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第九十六話 屑と女騎士【奈落】

 楽しい夕餉が終わり、俺たちは寝床についた。いつもなら、お酒が入ったらいちゃこらするが、長旅の疲れで二人とも爆睡している。隣のベッドで寝ているレイラを横目で見ると、仰向けに寝ながら正拳突きをしていた。何と戦っているのやら……。ルリはいつもの如く、すやすやと寝息を立て静かに寝ていた。ときおり「裸がぁぁぁ」と唸っていたのは聞かなかったことにした。


 俺は間接照明の明かりで、空になったエリクサーの小瓶を眺めている。そして、病院で奇跡を目の当たりにした、テレサの姿を思い出す。


 包帯を外すと、綺麗だったテレサの顔が紫色の小鬼のように崩れていた。霊薬の効き目が現れると、凹んだ肌が盛り上がり、紫の肌がみるみる薄くなり白い柔肌に生まれ変わっていった。


 黒ずんでしわくちゃな手足は、剣士だったとは思えないほど痩せ細り、骨と皮だけが残っていた。それが、皮は次第に張りがでて膨らんでいく……ほっそりとした脚に変わり筋肉質な脚へと変化していった。 


 髪の毛は思い出しても身の毛がよだつ。薄くなった頭皮から、豆から発芽するもやしの再生動画のように、ニョキニョキと肩まで伸びて止まった。腰まで髪の毛が伸びなかったのに霊薬の意志を感じる。長髪も可愛かったがショートも中々いけたじゃない。


 後はおっぱいね! おっぱいは凄かったよ! 黒くなったおっぱいは、なんだか性癖を歪められたよ! おっぱいね! 何度も言うよ。おっぱいが好きだから! テレサのおっぱいは、ミサイルタイプだったよ! 包帯を取る振りして触ったよ! だってそこにおっぱいがあったから! 張りがあり、弾力のあるおっぱいだったよ! おっぱいには無限の夢がつまっているね! だってそれはおっぱいだから! おっぱいがもとに戻ったよ! おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい万歳!!    


 疲れとお酒のせいにして思考を止めた――


 ベッドから立ち上がり、テーブルに置いてある水差しからカップに水を入れ飲もうとした。ふと、右手に持った小瓶を見て、中に水を入れ飲んでみた。酒でも抜けるかと思ったが何の変化も感じず、カップに水を注ぎ飲んで寝た。


 不思議な夢を見る――


 自分の歯が、ボロボロと抜け落ちていく夢だ。ユング曰く、歯が抜ける夢を見ることは、人生において何か大切なものを失なったと解釈されるらしい。


 朝起きると口内がもごもごする。異物を感じて吐き出すと、詰め物がついた歯が数個ゴロリと床に転がった。失った物は、虫歯を治療した自分の奥歯であった。


 床に落ちた永久歯を拾いあげ、隣の屋根へと放り投げ(がん)を懸ける。


 まさかこの年で、もう一度、歯が生え替わろうとは思いもしなかった――

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