第四話 同じ意思を持つ者
先ほどまでの騒乱が夢のように感じられるほど静かな闇の街。誠と骸門寺の二人は肩を並べて緩やかに歩いていた。
「すみません。俺があんな奴らに捕まるなんてドジしたせいで……」
夕方過ぎ。表の世界を歩いていた時だった。まだ夕暮れ時の、それも表の世界ということもあり、油断していた。ヘルヘイムの拠点へと戻るために人気のない路地へと入った際、後ろ首に強烈な痺れを受け、そのまま意識が遠退いた。暗転する視界の中で最後に見たのは、黄色い衣服に身を包むイエロースネークの連中と、電流の弾けるスタンガンだった。誠が一瞬で意識を持って行かれた威力から考えるに、恐らく違法改造された代物だろう。
そして気がついた時には縛られた姿であのボウリング場で転がっていて、一方的な暴力に晒され続けたのだ。
誠は悔しさに拳を握った。
「せめて鬼の力が使えてれば……!」
「仕方がないことだ。お前の鬼の力は一定以上の光が……いや、〝影〟が必要になる。光のないヘルヘイムでは制限されることが多い。それを知って、あいつらも対策をしていたんだろう。結果的にこうして無事だったんだ。それでいい」
一切を責めない骸門寺に、誠は心が温まっていく。握った拳は自然と力が抜けていった。
「……本当に、ありがとうございます。俺、骸門寺さんに助けられてばかりだ……」
「俺は俺のやりたいようにやっているだけだ。気にするな」
「……くふふっ」
そのセリフに、誠は思わず笑ってしまった。
「……何がおかしい?」
「いえね、俺があの少年に助けられて礼を言ったとき、あの少年も同じことを言ったんですよ。骸門寺さんのお決まりの『そのセリフ』を」
蓮華からその言葉が出たときは驚いた。それと同時に、妙な嬉しさが込み上げた。骸門寺と同じ意思を持つ人間に出会えたことに。
「なんだか初めて骸門寺さんに助けられた日のこと思い出しちゃって、面食らっちゃいました」
誠がレッドスカルに入ったのはおよそ二年前。〝ある出来事〟からイエロースネークへと単身で乗り込んだ誠は、しかし見事に返り討ちに遭い、絶体絶命の窮地に立ったところで骸門寺に助けられた。そして誠が礼を言った時の骸門寺のセリフが、まさに『そのセリフ』だったのだ。
「あいつ、大物になりますよ。ま、骸門寺さんほどじゃないですけど」
「……俺は大物じゃない」
骸門寺は困ったように頭を掻いた。その鼻につかない謙虚さに、彼の人間性の全てが滲み出ていた。
「しかし、お前もよく手を出さずに我慢したな」
「何がですか?」
「気絶していた奴らにトドメを刺さなかったことだ。殺したいほど憎いはずだろう。イエロースネークを」
「……違いますよ、骸門寺さん」
誠は静かに、しかし奥底で怨恨の煮えたぎる声で答える。
「俺が殺したいのは、蛇塚です。あいつ以外なんてどうでもいい。あいつさえ……蛇塚さえ殺せれば、それだけで……」
口に出すだけでも反吐が出そうになる、その名前。誠は頭にその憎き顔を思い出して、怒りに震えた。
いいや、誠はいつだってその顔を思い出し、怒りに震えている。四六時中考えているほどだった。誠がレッドスカルに入った理由とも言える憎き仇――蛇塚の、殺し方を。