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31話

 ミカは少し気まずそうに俯いている。


「で、話ってなんだ?」


「実はね……さっき、本来ボクたちの住む天界から使いが来たんだ」


 ミカの表情から察するに、あまり良い話ではないみたいだ。


「世界を繋ごうとしているのは、異世界の魔王だけじゃないみたいなの。冥界……言うならば死後の世界、そこにも神は存在してボクたち天界と度々揉め事を起こすことがあるんだ」


「冥界と言うと、ハデスとかヘルとかか?」


「よく知ってるね! まぁ……兄弟喧嘩のようなモノではあるけれど……」


「兄弟喧嘩?」


「ま、まぁそこはいいや! それでね、冥界の神は決して悪い神って訳じゃないんだ。死後の世界を制する者って事であまり良いイメージは持たれないけど……」


「それで?」


「そして神々を争わせようと、その冥界の神々を時々タブらかす者がいるんだ……。今回の諸悪の根源とも言える存在……その名もルシファー」


「ルシファー!?」


「そう、ルシファー。ボクの兄であり、最も偉大だった元大天使さ」


「それでそのルシファーは何故そんなことを?」


「……神々に復讐しているのさ」


「それで、俺だけにその話をしたのはなんでだ?」


「キミに……いや、キミともう一人の勇者にルシファーを倒してもらいたいんだ」


「ちょっ、ちょっとストップ! もう一人の勇者ってなんだよ」


 この世界を救う皆の事を指すのではなく、俺と“もう一人の誰か”を限定して指している。

 その意味が良く分からなかった。



「この世界で今、光魔法を使えるのはキミ……珪太しかいないんだ。もう一つの世界……異世界でも光魔法を使いこなせるのはただ一人の勇者だけなの」


「でもソイツは異世界にいるんだろ? 俺ともう一人が一緒に戦うなんて物理的に無理じゃないか」


「何も同じ場所で戦う訳じゃないんだよ。ルシファーの肉体は異世界に……。魂はこの世界に居るんだ。彼の肉体と魂が別れる事によって、この世界と異世界の壁に冥界の神々の協力の元、架け橋を作っている状態なんだ」



「ちょ、ちょっと待ってくれよ。異世界に肉体のみなら圧倒的にそっちの方が楽じゃないか」


「ところがそうでもないんだよ。彼は堕天したとは言え、元は誰よりも優れた大天使……その辺の邪心とは訳が違う」


 先程までの二日酔いが一気に抜けてきた。

 それほどこの場の空気は重かった。



「まず珪太がこちらの世界でルシファーの魂を弱らせる事が出来れば、彼は肉体に戻らなくてはいけない。肉体に戻った瞬間、神々は壁を塞ぎ、異世界ではもう1人の勇者がルシファーを完全に消滅させる」


「……何となくは分かった。でも俺はあくまでも人間だぞ?それが神に近い存在に勝てるっていうのかよ?それにミカエルとルシファーは戦ったって見たことあるぞ?」


 ミカと知り合ってから、俺は天使について調べた事があった。

 そこでルシファーとミカの関係も知っていたのだ。


「何千年も昔にね。少し昔話をしようか」


 ふぅ……とミカは小さなため息を吐き、おもむろに話始めた。



 ――昔々

 誰もが慕い、誰もが認める程優秀な大天使がいた。

 大天使には他の天使までが憧れる程の、それはそれは美しい翼を持っていた。


 ある日、大天使は神の意見に納得がいかず猛反発した。

 しかしそれを神は許さなかった。

 神は絶対的存在であり、天使が神に意見をするなどあってはならぬ事。


 納得の行かない大天使は神の命に背き、独断で物事を進めてしまった。

 怒った神々は大天使から美しい翼を奪い、天界から突き落としてしまった。

 彼を慕っていた天使達は嘆き、悲しみ、そして彼の後を追うかのように天界から飛び降りてしまった。


 怒りに震えた大天使の背中から、黒く大きな翼が生えた。

 血の涙を流し、神を愚かな者と罵り、復讐を誓った。


 怒りの業火に燃える堕天使は、一緒に堕天し、悪魔と化した部下達を率いて天界へと攻めこんだ。

 そんな彼の妹は、神により託された光の剣で堕天使へと立ち向かったのだ。


 争いは激化し、何人もの仲間が命を落とした。

 それでも二人の戦いは終わらず、天界をも焼き付くすと思われた。


 しかし激しい戦いの末、勝利は妹の手に。

 そうして妹は大天使となったのだ。



「……もう分かると思うけど、その妹がボク……ミカエルなんだ」


 ミカは話し終えると、小さな声でそう言った。


「ミカは勝ったんだろ? なら堕天使相手ならまた天使達が戦うのが普通じゃないのか?」


 別にミカを責めている訳ではない。

 ただ、何故わざわざ人間の俺達なのか……それがどうしても分からなかった。


「この話には続きがあるんだ」



 ――勝利を納めたミカエルは、神にルシファーを殺すように命じられた。


 しかしあまりにも変わり果てた兄の姿を見て、ミカエルは涙を流した。

 あの美しかった兄が……

 あの優しかった兄が……

 あの気高かった兄が……


 ミカエルは誰よりも、兄、ルシファーの事を尊敬していた。

 そうして、ミカエルは自分の功績の代わりに兄を許して欲しいと神に悲願した。


 しかし神はそれを許さなかった。

 ミカエルに殺せと冷たく言い放ったのだ。


 ミカエルはルシファーの喉元に剣を突き立て、最後の言葉を聞く。

 出てきた言葉はミカエルへの兄としての愛情が垣間見える言葉だった。


 するとその瞬間、ミカエルは堕天使ルシファーが昔のルシファーに戻ったように見えた。


 ミカエルは剣を下ろし、自分に兄は殺せないとルシファーを逃がしてしまったのだ。

 神、ゼウスは全てを知った上でミカエルを許した。


 しかしその後もルシファーは何度も神に抗った。

 その度にミカエルは兄を伐とうと決めるも、神がルシファーと戦う事を許さなかった。


 ミカエルを許す代わりに、戦士としての力を神はミカエルから奪ってしまったのだ。


 その度に他の天使が戦うも、闇に対抗できる光の守護天使はミカエルしか居なかった。


 そこで神は光の守護を受け継ぐ人間を探す事にした。

 堕天使ルシファーを完全に抹殺するために。


 しかし魔法が使えない世界で光の加護を持つものを探し出すには至難を極めた。

 時間がかかるうちに、ルシファーは世界を繋ぐという暴挙にでる。



「ボクが……ボクが至らなかったせいで人間を巻き込んでしまった」


 ミカはポロポロと涙を流した。


 俺はそんなミカの頭を撫で、ミカのせいじゃないよ、と言うのが精一杯だった。




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