3話
次の日から本格的に魂を自由に扱える特訓を始めた。
特訓は大体夜に行うことにした。
何度も肉体から離れたり、戻ったり……。
フワフワと宙を浮いてみたり、歩いてみたり。
そうやって慣らしていき、少しずつ肉体から離れていられる時間を増やしていった。
昼間は病院のリハビリに通っている。
このリハビリが辛いのなんのって……。
当たり前だが医者は腰を抜かしそうな程驚いて、色々な検査を散々やらされ、最後にはテレビで良くある「奇跡だ……」と目を輝かせていた。
神の力が関わってるんだ、そりゃ奇跡に違いない。
医師の診断結果を見せたら母はまた泣いてた。
初めは理解が出来なかった様で、暫く呆然としていた。
しかし、理解すると同時に咽び泣く程、心底喜んでくれた。
そして少しずつではあるが、昔の様に元気を取り戻しつつあるようだ。
そしてある程度魂の姿を保てるようになると、ミカに魂が最低限戦えるように能力を引き上げてもらい、戦い方の説明を受けた。
俺の強さは魂の強さに比例するらしい。
どんなに鍛えあげても、情緒不安定な時は力が安定しないので注意するようにと言われた。
目に見えてレベルやHPなどが分かる訳ではない。
邪心を倒すと心の結晶を落とす様で、それをミカに渡すと浄化してくれるとのこと。
すると様々なスキルを身に付けたりも出来るとかなんとか……
魔法を使うことも可能らしいが、魂の気力、要はMPの様なものを削って打つ形になるので連発すればあっという間にエネルギー切れになり動けなくるので最初はオススメしないらしい。
「そもそも魔法を使えるかも、その人の適性次第だからね~」
ミカはそう言っていたが、魔法を使えたら戦いも有利なんじゃないかと思う。
さて……では魔法も使えるか分からないうちに、どう戦うのかと言うと……
ミカは大きな翼を広げ、好きな羽を一つ選べと俺に言ってきた。
「本来、天使の羽を人間に授けるなんてあってはならないことなんだけどね、この世界に来ている邪心は異世界でそれなりに強かったモンスター達なんだ。」
何でもザコクラスでは時空間の移動をしたら、魂ごと即座に消滅してしまうそうだ。
そんな相手と戦えなんて簡単に言うんだ。
天使と言うより鬼、と言った方が正しい気がする。
「これはこれから戦うキミへの餞別とも言えるかな」
思わず撫でたくなるような、まるでキラキラと輝くように艶やかでフサフサの羽が目の前に広がる。
正に神秘的と言うべきだろか。
――思わず息を飲んだ。
「じゃ、じゃぁこれで……」
「選んだら抜いてくれる?」
「お、おう」
ゴクリ……。
あぁ、やっぱり本物の天使なんだな
羽に伸ばす手が震えてしまう。
天使の羽を抜くだなんて、何とも言えない背徳感が襲う。
掴んだ羽をグッと引っ張り、一つだけ引っこ抜いた。
やはり少し痛いのだろうか?
ミカはビクッと反応していたが、何事もなかったかの様に話を続けた。
「さぁその羽に、珪太の力になるようにって祈ってみて」
俺は言われた通りに羽に祈る。
どうか俺に力を貸してください……
こんな感じか?
すると驚く事に、羽は剣へと姿を変えたではないか。
見た目は普通のロングソードっぽいけど……
「うんうん、いい感じだね! これが珪太の武器になるからね」
「おぉ! 俺の武器!」
素直に感動した。
やっぱり男だからか、子供の頃から勇者や剣士への憧れがあったからだ。
漫画やゲームなんかで主人公は大抵剣士だろ?
俺ももしかしたら、彼らのようになれるのだろうか。
「あとは実戦あるのみだね! ボクはいつでも側に居れる訳じゃないけど、呼び掛けてくれたら珪太の元に来るよ」
頑張ってね、と声をかけられミカは消えてしまった。
邪心は見ればすぐに分かるとのことだし、やられてしまったら無になってしまうからな。
初めは慎重にいってみよう。
――そうして、遂に俺の戦いは幕を開けたわけだ。