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第九十一話 屑と女騎士【開幕】

 テレサが収容されていると聞いていた病院を初めて見て、俺は目を見張った。大きな敷地に緑の芝が敷き詰められ、その中心には小さな噴水が置かれている。噴水の周りは、色とりどりの花で埋め尽くされていた。その後ろに、真っ白な石造りで出来た病棟が建てられていた。病院の施設と言うより、ヨーロッパの宗教施設である修道院によく似ている。


 俺がこの世界に来てから一度も、医療施設でお世話になったことはない。何故なら大抵の怪我や病気は、ポーションで治すからだ。ポーションが買えなければ、すなわち死に直結している仕事。冒険者を続けているうちに、病院という概念さえ俺は失っていた。


 テレサの入院が隠されている以上、この建物にどうやって入るのか不安になった。しかし、レイラが衛兵よりかなり立場が上だったみたいで、ギルド証を見せたらすんなりと建物の中に入ることが出来た。


「よく、通してくれたよな」


「テレサとはいわず、オレの仲間が運ばれて治療を受けているといったまでさ」


 彼女が所属しているパーティのランクの高さと、名声がこの王都まで浸透しているのに驚きを隠せなかった。


 建物の中に入ってしまえば、俺たちを疑う者は誰もいない。白い帽子を被り、ワンピースの上に白いエプロンを着た看護師にテレサの病室を尋ねる。看護師は何の疑いもなく、俺たちを彼女のいる病室まで案内してくれた。


「入って良いそうです」


 看護師がテレサに確認を取り、病室の中に入ることが出来た。俺たちは彼女の姿を見て、思わず息が止まった……。


 テレサは身体を包帯でぐるぐるに巻かれ、肌が露出している部分を探す方が難しかった。しかも長く美しかった銀髪が短く刈り取られ、無残にも頭皮から髪が抜け落ち凝視出来ないほど痛んでいた。 


「来てくれたんだな……ありがとう」


 か細い声で礼を言ってくる。レイラとルリは、何も言わずにテレサを軽く抱きしめた。


「おっちゃんも混ざれよ」


 レイラが軽口を叩いた。レイラの気配りに胸が熱くなった……。


 ベッドの周りでテレサたちは楽しく談笑している。俺は後ろで丸椅子に座って彼女たちを黙って眺めている。テレサが怪我をしていなければ、我が家でいつも見ている情景と変わらない。しかし時折見せるレイラの笑顔に、苦しみを隠す嘘が混じっていた事に気付いてしまった。


「テレサがおっちゃんと二人きりで喋りたいとさ」


「お、おう」


 俺は突然の振りに、不審げな目で彼女を見た。レイラとルリは気を利かせたのか、病室からそそくさと出て行った。


「テトラが無事に帰ったと聞いたぞ」


 濁った声に嬉しさが乗っていた。 


「母親にしこたま怒られてたよ」


 おどけた調子で俺はおしゃべりを続けた。


「そうか……それは見たかったな」


 彼女は力なく笑った……。


「テレサ姉のお土産と言って、沢山の服を選んでたわ。早くそれを着て俺に見せてくれ」


「馬鹿っっ、からかうな……そうだ、おっちゃん、私の宝剣ホワイトシグナスがパトリシア王女を救うのに大活躍したぞ」


「それは是非とも(・・・・)見たかったな」


 テレサは少し咳き込んで静かに笑う。彼女は痛みを我慢しながら腰を上げ、ベッドの横にある台に手を伸ばした。ある物をつかもうとするのだが、(ただ)れた指を上手く動かせず取ることが出来ない。やっとのことでそれをつかみ俺に見せようとしたら、手からこぼれ落ちた。 


「すまないがそれを拾ってくれ」


 俺は簡単にそれを拾い上げ、彼女の手に乗せた。彼女は、ひどく罰の悪そうな顔をしていた。


「白薔薇大字勲章だ、騎士団の中で生きてこれを授与されたのは私だけだ」


「それは凄いな! どれだけ活躍したんだよ」


「ハハハ、おっちゃんを支えられるぐらいの年金も貰えるぞ」


 彼女は俺の顔を見ながら苦悶の表情を浮かべた。


 時計の針を少し止める――――

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