩っていないのに邪心の数が思ったよりも少ないのは、ソイツらに吸収されたらからだろうか。
「近場に手頃なのがいるね。行ってみよっか」
「そうだな。一匹だけ戦ってみて、様子を見よう」
久しぶりに空を飛ぶ感覚。
まだ外は騒々しいが、ビルの灯りや車のライトを上から見るのも随分と久しぶりで気分が高揚してくる。
「どうしたの? ニヤニヤして」
「久しぶりだからさ。前は当たり前だし、何とも思ってなかったけど気持ちいいなって」
「ふふ、そうだね」
俺達は風を切るのを体感し、目的の邪心まで向かって行った。
とは言え近場なのであっという間に発見してしまったが。
俺はバレない様に魔法壁を千尋さんに纏わせた。
「?? 珪太なんかした?」
「えっ!? な、なにもしてないよ?!」
分かるものなのだろうか……。
「そう? なんか体が一瞬熱くなったから」
「そ、そうなの? 久しぶりに戦うから、かな?」
「かなぁ? まぁいいや! 行こ!」
何とか誤魔化せたようだ。
俺達は武器を構えると、邪心へと猛スピードで攻撃を繰り出す。
「ギュルァァァ!!」
「……瞬殺」
「だな……」
いくら久しぶりとは言え、そこらの邪心ではもう相手にすらならない。
「どう? 変なとことかない?」
俺は千尋さんの様子を伺った。
「う~ん……少し動きが鈍い気がする。まだ魂の方は本調子じゃないのかなぁ」
「そうか。エネルギーがどれだけ持つか分からないし、無理せず様子を見ながら行こうな」
「うん。でも手応え無さすぎてつまんなーい……」
下を向きながら、軽く溜め息を吐く千尋さん。
気持ちは分からんでもないが、今の千尋さんが全快時の何%の力を発揮できるのか分からない限り、無闇に魂喰らいに挑むのは危険過ぎる。
俺の魔法壁が完璧ならまだしも、どう考えても未完成の代物だ。
俺一人でも倒せるが、もしも不意を突かれて千尋さんに何かあったら、俺は自分を許せないだろう。
「ん? 結構な数が一ヶ所に集まってないか?」
「あっ、本当だ」
手頃な邪心を探していると、40~50匹程の邪心が一ヶ所を目指し向かっているのが分かった。
「魂喰らいになる前兆か?」
「だと思うよー」
そうだ!!
「なぁ、勝負しないか?」
「勝負?」
「魂喰らいになる前に向かって、どっちが多く邪心を倒せるか!」
「いいね! やろやろ!!」
コウとよくやってたっけな。
邪心相手ならば、それ程問題ないだろう。
千尋さんだってある程度の防御力を持っている。
未完成であるが俺の魔法壁と合わせれば、心配することも無いだろう。
「そうと決まれば早速行くぞ!!」
「あっ! ズルいー! 待ってよー!!」
俺は猛スピードで目的の場所へと向かった。




