第六十二話 九つの匣【問題編】
「だからでしゅねぇーおっちゃんさん、ちゃんと聞いてましゅか!」
マリーサさんが赤い顔をしながら、呂律の回らなくなった口で語りかけてくる。
「ああ、聞いてるとも」
完全にMMUだ。
「店員しゃーーーん、もう一杯!」
ジョッキを高く掲げて酒のお代わりを要求する。同じことを経験したことがあるようなデジャブに取り憑かれる……俺もかなり酔ってきたらしい。
事の起こりはターニャに拉致られた後ギルドに顔を出したとき――
「十日も連絡無しでよくここに来ることが出来ましたね!」
なんだかマリーサさんがお冠のようです。
「冒険者が数日間、帰ってこないなんてざらだぞ」
「何いってんですか! 前日の受付で『明日は日帰り仕事で飲みまくるぞっ』てあんなにはしゃいでたのを忘れたのですか? それがいくら待っても帰ってこず……呆れます」
「すまなかった、今度からちゃんと帰ってくるから」
母親に怒られているようだ。
「だから今から着替えてくるので待っていて下さい。
ギルドの窓口に『close』の札を貼り付け奥の部屋に消えていった。
「なんでそうなるのかよく分からんのだが……」
そう言って、頭をボリボリと掻く。暫くして社員の出入口から出てきた私服の彼女は、人目もはばからず俺の腕に手を回し二人でギルドを後にした。
「まだ|おっちゃんさんに預けた(・・・・・・・・・・・)酒は沢山残っているんですよ」
なんだかリボ払いより悪質なのは気のせいだろうか?
冒頭に戻る――
「魔の森じゃなく北の森だちゅーにぃ」
酒の匂いが届くほど近い距離で彼女は話す。
「それは知らなかったなぁ」
「100年前の北の森は魔族がばりおりでしゅ。至る所に魔人です! 怖いでしゅ、前魔王が死んで喜んだら今度は大魔王がでてきて…ういっく」
「マリーサさん! もう飲み過ぎですよ」
「魔王無双で……げっふ……魔族の国をまとめちゃったのね。でもでも魔王しゃん人に喧嘩も売らずに内政爆上げよ~やっぱ争いより内政の方が私萌えなのよね」
俺も内政無双が好きだとお互いに意気投合して酒が進む進む。
「で、人間の方が魔族領にしんげぇーーーーき。我が祖国のローランツ王国は、若き王子が40万の大惨敗でうけるーーーーーー。魔王さま一人の兵だけ帰還させ、お土産に王子の首って鬼畜過ぎない? 」
「こっわぁー魔王こっわぁー、お姉さん俺にも果実酒一杯お願いね! お酒濃いめで」
「ここからさらにエグイのよね! 王様から世継ぎ順に首切ってもってきたら戦争おしまい♪ 持ってこなかったら分かるよね! 蹂躙! 蹂躙!」
で、箱に王族くびここのつつめて――ハイ和平。そりゃあ守るっしょ『魔の森のお約束ごと』
俺はちょろちょろ入国してくる友人を少し心配した……いや俺も土とか持って帰るのは止めようかしら(猛省)。
「力こそ正義の魔王しゃんて少しあこがれるよね。あ~このアルコポップおかわり」
(俺は会いたくないっすけどね)
「魔王の森の由来バネェっす! 魔王様にカンパーイ」
テーブルの上には空になったグラスと皿が増えてくる。
「でもね、国が三つに分かれた我が祖国も人口倍増ってほめてほめて」
マリーサさんをわしゃわしゃしているわ! 俺。
「うっ~~ひっく……『九つの匣』の話、ガキンチョのとき超怖かったよォ」
「いやいや、俺今聞いても怖いよ、肉の串刺し三本追加」
二人の与太話は店が閉店するまで続いた。




