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いつもと違う1日

「君の願いを3つだけ叶えてあげるよ」




 ――俺の名前は佐伯珪太、28歳、彼女居ない歴年齢。

 自慢じゃないが、俺ほど不運な奴もなかなか居ないと思う。


 見た目は平凡

 父は幼い頃に他界、母は病弱でまともに仕事も出来ず、物心ついた頃からずっと貧乏だ。


 働かなくては生活が出来ないので、中卒で職人になったものの、足場から落ちて最悪な事に脊髄損傷で下半身麻痺で車椅子生活。


それから人と接する事も滅法減り、今では友達も0。



 何度も死にたいと思った。

 今まで出来ていた事が、ある日突然出来なくなるのは想像以上に辛い。


 暫くは塞ぎこんだが、仕事をしなくてはいけない…

 しかし学歴も無ければ、貧困な我が家にパソコンなどあったことなどないので当然全く分からん。


 現在は障がい者を雇ってくれてる作業所に勤め、障がい者年金と合わせなんとかやっている。


 変わらない毎日。

 つまらない仕事をし家に帰れば母は人生が辛いと泣き、そんな母を宥める毎日。


 泣きたいのは俺の方だ。

 趣味もないので、楽しみもない

 金も無いので遊ぶ事も出来ない


 慣れたとはいえ、自由にならない身体に……心まで余裕が無くなる。


 もう人生をやめてしまおうか……と思っても母は一人では生きていけない、俺が守らないといけない。


 でもそろそろ限界なんだ

 もう疲れた。


 ――いやいや、寝てしまえば、なんとかなる!

 そう言い聞かせる毎日だ。


 そして今日もいつもと変わらない毎日、のはずだった…。



 布団に入り、お気に入りの小説を読み、ウトウトしていると、誰かに声をかけられた。


「ねぇねぇ」


――ッ!?



 聞こえるはずのない声に驚き、一瞬で目が覚め声のする方を見ると、羽の生えた子供がこちらを見ている。

 あり得ない出来事に声も出なければ、体も動かせない。


 どっから入ってきたんだ!?

 いや、それよりあの羽はオモチャか何かか?


「お兄さん、凄い綺麗な心だね!」


 綺麗なクルクルとした髪に、バランスの取れた顔立ち、正に天使と言わんばかりに可愛らしいその子供はニコニコしながら俺に話し続ける。


「お兄さんすご~くラッキーだよ!選ばれたの!」


 体を起こすのが精一杯で、頭が付いていかない。

 まず、この子供は誰でどうやって家に入ってきて、何を言っているんだ?


「君の願いを3つだけ叶えてあげるよ」


「――え?」


 やっと出た言葉がこれだ、なんとも間抜けなもんだ。



「いやいや、君誰?どうやって入ってきての?こんな時間に何してるの」


「ボク? ボクはねー、神様の使いだよ! 君たちの世界では天使って言うのかな」



 最早自分がイカれてしまったんじゃないかとすら思う。



「天使? え、天使ってあの天使?」


「そうだよ! ボクはお兄さんの願いを叶えにきたの」


 確かに見た目は天使の様に可愛らしい。

 が、天使なんて本当に存在するのか?

 人間て理解を超えると逆に冷静なもんなんだな。


「願いって、なんでそんな…」


「だーかーら! お兄さんはね、心が綺麗だから選ばれたんだって~!」


「え、選ばれたって…もしも本当に願いが叶うなら、これ以上に嬉しい事はないが……」


「でもね、タダではないよ! 交換条件って感じかな!」


 何だか雲行きが怪しいな…

 まぁそんな美味しい話は無いよな。



「実はね、世界はお兄さん達が暮らすこの世界だけじゃないんだけど、この世界と他の世界を分け隔てる時空の壁の様なものが壊されかけてるの。

 他の世界には魔獣とかも生息しているし、種族も人間だけじゃないんだ。

 他の世界との壁が無くなってしまったら、全ての世界は崩壊しちゃうの」


 にわかに信じられない話をつらつらと始める天使に、俺は言葉も出なかった。


 ちょっとなに言ってるか分からない、ってツッコミたいけど、身ぶり手振り話す姿が可愛いから黙って聞いてよう。



「神様はその壁を一生懸命直してるんだけど、壁を壊したヤツの力が強すぎて、今はこれ以上壊れないようにって止める事しか出来ないんだって。」


「それで俺にどうしろって言うの? まさか異世界に行って魔王を倒せとか言うわけ?」


「あはは! そんなこと言わないよ! お兄さんバカなの?」


 なんかすげぇ笑われてムカつくな、コイツ。

 久しぶりにイラッときたぞ。

 そこは今流行りの異世界転生だろ、普通。



「そもそも異世界に移動なんてしたら肉体は消滅しちゃうよ。お兄さんにお願いしたいことは、異世界との壁が崩れかけたせいでこの世界に溢れてしまった悪いやつを退場して欲しいの!」


「この世界に溢れたって、異世界にいったら肉体は消滅するんだろ?異世界からこっちの世界に来ても消滅するんじゃないの?」


「普通はそうなんだけどね、強力な邪心を持ったモノは異世界に移動して魂だけになっても行動が出来るんだ。

 そして邪心はこの世界の人々の心を蝕み、いずれ世界は崩壊する。

 今はまだそれほど多くないけど、これからいっぱい増えると思うよ。」



「魂だけの邪心て、俺にどうやって倒せと?」


「お兄さんの魂をボクが強くするよ!邪心と遭遇するにはお兄さんも魂だけになってもらわないといけないの」


「え、それ……俺死ぬってこと?」


「あ、違う違う! 幽体離脱って言うの? あんな感じかな? 邪心を倒せば倒す程、お兄さんの魂も強くなるよ」


 いまいち想像出来ない…

 戦うってことだろうけど、魂でどうやって戦うんだよ……。


「どうする?願いを叶える代わりにお兄さんは世界を救ってくれる??」


「……断ったらどうなるんだ?」



 願いを叶えてくれるなんて美味しい話を今のところ断るつもりもないが、念のため……


「流石にお兄さんだけじゃ根絶は無理だから、お兄さんみたいな人何人かいるんだー。お兄さんが断っても他の人に頼むしかないよねー」


「当然リスクもあるんだよな?」


「そうだね、邪心に魂を消滅させられてしまうと、二度と肉体に戻れないし、死んじゃった後生まれ変わる事も出来ないよ。

 要するに無になるってことかな。

 魂が傷つくって、想像以上に痛いんだよ。傷ついた魂は本来、余程強い精神力の持ち主じゃなければ回復しないのー。

 でもボクの力で、肉体に戻れば少しずつ回復出来るようにすることも出来るよ!」


 なるほど…

 死んだとしても無になるだけか。

 地獄行きとか、永遠と苦しむって訳じゃないなら悪い話じゃないな…。

 どうせ今の俺は脱け殻と大差ないしな。



「よしッ! その話、受ける!!」


「やったー!! 決まりね!!」


 天使はぴょんぴょんと跳ね、えらく喜んでいるけど、断る奴なんていなそうだけどな…。


 ――こうして俺の人生は想像も出来ないほどに一変することになる。

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