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36話

 コウの言葉に、俺は気持ちにモヤが掛かったまま車へと到着した。


 みんなそれぞれ肉体から離れると、想像よりも気配は少なかった。

 しかし、明らかに魂喰らい(ソウルバイター)がいる。

 しかも複数だ。


 人が多い場所は邪心も多い。

 新宿(ここ)は寧ろ多すぎたのかもしれない。

 その為、魂喰らいが複数出来てしまう事態になってしまったのだろう。



「分かるだけで三体か?」


「……だと思う。珪太さんどうする? 俺も魂喰らいの結晶欲しいから一体は俺が倒す」


 コウの言葉に便乗するかのように千尋さんも口を開いた。


「当たり前だけど、私も欲しい。4人居て魂喰らいが三体じゃ一人貰えないよ」


 まぁそうなるよな。

 ルシファーと戦う為には必需品だと思っている。

 当然そうなるだろう。


「あの……私は1人じゃ倒せないと思うんです」


 ナナちゃんは俯き、暗い顔をしている。


「なので私は要りません。その代わり、珪太さん……一緒に戦ってくれますか?微力ながらサポートしますので、普通の結晶を貰えれば私は十分です」


 ナナちゃんはそう言うと、俺の側へと寄って来た。


「えっ、ナナちゃんそれで良いの?」


「はい、私の力じゃ三体とも勝てそうにありませんから」


「あのさぁ、私だって1人じゃ勝てるか怪しいんだけど」


「なら千尋さんは俺と行こうよ」


 不機嫌そうに言う千尋さんに、コウは歩み寄った。


「マジ? 助かる」


「俺も1人より2人なの方が心強いし」


「な、なぁ……それなら4人で三体倒せば……」


「それって効率悪くない? 二手に別れた方がいいと思う」


 千尋さんは素っ気なく言い放つと、コウの手を引き「行こう」と促した。


「俺達こっちの2体行くから。一番強そうなのは珪太さんに譲るよ」


 コウはそう言うと、千尋さんに引っ張られ行ってしまった。



「私達も行きましょう」


「あ、あぁ……」


 コウの言葉といい、千尋さんの態度といい、こんなはずじゃなかったのにとモヤモヤがより一層強くなってしまった。

 ナナちゃんはニコニコとしていて、楽しそうに俺の腕を引いていたが、俺は愛想笑いをするのが精一杯だった。






 ◇





 様々なライトに群がるかの様に人が溢れ、沢山の車と鳴り響くクラクション。


 ソイツは、正にその上空にいた。

 何かを物色するかの様にゆっくりと飛行し、ピタッと止まった。

 すると急降下し、何かをバクリッと食べたではないか。

 “何か”が人に憑いた邪心であると理解するのに時間はいらなかった。



 立派なたてがみを持つライオン……

 尻尾には蛇……

 胴体は……なんだ?

 そして左右違う翼を持っている。


 あぁ、これは多分“キマイラ”だろう。

 ゲームや異世界物にもよく出てくる。


 でもキマイラって羽あったか?



 人混みに紛れ、気付かれぬ様に観察していたが、ライオンの鼻がスンスンッと動いた。

 その瞬間、バッチリと目が合ってしまったではないか。



 ――まずい!! 気付かれた!!


 俺は慌ててナナちゃんの腕を掴み、上空へと急上昇した。



 チラッと横目で下を見ると、ライオンの顔が大きく口を開けている。

 あぁ、嫌な予感……。



 ゴォォォオ!! と、凄まじい音と共に熱風が押し寄せる。


「キャァァッ!」


「ナナちゃん! だ、大丈夫?」


 横に逸れたが、慌てていた俺はナナちゃんを強く抱き寄せていた。

 俺の腕の中で不安そうにするナナちゃん。


「大丈夫です。ありがとうございます……」


 その言葉にホッとしたその時……。



「……随分仲良さげですね」



 ――っ!?



 聞き慣れた声のする方へ目をやると……


 ち、千尋さん!?

 コウも!?


「ち、ちがっ、これは……」


 俺は酷く慌てていた。

 弁解などする必要もないのに、何故か誤解を解かないとならないような気がして、ナナちゃんを抱き寄せていた腕を大振りして離し、両手を上げた犯罪者のような格好になってしまった。



「……コウ君、どうやら私達は必要なかったみたいね」


「ご、誤解だって……!」


 そんなやり取りをしているうちに、キマイラが俺達に飛び掛かって来た。



「うざいッ!!」


 ドーンッ!!と大きな爆発音に、千尋さんが巨大な火の玉をキマイラに向け放ったのだと気付いた。


「おぉーコワッ……」


 ニヤニヤしてコウがボソッと呟いた。


 茫然としている俺などお構い無しに、急落下するキマイラに千尋さんは追い討ちを掛けるように激しく斬りつける。


 キマイラは確かに三体の中で一番強い気配を放っていた。

 正直、今の俺なら苦戦せずに倒せたであろう。


 が、千尋さんがここまで成長しているとは思ってもいなかった。


 あまりの猛攻に、キマイラは手も足も出ずに、ただの的の様に一方的にやられてるではないか。



「ち、千尋さん、強いんですね……」


 ナナちゃんも茫然と立ち尽くし、その勇ましい姿をただ見ているしかなかった。



 一瞬の隙を突こうと、蛇の姿をした尻尾が千尋さんに飛び掛かった。


「千尋さん! 危なっ……」


 千尋さんは、バシュッ! と尻尾を切り落とす。

 俺の心配など必要ない、そんな目で俺を睨み付けた。


 翼もボロボロになり、もう空を飛ぶことも出来ない。

 足を引き摺り後退りするキマイラに対し、千尋さんはタンッ! と地面を蹴りあげると、二本の短剣でキマイラへとトドメを刺した。


 霧になり、現れた結晶。

 通常の結晶が沢山のあり、魂喰らいの結晶もなかなかの大きさだ。


「これは私が貰うから」


「は、はい……どうぞ……」


「疲れた。先に車戻ってるから3人で行ってきて」


「わ、分かりました」


 初めて会った時のような素っ気なさに、思わず敬語になる。

 千尋さんは俺達の方に見向きもせずに車へと戻ってしまった。



 それから暫くは茫然としてたと思う。


「まぁ……珪太さんが悪いね」


「お、俺!? なんでだよ……」






 ――30分前……




「千尋さん、あんな態度取っていいの?」


「……何が?」


「ナナさんだっけ? あの人なかなかあざといよ。女に免疫ない珪太さんじゃ、落ちるのも時間の問題だよ」


「…………」


「いい加減素直になれば? 珪太さんの気持ちにも気付いてるんでしょ?」


「確かに珪太の事は好きだけど……。恋愛としてって訳じゃない、と思う」


「はぁ……。珪太さんも鈍いけど、千尋さんも大概だね。自分の気持ちにも気付かないなんてさ」


「ちょっと!! アンタ高校生でしょ!? ケツの青いお子ちゃまにとやかく言われたくないわ」


「じゃぁ、なんで千尋さんヤキモチ妬いてるの?」


「べ、別に妬いてない! 妬いてないわよ!!」


「それで妬いてないって本気で言ってる? 珪太さんにアピールするナナさんのこと、面白くないんでしょ?」


「いつもあまり喋らないのに、随分お喋りじゃないの」


「俺、ナナさんみたいに計算高い人ってあまり好きじゃないんだよね。それに暫く2人のこと見てきて、両想いなのバレバレなのにさぁ、全然進展しないんだもん。……本当にこのままでいいの?」


「だ、だから! 別に私は……っ!!」


「あっそ。なら本当にいんだね? ナナさんと珪太さんがくっついても」


「…………」


「このまま二組に別れて行動したら、2人の仲は深まるよ? ナナさんて人がそうなるようにアクション起こすだろうから。そしたら今まで千尋さんがいたポジションにナナさんが居座る様になるよ」


「……そうなったらそうなったでしょ。知らないわよ、私は」


「意地張るの止めなよ。戻りたいですって顔に書いてあるし」


「か、書いてないわよ!!」


「5分あげるよ。意地張らずに本当にそれでいいのか、珪太さんが千尋さん以外の人を好きになっても後悔しないか考えなよ」


「だからいいってば!!」


「はいはい、5分間俺はここから動かないからね」


 公園のベンチに腰掛け、目を閉じる。

 千尋さんは、想像以上に意地っ張りだ。



 暫く都会の騒音に耳を傾けた後、薄目を開け千尋さんを見ると、ソワソワとして落ち着きがない。

 たった5分でも、想像を巡らせるには十分な時間だ。


 ……そろそろかな。



「さて、魂喰らい(ソウルバイター)倒しに行きますか」


 俺はおもむろに立ち上がり、千尋さんの行動を待った。


「…………」


「早く行こうよ」


「…………」


「千尋さん」


「……こっち」


 千尋さんは珪太さんが向かったであろう方向を指差した。


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