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そして僕はバケモノになった  作者: 夢見 裕
第二章 vs暴食の鬼人
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第十六話 幸せのかたち

 蓮華はすぐに外に出て耳を澄ませてみる。しかしそこにあるのは鼓膜が痛くなるほどの無音の世界。ただただ静寂のみが支配し、近くに息づく者の気配など感じられない。

 ならもう手当たり次第しかない――と、ひたすらに走り回って探してみる。嫌な胸騒ぎと冷たい動機がして、呼吸が荒くなった。


 のぞみが消えた理由など容易に想像できた。きっと彼女は、全て自分の責任だと思い込んで、勝手に独りで背負い込んで、もう誰にも迷惑をかけたくないからと逃げたのだろう。


 マンションの周辺をぐるりと一周しかけた時、そびえ立つビル群の隙間から何かが視界に入って、蓮華は足を止める。

 それは光だった。まるで灯台のように、一つのビルの屋上が光っている。淡く周囲を照らすその光は幻想的な薄緑色をしていて、時折強く輝きを増したりとムラのある光り方をしていた。

 明かりのないヘルヘイムでは、それは異様な光景だ。電気など通っていないし、当然建物のライトなどもつかないからだ。そして何よりその光は――つい先ほど見たばかりのものだった。


 蓮華は近くのビルを駆け上る。そして頂上からその全景を目に入れて、驚愕に瞳を揺らした。


「なんだ、あれ……!」


 目に飛び込んできたのは、光を発するビルに群がる無数の黒い影。うじゃうじゃと蠢いて壁を登っているその影は、餓鬼の大群だった。


 あの中に、のぞみが――


 蓮華は全脚力を駆使してビルの屋上から隣のビルの屋上へと飛び移り、そしてまた隣のビルへと飛び移り――と繰り返し、件のビルへと近づいていく。そしてとうとう一番近くのビルへと到達して――見つけた。

 やはり、のぞみだ。淡く光輝くビルの屋上のど真ん中で、膝を抱えて丸まり顔をうずめている。その全身から淡い緑の光を発光させて。


 一体何が起きているのか、あるいは何をしているのか、皆目見当もつかなかったが、蓮華は脚に力を込める。そして助走をつけ、数十メートルはあるそのビルとビルの間を飛んだ。

 空中をかける中、蓮華は見る。屋上へと登り詰めた三匹の小型の餓鬼が、列を成してのぞみに迫っているのを。そしてどうやらこの光は、あの腐食を起こす妖術ではないらしい。その前段階、ということかもしれない。光に触れた餓鬼も、蓮華も、体に異変は訪れなかった。

 のぞみは気づいていないのか、あるいは気づいていないふりをしているのか、動かなかった。

 鬼の力であの餓鬼を滅するべきかと考えたが、すぐにいやだめだとそれを捨てる。のぞみが近すぎる。爆炎がのぞみを巻き込んでしまう。


 考える猶予もなく、結局蓮華は何もできぬまま屋上に墜落。骨の髄まで痺れるような衝撃が脚に突き抜けて転がる。二転三転して衝撃を分散させ、すぐさま立ち上がって駆け出した。


 そこからはもう、考えるよりも先に体が勝手に動いていた。


 餓鬼がヨダレの垂らした大きな口を開けてのぞみに迫る。蓮華はのぞみに覆い被さるように体を滑り込ませながら、今まさにのぞみに食い掛からんとしていた一体の餓鬼を勢いに任せて殴り飛ばした。蓮華の炎の滾る拳が餓鬼の頭部を粉砕する。だがその次に構えていたもう二体体の餓鬼の処理は間に合わず、そのまま標的を蓮華へと変えた餓鬼の牙が蓮華に襲いかかった。


「ぐぁあッ!」


 二体の餓鬼がそれぞれ肩と腰に食いつき、鋭い痛みが走って蓮華は悲鳴を上げた。

 服に温かな血が滲んでいき、やがてぽたぽたと垂れて地面に染みを作っていく。

 餓鬼はそのまま蓮華を捕食しようとさらに食いかかるが、喰われて堪るか、と蓮華も力を込めて抵抗する。

 鬼人の強靱な肉体のお陰か、肉が容易く食いちぎられることもなく、蓮華は餓鬼に食いつかれたまま均衡した状態が続いた。

 痛い。焼けるような熱い痛みが背中や腰を駆け巡っている。だが……間に合った。護れた。

 蓮華の悲鳴で気がついたのか、のぞみはゆっくりと顔を上げた。涙で真っ赤に腫らしたその顔が驚愕に染まるのは、一瞬だった。


「……れ、蓮華お兄ちゃん……?」

「よぉ……のぞみ……。こんなところで、何やってんだよ……」

「蓮華お兄ちゃん……どうして……! なんで来ちゃったの……! なんでわたしなんかのためにそんなことするの……! やめてよ! 早く逃げてよ!」

「まずは、僕の質問に答えろよ……。こんなところで、何やってんだって訊いてんだよ……!」


 怒りすらも孕んだ声で、蓮華は問う。


「何って……わたしなんていない方がいいから。だから消えようと思っただけだよ。でも自分で死ぬ勇気なんてないから、それなら、逃げられない状況にしようと思って……」

「それで、自分で餓鬼を呼び集めたってのかよ……?」

「だってしょうがないじゃない……! わたしがいるだけで皆が不幸になる。わたしなんていない方がいいんだ……! でもこんなわたしでも、自分で死ぬ勇気はないんだもん! だから追い込むしかないじゃない……!」

「なんだよ……それ……! ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!」


 蓮華は憤りを禁じ得ず、拳を握りしめる。全身が熱くなり、やがて背後で蓮華に噛みついていた餓鬼が発火を始め、瞬く間に炭へと変わり果てた。


「死ぬ勇気がないって、つまり生きたいってことじゃねぇか……! なのにいない方がいいだとか決めつけて、勝手に自分で自分を追い詰めて……! どうして自分を否定すんだよ! どうして自分に嘘をつくんだよ! 生きたいなら生きろよ!」

「だって……わたしが生きてたら不幸な人を増やすだけじゃない! そんなの、もうわたしは嫌だよ……! 蓮華お兄ちゃんたちと過ごすのはすごく楽しかった、家族みたいで幸せだった……。でも、迷惑かけてばかりだった……! そして最後には、家まで燃えちゃって……! 全部……全部壊れちゃった……! わたしのせいで、わたしのせいで……!」


 のぞみの目からぼろぼろとこぼれ落ちた大粒の涙は、言葉以上に彼女の抱えた想いを語る。その涙は自らを嫌悪し、否定し、責め続けていた。

 疑いもせずに自らを責め立て、独り悲劇の中に佇むのぞみの姿は、もうどうしょうもなく、これまでの彼女の生き様を物語っていて、蓮華は胸が苦しくなる。


「百歩譲ってあの火事がのぞみの特性によって引き起こされたものだとしても、それはわざとだったのか? のぞみは悪意があって人を不幸にしてるのか?」

「……そんなこと、ない……」

「じゃあそこまで自分を責めるなよ。わざとじゃなければ何でも許されるってわけじゃないけど、世の中には悪意を持って人を不幸に貶める奴だっているんだぞ。そんな奴らがのうのうと生きてんのに、のぞみが消えなきゃいけない理由がどこにある! そんな不条理、僕は認めない」


 赦せない。そんな救いのない世界も、生き方も。

 蓮華は思う。もしそんな不条理がまかり通ってしまう世界だというのなら、そんな世界は間違っている、と。


「そんなこと言われたって……わたし、どうすればいいかわかんないよ……! ねぇ、蓮華お兄ちゃん、教えてよ……。わたしの生まれてきた意味って、何……? どうしてわたしは存在するの……? わたしの存在意義はなんなの……?」

「生まれてきた意味なんて知らねぇよ。でも、のぞみの存在意義なら、僕でも知ってる。のぞみに生きて欲しいと思ってる誰かがいる。それだけだ」

「え……?」

「のぞみが死んだら僕が悲しむ。不幸になる。だからのぞみは生きなきゃいけない。それがのぞみの存在意義だ。人を不幸にしたくないなら精一杯生きろよ。のぞみがいなくなったりしたら、少なくとも僕が不幸になるんだから」


 蓮華をどん底に落ちる寸前に踏み止まらせてくれた暮木の言葉を引用して、蓮華は言った。

 生きるという意味に、これほど単純で明快な答えは他にないだろうと、蓮華は今も思う。


「……なにそれ。そんなの、ズルいよ……。どうしてそこまでお人好しなの? どうしてそんなにわたしを助けてくれるの? わたし、蓮華お兄ちゃんに何もお返しできないのに……」


 のぞみの体から光が失われていく。命の輝きのようなその光はやがて消失し、いつもののぞみの姿へと戻った。


「そんなもん求めてねぇよ。ただ僕は……許せねぇだけなんだ」


 ――ああ、そうだ。初めからここにあったんだ。僕にとっての幸せは。僕の生きる理由は。存在意義は。


 蓮華は拳を握り締め、しかし穏やかな口調で語った。


「のぞみは人を思いやれる優しい奴だ。だからこそ、ことさらに僕は許せねぇんだよ。そんなのぞみがツラい目に遭わなきゃいけない生き方が。そんな不幸な奴が存在してしまう理不尽で不条理で不公平なこの世界が。だっておかしいじゃねぇか。正しい奴が傷ついて、悪い奴が幸せを掴める世界なんて。だから僕はこの世界に抗いたい。僕らが生きるこの世界は、善が報われて、悪が等しく裁かれる世界だと証明したいんだ。だから僕はのぞみを助ける。のぞみは救われるべき存在だから。正しい奴が悲しんでいたら、僕は迷わず手を差し出す。そうして誰かを救えることが、僕にとっての――幸せなんだ」


 蓮華の存在意義――蓮華の幸せを。


「……本当、蓮華お兄ちゃんって変な人……」


 そう言いながら、のぞみは涙を拭って笑顔を浮かべた。元気の戻ったのぞみの姿に安堵し、蓮華も笑みがこぼれる。


「さあ、帰るぞ。また一緒に暮らそう。皆で、家族みたいに」


 蓮華は掌を天へと翳す。そして力を込め、花火のように一発の火球を打ち上げた。

 火球はガラス玉が砕けるように天空で無数の小さな火球へと分裂し、火の粉が舞うように周囲に降り注ぐ。その小さな火球はビルの壁面やその壁面をよじ登る餓鬼に触れると、爆発。幾重にも爆音を轟かせ、餓鬼を散らしていく。

 この程度では餓鬼を殺すことはできないだろうが、しかし落とす程度なら十分な威力だ。なにも殺す必要はない。時間さえ稼げれば、後はのぞみを抱えてビルを伝って逃げればいいのだから。


 数匹の餓鬼が、降り注ぐ爆炎の火中を潜り抜け屋上へと姿を現す。しかし蓮華はすかさずその餓鬼たちに狙いを定め、掌から業火の弾丸を放つ。一匹の侵入も許すことなく、ことごとく爆破し吹き飛ばしてビルから突き落としていく。


 大方の餓鬼を蹴散らし終えただろう頃、しかしそいつは現われた。

 初めは巨大な手が現われ、屋上の縁を掴んだ。地震のような揺れが起こり、コンクリートに容易く亀裂が生じる。それだけで感じ取れる圧倒的存在感に、蓮華は緊張が走る。

 そして一歩、また一歩とゆっくりぬるりと屋上へと這い出てきたそいつは、他の餓鬼とは一線を画す異質な空気を纏う、巨体の餓鬼だった。


 体長は緋鬼に匹敵する三メートル級。体格は通常種の餓鬼の倍はある。二本の腕の他に背中から異様に長い四本の腕が伸び、顔には三つのギョロ目が光って一心に蓮華を見据えている。

 その辺にいる下級な雑魚餓鬼とは明らかに気配が違う。間違いない。こいつは緋鬼や灰鬼と同じ、鬼の力を有する上級の餓鬼だ。


「蓮華お兄ちゃん……!」

「のぞみは隠れてろ! 僕がなんとかする!」


 言葉ではそう強がりつつも、だが焦燥を覚えずにはいられなかった。


 ――残りの力で勝てるのか? 勝てたところで、その後、下に蠢く大量の餓鬼たちから逃げられるのか?

 ……いや、やるんだ。守るんだ。そして、証明するんだ。心優しき奴が正しいってことを。救われるってことを。


 蓮華は炎剣を生み出して臨戦態勢に入る。

 勝算はある。紗良々に貰ったあの血飴だ。あれさえ食べれば、蓮華は力を回復できる。


 蓮華は慎重にポケットへと手を忍ばせる。だがそれを成し遂げることはできなかった。

 餓鬼が背中に生える四本の腕を地面へと叩きつけた瞬間、巨大な赤黒い刃が地面から飛び出し蓮華を襲ったのだ。

 それは暮木と同じ血を操る力。餓鬼の持つ鬼の力の中で最も数が多いとされる〝業血〟だった。


「――くッ!」


 数瞬早く危険を察知した蓮華は身を翻し刃を回避しようとするも避けきれず、脇腹と腕を薄く切り裂かれる。鋭い痛みが突き抜けるものの幸いにも傷は浅く、血が滲み出る程度だ。

 もう血飴を取り出している暇はない。蓮華は地面から生えた業血の刃を潜り抜け、餓鬼へと距離を詰める。間合いに入り、炎剣を横に大きく振り抜く。

 しかし渾身の力で振り抜いた炎剣は宙を斬る。餓鬼はその恰幅からは想像もできないような身軽さと素早さで飛び跳ね回避したのだ。さらに餓鬼は空中で針状に形成した業血を投擲。蓮華が横に転がると、業血の針は的を外し石畳の地面を砕いて突き刺さる。


 宙へと飛んだ餓鬼は貯水塔の上へと着地。蓮華はその瞬間に狙いを定め、餓鬼へと炎弾を放つ。

 爆発音が轟き、闇が一瞬紅蓮に染め上げられるほどの業火が吹く。炎が沈むと貯水塔タンクが赤く熱を帯びて溶け、変形していた。それほどの威力だったにも関わらず、しかし餓鬼を滅することはできなかった。

 餓鬼の周りには卵の殻のような、業血の膜が形成されていた。その業血の膜は蓮華の爆炎を受け止め、錆が落ちるようにぼろぼろと崩れ落ちていく。


 餓鬼は驚異的な瞬発力で歪な貯水塔を蹴って飛び、縦横無尽に飛び跳ねながら蓮華に迫る。蓮華は素早い動きに翻弄されながらも懸命に目で捉え続け、横から獣のように食らいついてきた餓鬼の一撃を見切り、炎剣を下から斬り上げカウンターを仕掛けた。

 蓮華の斬り上げた炎剣は餓鬼の右肩を捉え、深く肉を切り裂く。血飛沫が上がり、餓鬼が身の毛もよだつような悲鳴を上げる。だがそれで餓鬼が怯んだのもつかの間、すぐに六本の腕を振り回し蓮華に殴りかかってくる。

 蓮華はその一振り一振りを慎重に見極め、回避を続ける。そしてその回避に乗じ、ここぞという時に餓鬼の振り込んできた腕に掌を添え――爆破。

 爆破の威力で餓鬼が仰け反り胴体に大きな隙が生じる。


「はああああッ!」


 その土手っ腹めがけ、蓮華は渾身の力で炎剣を突き刺す。そして爆破しようと、そう思ったのだ。だが、それは叶わなかった。


「な――ッ!?」


 キン、と硬い物に衝突した甲高い音。そして岩を木の棒でど突いたような衝撃。

 炎剣は餓鬼の腹を貫けなかった。いつの間にかそこには業血の盾が形成されていて、炎剣の刃を硬く拒んでいたのだ。


 その業血は植物の根のように形態を変え、蓮華の炎剣を瞬く間に絡め取る。そして強力な力で引っ張られて炎剣を奪われ、あらぬ方向へと投げ飛ばされてしまった。

 その結果、この上ない隙を作ってしまった蓮華は横から振り込まれた餓鬼の大きな拳に突き飛ばされる。

 骨に響くような衝撃を受け、地面に打ち付けられながら転がる。骨が、肉が、内臓が鈍痛に悲鳴を上げる。呼吸が苦しくなりながらも、蓮華は必死に起き上がる。だがその蓮華の目前に、奴はいた。


「ぐぅう……ッ!」


 蓮華は大きくておどろおどろしい餓鬼の手に体を掴まれて締め上げられ、宙へと持ち上げられる。三つの不気味な瞳が蓮華を覗き、餓鬼はヨダレを垂らした。


 もう力を使いすぎてしまった。これ以上鬼の力は使えない。どうすればいい……。どうすれば――と頭がショートしかける。


「蓮華お兄ちゃん……!」


 のぞみの声が聞こえる。

 どん、とどこかで蓮華の炎剣が爆発した音が聞こえる。

 そんな、この状況を打破するのに必要のない物ばかりが頭に入ってくる。


 ふと、空を見上げた。そこで蓮華は目にする。上空から一直線にこちらに落ちてくる何かを。

 『それ』は隕石のように餓鬼へと着弾し、踏みつぶした。餓鬼は突然の奇襲になす術なく地面にひれ伏し、その衝撃で蓮華を手放す。

 俯せに倒れ込む餓鬼の上に立つ落下物。それを認識した蓮華は、思わず目を見開いた。


「ターヤン……!」


 それは――いや彼は、マッチョ化したターヤンだった。


 ターヤンは蓮華を気にする様子もなく、無言のまま餓鬼の首を掴む。そして……捻り切った。その怪力で、無理矢理に餓鬼の首をもいだのだ。

 ぼきべきばき、と夢に出てきそうなグロテスクな音がした。当然、餓鬼は絶命。いくら上級の餓鬼と言えども、もう二度と動くことはない。


「あ、ありがとう、ターヤン……。助かったよ……。てか、起きてたんだな……」


 蓮華はなんとか立ち上がりながら礼を言う。

 正直驚いていた。まさかターヤンが助けに来てくれるとは思ってもみなかったことだ。


 しかし、どうしたのだろう。様子がおかしい。ターヤンは一言も喋らない。


「ターヤン……?」


 ターヤンは餓鬼の首を雑に投げ捨て、蓮華を見る。その目は悲しみと怒りの混濁したような、複雑な感情を宿しているように見えた。

 ターヤンは無言のまま餓鬼から降りる。そして蓮華に近づいて――


「ぐふッ!?」


 突然、蓮華の鳩尾に強烈な一撃を入れた。

 それも、冗談でやる威力じゃない。本気の一撃だ。

 太鼓を叩いたような音がして、内蔵が破裂したんじゃないかというくらいの激痛が腹の中を暴れ回る。息が苦しい。堪らず、蓮華はその場に膝を崩す。


「ター……ヤン……?」


 ターヤンを見上げる。ターヤンは、静かに蓮華を見下ろしていた。


 そしてターヤンが腕を振り上げた、次の瞬間。後ろ首に衝撃が走り、蓮華の意識はまどろみの中に消えた。


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