53話
「珪太……」
やっとやって来たミカは、とても悲しそうな表情で……全てを悟っているようだった。
「ミカ!! 頼む、俺の最後の願いだ!! 千尋さんを生き返らせてくれ!!」
ミカは俺の言う言葉すら悟っていたのか、眉間にシワを寄せ、目を閉じると首を左右に振った。
「それは出来ないよ……。初めに言ったじゃないか」
「そんな……頼むよ!! 頼む!!」
俺はアスファルトに頭を擦り付けるかの如く、ミカに土下座して悲願した。
「ボクだってちーちゃんを助けられるなら助けたいよ……。でも無理なんだ! ボクの力じゃどうにも……」
「そんな……ッ!!」
――ドックン……
「彼女のいない世界なんて……」
――ドックン……
――ドックン……ドックン……
「珪太……。取り乱すのも分かるけど魔力をコントロールしないと……。このままじゃ珪太も消えちゃうよ」
――ドックンドックンドックン……
「千尋さんのいない世界なら、俺はもう……」
徐々に目から生気が失われていく。
「この世界を救えるのは珪太しかいないんだ……! バカな事は考えないで」
「無理だ……俺はもう戦えない」
――ドックンドックンドックン
「願いも取り消してもらって構わない。俺はもう……」
「珪太!! ルシファーはどうするの!?」
「知るかよ!! ルシファーも、神も、天使も俺の知ったこっちゃない!!」
「そんな勝手な事を……! ちーちゃんが聞いたら怒るよ!?」
「なら千尋さんを生き返らせてくれよ!! 俺の望みはそれだけだ!! そしたら例えこの身が滅びようと、必ずルシファーを倒してみせる!!」
「だからボクには出来ないんだってば……」
「ならもうどっか行ってくれよ……。もう俺に構わないでくれよ」
「珪太……。キミには世界を救う運命が……」
「知らねーよ!! こんな世界……!!」
“壊れてしまえばいい”
――ドクンッドクンッドクンッドクンッ……!!
「ダメだ! 珪太!!」
ミカの制止と反して、俺の心は蝕まれていくようだった……。
もうどうでもいい。
例えまた元の生活に戻ろうが、自分が死のうが、どうでもいい。
「千尋さんが戻って来てくれるなら……俺は悪魔にだって魂を売ろうが、俺がなっても」
構わない……
そう言いかけたとき、突如として凄まじい稲妻が落ちてきた。
――バリバリッ!! ドゴーンッ!!
と、まるで大爆発でも起こったかのような、けたたましい音が鳴り響く。
「――そこまでだ」
突然、目の前に見知らぬ初老の男が立ちはだかっていた。
「おっ……お父、いえ……ゼウス様!! ど、どうしてこちらに!?」
ミカが慌てて片膝を付き、胸に拳を当てる姿は……天使と言うよりもまるで兵士だ。
「光の勇者よ、心を闇に染めてはならん。一滴の闇を持てば聖なる光は使えなくなる」
一目で彼が神だと気付いた。
いかにも神だと言わんばかりの服装のせいでなく、彼の放っているオーラ……だろうか。
何が神っぽいとかでなく、とにかく「この人が神だ」と無意識に確信してしまうのだ。
「構わないさ。俺にとってはどうでもいい」
「ふむ……。さそれは些か都合が悪いんでな」
「お前達の都合なんて知るかよ!! 大体、なんで俺達人間が神や悪魔のもめ事に巻き込まれなきゃいけないんだよ!」
「け、けけ珪太……ッ!! なんて事を……ッ!!」
ミカの慌てっぷりは、こんな状況じゃなければ見物だろう。
神に対する俺の態度は良いものとは言えない。
「そうだろうな。だからこそお前達人間の願いを叶えてやるんだ。対価はしかと払っているはずだが」
「俺は何もいらない。ただ千尋さんを生き返らせてほしいだけだ」
神ゼウスは少し考える素振りを見せ、うむ……と何かを決めたようだった。
「良かろう。お前の願いを叶えてやろうじゃないか」
「……えっ?」
「ゼ、ゼウス様!?」
思いもよらぬ言葉に、俺もミカも驚きを隠せない。
「ほ、本当に生き返らせてくれるのか……!?」
「ただし! 二度はないぞ。そしてルシファーを倒せなかった時は、その者の魂は再び消えることになる。此度の件でルシファーはお前に気付いたであろう。残された時間は少ないと思え」
「あぁ……。あぁ!! 千尋さんが生き返るなら俺はなんでもする!!」
「よし、分かった。メタトロン」
「はっ!」
ゼウスが呼ぶと、まるで瞬間移動でもしてきたかのように現れた。
スラッとした長身の女性で、リリスに劣らぬほどの良いスタイルだ。
無表情で少し冷たそうだが、それがまた良いのだろう。
ミカやガブリエルとは違い、正に大人の色気と言うものだろうか。
「アズラエルに魂を修復するように伝えろ」
「……かしこまりました」
ゼウスの言葉を聞くと、メタトロンはすぐに姿を消してしまった。
「光の勇者よ、お前の願いは全て聞き届けた。ルシファーを倒すと言う約束は守ってもらうぞ」
「言われなくても必ず倒す。もう千尋さんを失うわけにはいかない」
「フッ……期待しているぞ」
そう言うとゼウスもその場を去っていってしまった。
「ふぇ~……」
ゼウスが居なくなると、ミカはヘナヘナと座り込んでしまった。
「もう珪太ってば……ゼウス様に向かってなんて口の聞き方をするんだ」
「そういえば神様だもん……な……。あ……れ……?」
安心し気が抜けたのか、急に激しい目眩が襲ってくる。
バランスを崩し、俺はその場に倒れ込んでしまったのだ。
「珪太!? もう……魔力が暴走してエネルギーを使い果たしたんだね。本当にキミは……まったく」
ミカの肩を借り、俺は車へと戻って行った……。
――天界
「ゼウス様、アズラエルに伝えました。……しかし宜しかったのですか?」
「何がだ?」
「……人間を生き返らせる事は禁じていたはずでは」
「肉体も有り、時間も経っていない。問題あるまい。あのままでは光の勇者は闇に堕ちていただろう。次に光の勇者が現れるまで何百年とかかる……。最早壁はそこまで持たぬだろう」
ふぅー……っとゼウスは溜め息を吐き、玉座へと腰を下ろした。
「人一人の魂を蘇らせ、長きに渡る戦いが終わるのだ。光の勇者は必ずやルシファーを倒すであろう。これで済むのなら安いものだ。それよりももう一人の光の勇者はどうなっているのだ」
「……彼の成長は目まぐるしいものです。いつルシファーと対峙しても問題ないかと。」
「そうか……。問題は先程の方か……。彼には更に努力してもらわねばならんな」
「……そうですね。ミカエルに伝えておきます」
「うむ。お前も協力してやりなさい」
「……かしこまりました」




