2話
ざっくりと天使の話を聞いた後、早速願いを叶えてもらうことにした。
天使によると、願いを叶えると言ってもいくつか制限があるらしい。
まず他人の人生に干渉する願いは叶えられないとのこと。
例えば、誰かを生き返らせたり、逆に殺したり、自分を好きにさせることも出来ないみたいだ。
しかし、俺がモテるようにしてくれと言うのはOKらしい。
まぁ一つ目の願いはもう決まってるんだがな。
「俺の足、怪我する前みたいに自由に動くようにしてくれ。
これが俺の最初の願いだ」
天使が「いいよ」と答えると、不思議な光に包まれ、すぐに足の感覚が戻ってくる。
「あぁ…ほ、本当に戻った…!!」
足の指を動かし、動かせる事に涙が出てきた。
しかしそのまま立ち上がろうとすると上手く立てない。
「お、おい、立てないぞ!? 確かに感覚は戻ったけど…」
「それはお兄さんの足、今筋肉が全然ない状態だからね。
怪我は治してあげたけど」
なんだと!?
そんな詐欺みたいなこと有りかよ…
「産まれたばかりの子供は急に歩けないでしょ? それと同じだよ。でもリハビリすれば昔みたいに歩ける様になるし、運動もできるよ!」
そうか、怪我を治して今すぐ歩ける様にしてくれって言うべきだったな…。
次の願いは、やっぱり金だろうな。
宝くじなら税金もかからないし、一等当選でも頼むか?
やりたい事も沢山あるし、何より母に楽をさせてやりたい。
「2つ目の願いなんだが…」
「あ、待って待って!」
願いを言おうとしたら天使が慌てて止めにはいった。
「2つ目からは一定の貢献度が無いと叶えられないの」
俺はしかめっ面をし、どういう事なのか詳しく聞いてみると、どうやら願いだけ叶えてトンズラされたら困るとの事。
「そんなことはしない。約束は守るよ」
「あのね、魂を使うって想像以上に大変なんだよ? さっきも言ったけど、魂の状態でダメージを受けると、肉体の非じゃない程の苦痛を受けることになるの」
天使は真剣な顔をして、まるで子供を諭す様に話を続ける。
「魂が鍛えられたら苦痛を軽減することも出来るけど、そこに到達する前に挫折しちゃう事の方が多いんだ。戦う意志を持たなくなってしまった魂を無理矢理戦わせる事は出来ないの」
どれ程の苦痛なんだ…
想像が出来なさすぎて流石に不安になってきたぞ。
「分かった…。まぁ一つ願いは叶えて貰ったし、俺は2つ目の願いを叶えて貰いたいから取り敢えずやってみるよ」
やらないことには始まらないからな。
そもそも願いが本当に叶ったんだ、やらないわけにはいかないだろう。
「それじゃぁ、まずは魂を肉体から切り離す練習をしてみよう!」
ベッドに横になり、目を閉じて意識を集中させる。
胸の辺りから頭の方へ何かが流れ込む様なイメージで、頭に到達したら更にその上を抜ける様に…
抜ける様に……
抜ける……
抜ける……
抜け……
…………。
「たはっ! 無理だろ!!」
勢い良く起き上がり、眠そうにしている天使に文句を言った。
「あれ~? やっぱりダメかぁ」
目を擦り、仕方ないなぁと伸びをする天使に、本当にコイツ大丈夫かと不安になる。
「最初は出来る人いないんだよねぇ」
てへぺろっ☆と笑っている天使に、俺は深いため息を吐き、他に方法は無いのかと尋ねた。
「最初はボクが魂と肉体を切り離すね。そうするとね2回目からは自分で出来るようになるよ!」
「それなら最初からやってくれよ…」
小一時間もやってた俺はなんなんだ……
コイツ見習い天使か何かか?
見た目は明らかに子供だし、天使ってこんなもんなのだろうか?
「それじゃぁ、目を閉じてね。リラックスして」
言われた通りにすると、一瞬寒気の様なものが全身に渡ったと思ったら何かに意識が吸い込まれる様な感覚が起こった。
「さぁ目を開けて」
目を開けると、さっきとは違う目線に居ることに気付く。
下を見下ろして見ると、そこにはベッドに横になって寝ている俺がいるではないか。
「うわっ! なんだこれ!」
「ふふっ、凄いでしょ?お兄さん、今魂だけの存在になってるんだよ」
あぁ、確かに凄い。
魂だけとは言え、普通の肉体と変わらないのに、体が凄く軽いし宙に浮いてるだぞ。
手をグーパーグーパーしてみたり、足をバタつかせてみたり、下に降りようとすれば自然と降りられ、地に足を着く事も出来る。
「さぁ、今度は肉体に戻って! 最初だからね、徐々に慣らさないと肉体への疲労が酷くなっちゃうよ」
「あ?あぁ……」
ベッドに寝ている体に戻ろうと意識を集中させると、また一瞬寒気の様なものが走り、次の瞬間何かに吸い込まれる様な感覚がした。
そして目を開けると、今度はベッドの上だった。
あぁ、成功したのか……
戻るのは簡単なんだな。
少ししか魂で活動していないのに、確かに体が怠い。
「さぁ、今度はまた魂だけになって! 自分で自由に出来るように練習してね!」
―――――そうして俺は何度か繰り返し、最後には体が全く動かない程疲弊していた。
「うん、今日はこのぐらいかな! 上出来だよ、お兄さん!」
天使は嬉しそうに拍手している。
俺は顔を天使の方に向ける事しか出来ず、それは良かった、と小さな声で返事をした。
「ボクはお兄さんの担当だからね、助言もするし、魂の強化もしていくよ。これから長い付き合いになるからよろしくね!」
「そう言えば、名前聞いてないよな。俺は佐伯珪太、天使様のお名前は?」
「名前?皆からはミカって呼ばれてるから、ミカで良いよ」
「ミカ?」
ミカってまさか…
いやいやまさかな。
こんなチンチクリンで見習い天使みたな奴が二大天使な訳……
無いよな。
「よろしくな、ミカ」
そう言ったところで俺は意識を失った。
疲れがピークに達したのか、その日は気絶した様に眠りについた。