第十.五話 青の暗躍
丈一郎は駅前にあった商業施設で、エスカレーター前のベンチに腰掛けて至極真剣な眼差しを向けていた。
「……ピンクと紺……ですかね」
一人呟く視線の先でターゲッティングしていたのは、エスカレーターから下りてくる無駄にきゃぴきゃぴとはしゃいだ女子高生の二人組。ギャルというよりは、清楚な見た目の子たちだった。
事故により中止となったが、本日は花火大会の行われた休日だ。しかし彼女たちは浴衣を着ておらず、制服を着ていた。たまに休日の友人との交友も制服を好んで着て過ごしている女子高生がいるが、彼女たちもその部類なのだろう。丈一郎はそんな彼女たちを心の中で褒め称える。ミニスカートが絶景だった。
すると突然、彼女たちのミニスカートがハラリと不自然に舞い上がった。
「「きゃあ!」」
可愛らしい悲鳴と共に日の目を浴びる二枚のおパンツ。色は、黒と赤だった。しかも、二人ともセクシーな紐パンである。
「なんと……見た目によらず大胆な子ですね……」
予想が外れたことに悔しさを覚えながらも、眼福を得られたことに満足して丈一郎は立ち上がり、商業施設を後にした。もちろん彼女たちのスカートが捲れ上がったのは丈一郎の仕業である。小さな氷の粒を操れば造作もないことだった。
しばらく夜の街を歩いてから路地の奥に進み、そこにあった〝隙間〟からヘルヘイムへと入った。そして閑散とした無人の駅の南口へと回って、一つの柱の前で立ち止まる。そこには刃物で削ったように『不明』と彫り込まれていた。
「あなたでもわかりませんか……」
それは、丈一郎の『内通者』の残した報告だった。
あの緋鬼が鬼人をつくったと報せを受けた時は震えるほど歓喜したものだった。
これで、永きに渡る悲願が果たされるかもしれない――そう思うと高ぶる気持ちを抑えるのも大変なほどだった。
焦る必要はない。何も手出しをする必要などないのだから。丈一郎はただ、その時を待てばいいだけ――のはずだった。
だが、もう五日が経過しようとしている。蓮華が人を喰い鬼人になる気配はない。それどころか、人に紛れて普段通りの生活を過ごしている有様だ。
あり得ない。そんなことは、普通の鬼人もどきでは、あり得ない。
「緋鬼の鬼人だから……?」
緋鬼の鬼人には他とは違う何か特別な症状などがある可能性もある。しかし如何せん前例が少なすぎるため、明確な答えが導き出せなかった。
そしてもう一つ気がかりなのは、花火大会を中止に追い込んだほどの紗良々の〝暴走〟だ。
――彼女は何を……?
一体どうしたというのか、何を企んでいるのか、見えてこない。このまま待つだけでは、どうやら不安要素が大きすぎる気がした。
「……もう一度、彼に会う必要がありそうですね」
丈一郎はくるりと踵を返し、再びヘルヘイムの闇の中を闊歩する。
「させませんよ、蓮華くん。君を人間に戻すなんてね」