4話
ベッドに横になり、魂と肉体を引き離す。
コツを掴んでからは息をするかのように、思い通りに出来るようになった。
「取り敢えず外に出てみるか…」
邪心に対しての想像が全く出来ないため、確認しないことには始まらない。
一つ問題があるとすれば、俺は幽霊などは苦手な部類なので、幽霊の様な見た目なら腰を抜かす自信がある。
ミカが言うには、普通の人には俺の姿や邪心の姿は見えないらしい。
攻撃も影響が出ないように天使達が人々に結界を張るという大仕事をしたようだが、邪心による心の蝕みへの影響は回避出来ないようだ。
そこで邪心と戦える人間が必要だということだそうだ。
俺の場合も魂の状態じゃないと邪心を目視することは出来ないと言われたので、探すときは魂でとのこと。
――時間は深夜1時
近所は人も歩いてなく、車の通りも少ないので大通りの方に行ってみよう。
人の心を蝕むのなら、人の近くに居るはずだよな。
暫く歩き大通りに差し掛かると、良く行くコンビニが見えてきた。
特に変わった様子も無く、不発に終わったかと思ったその時、思わず足が止まった。
コンビニから出てきた人の後ろに絡み付くように、何かがしがみついているじゃないか。
あ、あれが邪心?
普通にモンスターじゃないか……!
大きな蛇のような生き物で、頭部が2つに別れていて、鋭い牙が見えている。
こちらには気付いていないようだが、想像以上に強そうで足がすくみ動かない。
は、早くなんとかしないと……!
あの人の心が蝕まれていくってことだよな……。
頭じゃ分かっていても、足が鉛の様に重くてビクともしない。
早く動かないとと思えば思うほど重くなり、ガタガタと震えまで出始めた。
額に嫌な汗が滲む。
そんな事をしているうちに、その人は車に乗り込みエンジンがかかる音がしたと思ったら車は走り去っていったではないか。
――自分の情けなさと、あんなのと戦うのかという恐怖
ミカはザコは居ないと言っていた。
と言うことは、この世界に来ている邪心ことモンスターは、皆それなりに強いと言うことだ。
どのモンスターがどれ程強いのかも分からない、自分の強さも分からない。
それで戦いに挑むのは無謀なんじゃないか?
やっと動くようになった重たい足を、帰路へと運び、どうすれば良いのか頭を働かせたが結局答えはでなかった。
「はぁ……帰ったらミカに聞いてみるか……」
途中、少し大きめの公園があるのだが、そこを突っ切ると家まで近道だ。
昼間は結構使うのだが、夜は暗くて怖いのであまり使わない。
しかし今日は気落ちしているせいもあり、早く家に帰りたかった。
とぼとぼ歩いていると、自販機の灯りに照らされ、何かが動いているのが目に見えた。
なんだ?
野良犬か?
目を凝らし見てみると、大型犬位の大きさの“なにか”が居る。
間違いなくいる。
妙な緊張感が走り、歩く速度を落とし、慎重に近付いてみた。
すると“なにか”は俺に気付いた様で、顔を上げたではないか。
人には見えないってことは、動物はどうなんだ? なんて思いながらも、念のためロングソードを構え、ジリジリとゆっくり近寄っていく。
やっとその存在が分かる距離まで近付くと、それが何なのかハッキリと分かった。
邪心、モンスターだ!!
犬と言うよりは狼と言った方がいいだろう。
ただし、こちらの世界と違う決定的な事と言えば、目が三つある。
ヴゥゥ――……と唸り、牙を剥き出しにして明らかにこちらを威嚇している。
不思議な事に先程の蛇のようなモンスターとは違い、恐怖心がそれほどなかった。
寧ろ、気分が高揚している。
どうする?
モンスターはこっちの行動を警戒しているが、飛び掛かってくるは気配はない。
こっちから行くか……。
――ジャリっと砂を踏む音と共に、俺はモンスターに飛びかかった。
「うおぉぉぉ!」
振り上げた剣を振り下ろすも、大振り過ぎたのか簡単に避けられてしまった。
ヤバい!
慌てて体制を整え、モンスターの方を向くと、もう目の前に居るではないか。
噛まれる!!
そう思った時にはもう遅かった。
剣再び構える間もなく、足に思いっきり噛み付いてきた。
その瞬間、全身に高圧電流でも流されたかのような激痛が走る。
「ぎゃぁぁッ!!」
咄嗟に足を振り払うも、ガッシリと噛み付いて離れない。
痛いなんてもんじゃない
あまりの痛さに一瞬意識が遠退くも、激痛でまた我に返る。
死ぬ、そう悟るのに十分な痛みだった。
「……のやろっ!」
モンスターはまだ噛み付いたままだ。
俺の足を掬わせ、一気に畳み掛けたいのか頭をブンッブンッと振って、俺の足にしか意識が行ってないようだ。
やるしかない……
震える手で剣をしっかり握り絞め、モンスターの頭上から素早く垂直に剣を突き刺した。
剣は見事にモンスターの頭部を貫通した。
その瞬間、モンスターは霧の様に消えてしまった。
その場に尻餅を付くように倒れ込む俺。
激痛からは解放されたものの、まだ痛みは引かない。
ふと足元に目をやると、何やらガラスの様な石が落ちている。
あぁ、ミカが言っていたやつだな……
たかだか噛まれただけでこの痛み、逃げ出したくなるのも分かる。
今後もノーダメージとはいかないだろう……
何か良い方法がないか、帰ったらミカに聞いてみよう。
初戦なので仕方がないが、分からないことだらけだ。
戦いの経験値も無く、ド素人。
俺には天使の加護が付いているとミカから聞いていた……
なので何処かで何とかなると思っていたのかも知れない。
そういえば、距離があっても肉体に戻れるのだろうか?と思い試してみたけどダメだった。
「仕方ない、歩いて帰るか……」
痛む足を引きずり、俺は家を目指した。