5話
やっとの思いで自宅のベッドまで辿り着くと、魂を肉体へ戻した。
想像以上に体力を使っていたようで、体がピクりともしない。
この日はそのまま眠ってしまい、翌日聞きたかった事をミカに聞いてみることにした。
――翌日
「ミカ~、ミカちゃーん、おーい」
名前を呼んで暫くすると、弱い風と共にミカが現れた。
「珪太ー! 昨日はどうだったの? 邪心と戦ったんでしょー? ねぇねぇ!」
ワクワクと言うのがぴったりだろうか。
ミカは早く聞かせてと言わんばかりにグイグイとくる。
「あぁ、戦ったよ。それで聞きたいことがいくつかあるんだ」
「なぁに??」
まずは昨日モンスターが落とした物をミカに見せる。
「あ、結晶!」
ミカが結晶に触れた瞬間、赤黒くくすんでいた結晶が一瞬で透き通る。
「おぉ! これが浄化ってやつか?」
「そうだよ! ボクは天使だからね!」
えっへん! と得意げにしているミカが、何かに気付いた様に俺から結晶を取り上げた。
「あれ~? ねぇ、珪太が戦ったのってどんなのだった??」
「ん? なんて言うか…狼みたいだった。目は3つさったけどな」
俺の話にミカは少し驚いた顔をした後、クスッと笑い話を続けた。
「それはハイウルフの上位種だね! 珪太運がいいなぁ!」
「お? レアなモンスターとかなのか?」
「ふふ、この世界に来ているモンスターの中でも、最も弱いクラスのモンスターだと思うよ」
そっちかよ……
少し期待してしまった自分が恥ずかしい。
「ソイツに足を噛まれたんだが、今まで感じた痛みの中で一番痛かったぞ……」
「この世界では、と言っても元々の世界ではなかなかのモンスターだからね。手練れた冒険者でも囲まれると生存率はグッと下がるって話だし」
俺が遭遇したのは一匹だけだったしな
そういう意味でも運が良かったのかもしれない。
「なぁ、噛まれただけで激痛だったんだ。もう少し痛みを軽減する方法は無いのか?」
「方法はあるけど、とにかく自身の魂を鍛える事。もう一つは、この結晶」
ミカは透き通った結晶をグッと俺の顔の前に差し出した。
「この結晶はね、浄化すると様々な効果を発揮してくれるんだ。効果は倒したモンスターの特性によるんだけどね!」
「今持ってる結晶の効果はなんなんだ?」
「これは“俊敏力”が少し上がるみたいだよ」
少しかよ…
「これをね、珪太の中に取り込む事で効果が得られるんだよ」
ミカはそう言うと、結晶を俺の胸に押し当て、何か呪文の様な言葉を発すると、結晶はスッと俺の体に取り込まれた。
「俊敏力は頭の回転も早くなるから、敵の動きも読みやすいんだ。素早さも上がるしなかなか悪くないよ!」
「結晶が重要なことは分かった。だけど自身の魂を鍛えるって具体的に何をすればいんだ?」
「とにかく魂での姿に慣れる! これしかないよ」
「それだけ!?」
ダメだ……これはあまり期待出来そうにないな……。
「あ、あとさ、モンスターの強さって分かる方法ないのか?」
「人には潜在的に危機能力が備わってるから、力の差がある相手は本能的に分かると思うんだけど……」
「確かに蛇みたいなやつに遭遇したら動けなかった。でもハイウルフはいけると思ったんだ。実際いけたけど、下手したら死んでたぞ。もっとこう……曖昧なのじゃなくて目に見えて分かるような方法はないのか?」
「そんな都合の良いものはないよ~」
ミカは少し困った顔をして手を左右に振っている。
無いものは仕方ない、か。
案外無理な事が多いんだな。
正直、天使だの異世界だのと聞いて、もっと都合の良い事を期待していたのかもしれない。
「あっ! でもそういうスキル持った邪心を倒せば、そういう効果のある結晶がドロップかもしれないよ!」
「なるほど……。要するに沢山倒さない事には始まらない訳だな」
「そうなっちゃうね~」
苦笑いする天使に、俺は小さなタメ息を吐いた。
あとは基本の戦い方だな。
いくら武器を持ったところで正しい使い方が分からなければ勝率も悪くなるだろう。
「なぁ、戦いの稽古とかつけてくれないか?」
「え、ボクが!?」
「他にいるなら他の人でもいんだが…」
「無、無理!」
「なんでだよ?」
「無理なものは無理なのー!!」
「……分かったよ」
やっぱり思ったより天使って万能じゃないんだなぁ……
「ねぇ! 今ボクその事使えないって思ったでしょ!!」
「おおお思ってないよ!」
むーっ! と頬を膨らまし怒っているミカを宥め、もう出かけるからと早く帰るように促した。
実際リハビリにも行かなくてはいけないし、ミカに戦い方を教われないとなると、何か他の方法を考えなくてはならない。
刀とは違うが、間合いの取り方、攻防の基本など近いものなのだろうか。
まずはスマホで検索して、見学だけでもしてみようか。
何か得られるものがあるかもしれないからな。
あとはミカの言うようにひたすら戦い、結晶を集めてスキルを得るしかないだろう。
「今夜もまたモンスター探しにいくか……」
昨夜の恐怖で少し憂鬱になりながらおもむろに家を出た。




