第二十一話 見つけた答え
「――ッくっそぉおおぉおおおおおおッッッ!」
蓮華は魂の底から声を振り絞って――肉を掴んだ。
だが、掴み取ったそれは人肉ではない。その横に転がっていた、引きちぎられた餓鬼の残骸の一部。餓鬼の腕の肉だ。
それを握りしめて、蓮華はよろめきながら立ち上がる。
「まさか餓鬼の肉を……? うひっ、うひははは! こいつは傑作だ! 正気かお前? 餓鬼の肉を喰うなんて……バケモノじゃねぇか。俺でさえ喰おうとすら思わねぇ」
レオの哄笑が遠くに聞こえた。だが吹っ切れたように、蓮華の心は妙に澄んでいた。
やっと見つけた。そうだ。探していた答えは、ここにあったんだ。人を喰わずに済む方法が。
レオの言葉通り、バケモノの肉を喰うなんて、もしかしたら人肉を喰うこと以上にバケモノじみている選択かもしれない。でも、誰も傷つけずに済むのなら――喜んで喰ってやろう。
喩え、バケモノと罵られようとも。
蓮華は餓鬼の腕へと大きくかぶりつき、その肉を喰いちぎる。
まるでゴムを噛んでいるかのように硬い。生魚とドブ水を掛け合わせたような腐臭がする。苦くて渋くて吐き気が込み上げるくらいに不味い。これは食べるべきではないと体が、本能が拒絶する。でも――喰える。炭化することはない。
蓮華はそれを強引に喉の奥へと落とし込む。その瞬間。
どくん――と心臓が跳ねた。
胃に取り込まれた餓鬼の肉が、瞬時に蓮華の血肉へと変換されたのがわかった。
体が熱い。脇腹の痛みが引いていき、瞬く間に風穴が塞がっていく。ぼやけていた頭が冴え渡る。力が……溢れてくる。
「おもしれぇ……! 餓鬼を喰ったお前の肉、どんな味がするか楽しみになっちまったぜ!」
レオは翼を開くように両腕を広げ、力を込めた。すると周囲に散らかっていた瓦礫やら半壊した長椅子やらが浮上し、蓮華一点を目掛けて集中砲火を開始する。
蓮華は自身を覆う爆炎と爆風を展開。襲い来るそれらを一つ残らず焼き払い、吹き飛ばす。
続けてレオは蓮華とのぞみを貫いた槍を投擲した。それは吹き荒れる熱風により蓮華へと届く前に赤熱し、ぐにゃりと変形。鋭い矛は見る影もなくなり、スライム状になって飛び散った。
間髪入れず、蓮華の左右の地面が割れて起き上がり、本が閉じるように蓮華を挟み込んでくる。だが起き上がってきた地面が蓮華の纏う火焔に触れた途端、爆発。モザイクタイルの石床は木っ端微塵に爆散した。
頭が澄み渡っている。清々しいほどに、純粋な怒りで満たされていた。
蓮華の据わった双眸がレオを睨む。圧を含んだ無言の眼光に、レオの顔が寒気を覚えたように強ばった。
突然、蓮華の足下から網が広がるように燃えさかる炎の線が走り、礼拝堂の床を、壁を、柱を、天井を、何もかも分け隔てなく駆け巡る。縦横無尽に線を引いた炎は最後にレオの足下に集約し、点を結んだ。
「く……ッ!」
レオは初めて焦燥を表し、飛び退いた。その瞬間、炎の線の集約した点から火柱が上がり、全てを溶解した。
「へっ、なんだ脅かしやがって。さっきと変わらねぇじゃ――なっ!?」
流暢に口を動かしていたレオの顔が再び驚きに固まった。レオの着地した足下に、瞬時に炎の線が集結して点が形成されたのだ。
「くそッ!」
炎の点が爆炎を上げ、またレオは転がって緊急回避する。だが、レオが転がった先で再び炎の線が集結し、点が造られ爆発する。ただひたすら、その連続。壁に貼り付こうと、それは変わらない。
壁も、床も、天井も、全てが蓮華のテリトリーと化している。くまなく地雷が仕掛けられているようなものだ。レオに逃げ場はない。
レオが苦悩を浮かべながら回避を続け、何度目かに宙に飛び上がった時、蓮華は瞬時に間を詰めてレオの前に躍り出る。その俊敏な動きは、レオの反応速度を上回っていたのだろう。レオは空気爆発による反撃も間に合わず、驚きに固まっていた。
「歯ァ食いしばれ」
そのレオの顔面に、蓮華は炎々と燃える拳を叩き込む。砲弾のように鋭く繰り出されたその拳は炸裂音を打ち鳴らしてレオの纏う空気障壁を破り、横っ面を捉え、紙クズのように突き飛ばす。レオは一本の柱に衝突して破壊してもなお衝撃を殺しきれずに吹き飛んでいき、果てに壁に背中から激突し、その衝撃で半壊した壁の瓦礫に埋もれた。
緋鬼の眷属の、本当の身体能力――これまでの蓮華とは比べものにならないスピードとパワーだった。
「――て、めぇ……!」
しぶとく、瓦礫の中からレオは立ち上がる。その背後の崩落しかけた壁に、蓮華は瞬時に導火線を結んで小爆発を起こした。レオの意識外で起きたそれは、まさに意表を突く攻撃だっただろう。彼は状況を把握する間もなく吹き飛ばされる。
ボールのように蓮華へと向かって一直線に飛ばされたレオに、蓮華は体を捻って回転を加えた回し蹴りを叩き込む。
「ごはっ!」
レオの体が『く』の字に折れ曲がり、骨の砕けた音を響かせて三度目の豪速空中遊泳。だが、レオも一方的にやられてばかりではなかった。
「クソが……ッ! 調子に乗んじゃ、ねぇ!」
レオは地面を転がりながら素早く体勢を立て直すと、念力により直下の床を引き剥がし浮上させ、足場にする。蓮華の火焔の導火線も、宙に浮いている床にまでは力を及ぼせない。レオはそれを狙ったのだろう。だが、床を引き剥がした時点で蓮華はレオの意図を先読みし、龍を模した火焔を放っていた。
「なッ!?」
蓮華の放った炎龍はレオの足場を破壊し、続けて宙で身動きの取れなくなったレオの脚、体、腕に巻き付き、がんじがらめにして捕らえる。
「ぐぁあぁぁああぁあああああッッッ! あッ、熱い! ああぁあぁああ熱いぁああぁああ!」
レオの絶叫が礼拝堂に響き渡る。
蓮華の操る炎龍はレオに直接触れてはいない。あの空気障壁が膜のようにレオを包み、守っていた。だが、その空気障壁は爆発の衝撃や熱風を遮ることはできても、熱自体を完全にシャットアウトすることはできないらしい。炎龍から照りつける灼熱がじわじわとレオを焼き付けていた。
「同じ痛みを味わえ。そして自らの行いを悔い改めろ……ッ!」
蓮華はレオの腹部に照準を合わせ、掌を翳す。掌の先には、鋭い矛先を持つ炎の槍が生まれた。
「や、やめろ……! やめろやめろやめろぉおぉおおぉおおおおッ!」
喚き散らすレオを蓮華は無言で見据えたまま、燃えさかる炎の槍を撃つ。大気を切り裂きながら駆ける炎の槍はレオの纏う空気障壁を切り裂き、脇腹を焼き貫く。そこには拳大の穴が空き、向こう側の壁を覗かせた。
「かは……っ!」
レオは盛大に血を吐くと、白目を剥いた。レオの体からだらりと力が抜けたのを確認した蓮華は炎龍を消す。支えを失ったレオの体が落下し、地面に打ち付けられて転がった。
終わった。途端に蓮華は肩から力が抜け、頭が冷静さを取り戻す。
「――のぞみ……!」
周囲に展開していた炎を収め、一目散にのぞみに駆け寄る。でものぞみは青白い顔をしてぐったりとするばかりで応えない。
のぞみの寝ている台座が血で真っ赤に染まっている。酷い出血だ。明らかにこのままではのぞみの命が危ない。
でも、のぞみは鬼人のように何かを食べれば傷を癒やせるというわけでもない。怪異の治療法なんて蓮華は知らない。
どうすれば……どうすれば――
「……頼む。もう少し耐えてくれよ、のぞみ。必ず助けるから……!」
のぞみを抱えて、蓮華は走り出す。
紗良々なら何か知っているかもしれない。もう、紗良々に頼るしかない。
出入り口の両開き扉を背中で押し開き外に飛び出る。そして前庭を通り抜け、正門を潜ろうとした時、
「…………ッ!」
そこで待ち構えていたものに驚愕し、蓮華は足を止めた。止めざるを得なかった。
「灰鬼……!」
糸を引くヨダレを垂れ流し、一つしかない眼球をぎょろりと鋭く光らせて辺りを見回している灰鬼が、蜘蛛のように向かい側のビルの壁面に貼り付いていた。
思考停止して固まっていた時、灰鬼の首がぐるりと回り、不気味な瞳が蓮華を捉える。
マズい、気付かれた――と思うや否や、灰鬼が跳ねる。ナイフのように鋭い牙を剥き出しにして一直線に蓮華へと喰いかかった。
「くっ……そォッ!」
半ばやけくそ気味に蓮華は炎の波動を放つ。蓮華の正面から放たれた極大の火炎放射は灰鬼の巨体を丸呑みし、背後にあったビルごと熔解して跡形もなく焼き尽くす。
でも無駄だ。どうせ灰鬼は瞬時に再生する――そう諦めていた。だが、違った。
「……どういうことだ?」
いつまで経っても灰鬼が再生する気配がない。塵となった灰鬼の残骸は、塵らしくその場に積もるだけだった。
困惑する中、突如背後に気配。振り返り、蓮華は戦慄する。そこには大口を開けた灰鬼が間近に迫っていた。
灰鬼の大口がつくる影が蓮華を覆う。冷たい汗が全身から噴き出し、死に神の鎌が首にかけられたような錯覚。『死』が頭を過ぎる。
だがその時。まるで停止ボタンを押したかのように、なぜか灰鬼の動きが止まった。
かと思うと、ばきぼきとグロテスクな怪音を奏でながら灰鬼の手足や体が歪に捻じ曲がっていき、そのまま灰鬼が宙に浮く。そして猛烈な勢いで何かに引っ張られるように飛んでいき、建物に衝突して倒壊させていく。
理解し難い光景だった。が、すぐに答えを知る。
虫の息のレオが教会の扉の前に立ち、こちらに手を翳していた。先ほどの灰鬼の不可解な現象は、レオの念力だったのだ。
「まだ意識があったのか……!」
見れば、レオの手には黒く焼けた肉が握られていて、腹部の傷が塞がりかけている。
そこで蓮華は自分の持ってきた人肉を食べられたことを悟り、詰めが甘かったことを後悔した。
「白崎ィ……蓮華ァ……!」
初めてその存在を認めたかのように、レオは蓮華を名で呼んだ。そのゾンビのような声を上げて闘志を向けるレオを見て、蓮華は身構える。が、レオは直後に力尽き、膝から崩れて倒れた。今度こそ意識を失っているのだろう。動く気配はない。どうやら最後の力を振り絞って這い出てきただけのようだ。
ならばもう構う必要はない。蓮華はレオを置き去り、教会の門を潜って外へ出る。
そして道を抜け、幅の広い幹線道路に出たところで――蓮華は目を疑った。
幹線道路を真っ直ぐ進んだ先に、道を埋め尽くすほどの蠢く灰色の群れがあった。
それは紛れもなく、灰鬼だった。十体以上もの灰鬼が何かに群がっている。
「どういうことだ……? まさか、灰鬼は何体も存在するのか……?」
いや、もはやそんなことはどうでもいい。あれは危険すぎる。気付かれる前にここを離れるべきだ。
蓮華は直ちに反対方向へ進路を変更しようとした――しかしその時だった。
雷鳴が轟くと共に、灰鬼の群れの中心から青白い稲妻が迸った。
――まさか……そんな……。
「紗良々……?」
普通に考えればあり得ない。紗良々はマンションで寝ているはずだ。こんなところにいるはずがない。でも、今の雷はどう考えても……。
疑惑以上に確信めいた可能性が蓮華の胸をざわつかせる。切り返そうとしていた足は灰鬼の群れへと向き、自然と駆け足になる。
近づいてみたものの、灰鬼が肉壁となり中央の様子がまったく掴めない。
「紗良々!」
蓮華の呼び声に反応したのは、手前にいる数匹の灰鬼だった。首が傾き単眼が蓮華を捉える。
だが奴らが動くよりも早く、蓮華は目に力を込める。すると手前にいた灰鬼たちの足下のアスファルトが赤く熱を帯び、どろどろに熔解。マグマと化し、灰鬼たちを飲み込む。
「「ギョァアァアアアアァアアアアッッッ!」」
灰鬼たちはおぞましい断末魔を上げながらマグマへと沈んでいき、燃え尽きて姿を消した。再生される様子は、ない。
手前の灰鬼数体が消失したことで活路が開き、群れの中心部が露わになる。
そこで激闘を繰り広げていたのは、やはりと言うべきか、相変わらずの黒い浴衣を纏った幼女・紗良々だった。そしてその隣には、ターヤンもいる。
どうして紗良々とターヤンがこんなところにいて、しかも灰鬼の群れに囲まれているのかと蓮華は疑問が尽きなかったが、しかしそんな疑問を抱いている場合でもない。
「紗良々! ターヤン! こっちだ!」
ようやく蓮華の呼び声が届き、二人はこちらを見て目を見開いた。
「蓮華!? 無事だったんか!」
「……フン。ってことは、やっと肉を喰ったみたいだネ」
二人は顔を見合わせると、灰鬼の振り下ろす巨大な腕や放たれた氷塊などを回避しながら駆け抜け、最後に蓮華の生み出したマグマを飛び越えて灰鬼の群れから脱出した。
蓮華は二人と合流すると、そのまま肩を並べて一緒に灰鬼の群れから逃走を開始する。
「なんや今のマグマ! えらい力やないか! ついに肉を喰ったんか!?」
「いや、それが……ごめん。実は、人の肉は喰えなかった」
「ハ? じゃあその力はなんダ?」
「餓鬼の肉を喰った」
「ハア!?」
「はあ!?」
二人して信じられないといったように仰天した。
「あんなバケモンの肉を!? 冗談やろ!?」
「本当だよ。鬼の力さえ回復すれば問題ないんだから、文句はないだろ。これが僕の選んだ道だ」
「はぁー……。これまたけったいな道を選んだもんやなぁ……。で、どうなんやターヤン?」
「……まア、足手まといにならなければなんでもいいしネ。合格ってことにしてあげよウ」
ターヤンの思い描いたストーリーとは全く違う形になってしまったのだろうが、どうやら及第点ということで許してもらえたらしい。でも、今の蓮華はそんなことに喜んでいられなかった。
「そんなことより、紗良々! 大変なんだ! のぞみが……!」
走りながら蓮華は訴える。腹部に風穴を空けてぐったりとしたのぞみの容態を見て、二人は顔色を変えた。
「なあ、どうすればいいんだ!? 怪異の傷を治す方法ってあるのか!?」
「……すまん、ウチにもわからん……。こればっかりは、どうにもできんわ……」
紗良々は目を伏せ、申し訳なさそうにそう口にした。
「そんな……」
希望が途絶えた。紗良々でもわからないとなると、もう手がない。
「とにかく、まずはあいつらから逃げるんが先や。せやないと、のぞみを安静にさせることもできひん。次の交差点を右に曲がった先に〝隙間〟があるはずや。なんとかそこまで――」
言いかけて紗良々は足を止め、手で蓮華とターヤンを制した。
何事かと紗良々の見据える先を見て、蓮華は顔を歪める。
挟み撃ちするように、三匹の灰鬼が蓮華たちを待ち構えていた。さらに周囲を見渡してみると、建物の影からわらわらと灰鬼が湧いて出てくる。完全に囲まれていた。
「くそっ……なんやねんこいつら……!」
「どういうことなんだよ……? 灰鬼って一体じゃないのか? まったく同じ餓鬼が双子みたいに複数存在することなんてあり得るのかよ?」
「普通はあり得へん。めちゃくちゃ異常や。しかも不死身ときた。もうわけわからんわ」
「不死身……」
蓮華は思い起こす。教会の庭で焼却した灰鬼のことを。
「……もしかしたら、今の僕なら灰鬼を倒せるかもしれない」
「なんやと?」
蓮華はそっとのぞみを地面に降ろし、寝かせる。
「ここに来る前、一匹の灰鬼を一つの肉片も残らず消し炭にしたんだ。そしたら、灰鬼は再生しなかった。もしかしたら、跡形もなく消し炭にできればあいつらは倒せるのかもしれない」
灰鬼が複数体存在するのなら、教会の庭で蓮華の背後に現われた灰鬼は、蓮華の焼却した灰鬼が背後で再生したのではなく、別の灰鬼が気配を消して忍び寄ってきていたと考えるのが自然だ。
だとすると、蓮華はあの時、一匹の灰鬼を完全に消滅させたことになる。つまり……不死身ではない。
「それに、さっきマグマに沈めた灰鬼も復活しなかった。喩えもし不死身でも、マグマの中なら再生した瞬間に焼き尽くす灼熱地獄だ。実質、無力化できるはず」
「……できるんか? あの数を」
「わからない……。でも、やってみる」
前方で待ち構えていた灰鬼三匹は、立ち止まった蓮華たちを見て接近を始めていた。
蓮華はその灰鬼らの足下に向かって掌を翳す。刹那、アスファルトが灼熱により赤く照りだし溶かされ、道路はやがて赤橙色に輝く溶岩の海と化し、灰鬼三匹、計十二本の足を焼きながら飲み込んでいく。
「「ギョァアァアアアアァアアアアッッッ!」」
三匹の灰鬼は形容しがたい不気味な悲鳴をまき散らしながら暴れ回る。だが、そこはマグマの中。水とはワケが違う。逃れられるはずもなく、すぐに紅く煌めく沼に沈んで消えた。蓮華の予想通り、再生される様子もない。
蓮華たちを取り囲む灰鬼たちが一斉に口を開けた。その口先に大気を集め、あるいは冷気を発生させ、あるいは稲妻を溜め込み――蓮華らを狙う。
蓮華は瞬時に自分たちを包む業火の渦を展開。竜巻のように舞い上がった烈火は嵐のごとき暴風を生み、蓮華たちに向けて集中砲火された灰鬼らの気弾、氷塊、稲妻をその業火で飲み込み、撥ね除ける。
「す、すごイ……」
「なんちゅう力や……」
二人はその光景に圧巻され、息を飲んでいた。
炎の渦を収束させた直後、さきほどのマグマから一匹の巨大な龍が飛び出す。蓮華の鬼の力と地面を溶かして造り出したマグマを組み合わせたものだ。その大きさは直近にある二十階相当のビルにも匹敵する。
そんな神々しくすらあるマグマの龍は蓮華の掌の動きに合わせて宙を踊り、周囲のビルや建物の屋上からこちらを狙っていた何体もの灰鬼たちを次々と建物ごと飲み込んでいく。
あとはこのまま全ての灰鬼をマグマで飲み込めばいいだけだ。いける――蓮華はそう確信した。
だが、唐突に異変は訪れた。
「ぐぁ……ッ!」
強烈な胸の痛みに襲われ、蓮華は胸を強く押さえつけて膝をつく。蓮華の指揮下から離れたマグマの龍はその瞬間に形状を崩壊させ、破裂して飛び散った。