かけっこの話
俺の通っていた小学校。
田舎のド田舎中のド田舎で、全校生徒20人とか30人とかで、同級生はたったの一人だった。1学年2人。勉強やスポーツのライバルになるのも、その一人だけだった。
勉強はたったの一回も負けたことは無く、いつもテストの点数で勝っていた。相手が宿題をしていないのに対して、
「なんで宿題せんのん?」
とか、テストで低い点数を取る相手に、
「何でそんなに馬鹿なん?」
と、心無い言葉を発していた時もあった。
小さな学校で、特にスポーツをやる設備も無く、初めの頃はかけっこをしてばっかりだったと思う。
それすら、小学校一年生の時から、暫くは負けたことはなかった。
そう。暫く、は――。
時は進み、俺は小学校三年生になっていた。春頃、100メートル走の授業があった。一回目、俺は人生で初めて、その同級生に負けた。
「もっ、もう一回!」
仕切り直して、再び100メートル走をする。
距離が進むにつれて、どれだけホンキを出しても、どんどん、どんどん離されていく。次第に、自分から足を進めるのを止めている自分に気付く。100メートル地点では、体数個分も離されてゴールした。
何かあったなと思い、他の生徒に話を聞くと、その子は野球を始めていた。
(なるほど、野球をするために走って鍛えたんだな)
子供ながら、考えて納得した。
しかし、一向に宿題をして来ない同級生。しびれを切らした(俺は母ちゃんか、なんかか?)俺は言った。
「何で勉強せんのん? 野球やっててもプロ野球選手になれるかどうかも分からんのに」
すると同級生は答えた。
「野球ばっかりやってるのは、……野球が好きだから」
その屈託のない笑顔にやられた俺は、何も返す言葉が無かった。
その4年後か5年後、俺はその同級生と野球をすることとなったというお話は、いつかするコトとしよう。