第七十九話 ドワーフ王国【上巻】
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俺たちは舗装された道を歩いている。昨日までの苦労が夢のように思えた。
「そんなに簡単に入国出来るものなの?」
テトラは不安そうな顔をして俺を見つめる。
「心配するな、まかしておけ」
俺たちは入国管理している憲兵に近づく。
「お前たち……エルフと猿が何のようだ! エルフの顔など見たくもないわ、さっさと国に帰ってくれ」
テトラの顔が少しだけ青くなる。俺は直ぐに懐から銀のプレートを差し出した。それを見た憲兵は、テトラより顔色が悪くなった。
「も、申し訳ありませんでした。おっちゃん様とは知らずに失礼な態度を取りました」
憲兵は襟を正し、彼に頭を下げた。
「ああ気にするな、突然エルフや人間が現れたらそうなるよ」
「失礼は承知で……握手をして頂けませんか」
「山に籠もっていたから、かなり汚い手で良かったらいいぞ」
汗ばんだ手をズボンで拭き、右手を差し出す。そして、ガチムチな憲兵たちに囲まれながら握手を交わした。
「おっちゃん……何者なの?」
唖然としてまじまじと見つめる……。
「只の人間さ♪ 」
一度は言ってみたい台詞が言えた。
簡単に入国審査を終えた俺たちは、ドワーフ王国に入国した。
馬車に揺られながら白い町並みを見る。
「タリアの町にも、これだけ振動のこない馬車が欲しいな」
「ええ、同感。私の国でも、これだけ乗り心地のいい馬車はそうそうないわね」
テトラは初めて見る車窓からの景色を夢中で楽しんでいた。ノエルの家が近づいてきたところで、彼女にもうすぐ降りることを告げた。
馬車から降りて暫く歩くと、車の修理工場を思わせる二階建ての建物が見えてきた。
「ここが友人の家だ」
「私を受け入れてくれるかしら……」
彼女は心配するような目つきを俺に向けた。
「ノエルもリズも気さくで面倒見の良いドワーフ夫妻だから心配ないぞ」
大きく開いたままの扉を通り、仕事場に向けて
「おーい! ノエル遊びに来たぞ」
その声に気が付いた従業員の一人が駆け寄ってきた。
「おっちゃんさんじゃないですか! ノエルさんなら奥で仕事をしているので呼んできます」
「仕事中、すまないな」
暫くすると、ぽてっと腹の出た小さな親父が笑顔で近づいてくる。
「手紙も無しに不躾に来るとはお前らしいの!」
手紙など届くはずもなく、おっさんギャグで俺を迎えてくれた。
「速達で出したんだが、俺の方が早く着いちまった」
中々会心の返しだと自画自賛したかったが、テトラの冷たい目が何故か突き刺さった……。
挨拶の代わりに、 積み荷から一番高い酒を数本取り出し彼に手渡す。
「美味しく頂くわ」
受け取った酒を見て、満面の笑みを浮かべる 。
「で……この大量の酒は何じゃ?」
目ざとくそれを見た彼は俺の顔をじっと見る。
「実はこれを売って金に換えるつもりで持ってきたのよ」
ノエルの目の色が変わりソリに詰め寄った。
「これは全部わしのもんじゃ~~~~~~~~~~~~~」
何事かと作業場から従業員がぞろぞろ現れた。
「おやっさん、工場前で騒がないで下さいよ 」
ノエルが両手に抱え込んでる酒を見て
「この酒瓶の山は何ですか?」
「ああこれか……人間国から売るために持ってきたのよ」
「シー―ッ!!」
「買い占めなんてなんて酒癖の悪い爺だ!!」
場は騒然となり、俺の目的は一瞬で達成された。
嬉しそうに酒瓶を抱えて持って行く、従業員の背中を見送る。
「すまないが、勝手に狩り場を使わせて貰って ボウワの皮を狩ってきた。これも金にしてくれないか」
「ちょうど良かったわい……欲しかったところじゃ。それに狩り場を教えた以上、遠慮なんぞするな」
俺は彼の親切が嬉しかった。
「詳しいことは中に入ってからで良いな」
ようやく家に招かれた。
「また来てくれて嬉しいわ」
リズはにこやかに俺たちを迎えてくれた。
「あの……エルフ国から来ましたテトラと申します」
「あらあら可愛い女の子ね、でも泥だらけじゃない。お風呂の用意をするから暫く待って頂戴」
自己紹介もせずバタバタと風呂の用意をしにいった。
「わしはノエル、ここの工場を仕切っている。そしてさっきの慌てん坊が女房のリズじゃ」
リズが戻ってきたところで、此処に来た経緯を話した。
「そりゃー苦労したのお嬢ちゃん、わしらが力になってやるので安心してくれ」
リズは少し涙ぐみながら
「テトラちゃん、よく頑張ったわね。ここを家だと思ってゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
「エルフ皇国じゃが、ここから歩いていこうと思ったら、旅慣れていたとして十日以上はかかる。道中にはかなり大型の野獣や大鬼が出るのでお勧めは出きんぞ……行くなら必ず馬が必要じゃ」
「流石にこの程度の売り上げで、馬は買えそうもないな」
「取りあえずわしがほかの道を当ってやるから、今日はゆっくりと泊まっていってくれ」
「そう言えばあなた……さっき抱きかかえて部屋に持って行ったのは何なのかしら!?」
「あ、あそれは……そうじゃ! 今日おっちゃんが持ち込んだボウワの皮じゃ」
耳を引っ張られながら奥の部屋に引っ張られて消えていった。奥の部屋からノエルの悲痛な叫び声が聞こえて耳を塞いだ。
* * *
俺たちは久しぶりのお風呂を心ゆくまで楽しみ、旅の疲れを取る。
風呂から上がると、テーブルには溢れんばかりの、リズさんの手作り料理が並んだ。
一皿ごとに大量の肉料理が盛られている。テトラはそれを切り取り皿に載せ、料理を口に入れる度にテトラの顔は蕩けた。
「おいひい、美味ひいよ~」
テーブルの大皿から次々と料理が消えていく。
「本当に美味しそうに食べてくれて作った甲斐があったわ」
「この酒も旨いな」
ノエルが顔を緩ませ酒をグビグビ飲み干す。
「貴方はもう飲まないでよろしい」
酒瓶を取り上げ、自分のコップになみなみと酒を注ぐ。リズはグビリと酒をあおり、美味しそうに飲んだ。
長旅で疲れた身体に酒がしみる。美味しい酒と料理に囲まれる……そこに友人がいる。当たり前のようなことが出来ないこの現実に、しんみりとした気分になる。
「なに、暗い顔をして飲んでるのじゃ! 飲め、飲め」
進められるままに、酒を浴びるほど飲んだら、そんな気持ちは消えましたがなにか――
食事も一段落ついて、客間に通された俺たちは久しぶりの布団で幸せに包まれた。




